静の強さ
数日後、練習を終えたあと。
ふと思い出す。
(弓道……)
あの日の剣道。あれだけでも、十分すぎたはずなのに。
(他にも、あるんだよな)
足が、自然とそちらへ弓道場へ向かう。
静かだ。
剣道場とは違う空気。
音が、ない。
引き戸の隙間から、中をのぞく。
――いた。
真田巴。
白い道着に、袴。
いつもよりも、更にすっきりとした印象。
長い手足が、そのまま線になる。
(……綺麗だな)
思わず、そう思う。
構えに入る。
弓を持つ手。
引く腕。
ゆっくりと、静かに。
無駄がない。
呼吸すら、見えるような動き。
(これも、同じ人かよ)
剣道のときの鋭さとは違う。
静かで。
張り詰めていて。
でも、確かに強い。
弓を引ききる。
一瞬の時間が止まる。
そして。
――放つ。
ヒュン。
矢が走る。
――カン。
的の中心。
(……は?)
思わず息を止める。
音が戻る。
体が動かない。
(……なんだよ、それ)
強さの形が、違う。
(でも全部、本物だ)
じわじわと、実感が広がる。
見ていたはずなのに。
何も知らなかった。
(……すげえな)
それしか出てこない。
気づけば。
少し、口が開いていた。
「……やっぱり」
後ろから声。
振り向く。
西園寺さつき。
腕を組んで、こちらを見ている。
「そんな顔になるよね」
「……」
何も言えない。
西園寺が、軽く笑う。
「巴様って、そういう人だから」
その視線は、道場の中へ。
「陸上だけじゃないの」
「全部、本物」
言い切る。
「剣道も、薙刀も、弓道も」
「全部、上のレベル」
誇るように言う。
「だから巴様なんだよ」
その言葉。さっき、直樹たちが言っていたものと重なる。
でも、今は意味が違う。
(……そういうことか)
目の前にある現実。
それが、そのまま答えだった。
巴が、次の動作に入る。
静かに。
でも、迷いなく。
(遠いな)
素直に思う。
(いいな)
それ以上に。
そう思った。
ただ強いだけじゃない。
ただすごいだけじゃない。
全部が、まっすぐだ。
(……好きだな)
ふと、そう思った。
理由なんて、もういらない。
ただ、見ていてそう思った。




