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知らなかった強さ

 放課後。

「はい、ここ」

 彩音がノートを机に広げる。

「この範囲、絶対出るから」


「マジで?」

「マジで」

 横で直樹が問題集をめくる。

「とりあえず暗記しろ」

「雑だな」

「時間ねえんだよ」


 机に向かう。

 久しぶりの“ちゃんとした勉強”。

(……きつい)

 走るのとは違う疲れ。


「集中」

 彩音に軽く小突かれる。

「してるって」

 ノートを見る。


 歴史。

「源平合戦……」

 ページをめくる。

 その中に。

「……巴御前」

 手が止まる。


(この名前……)

 どこか引っかかる。

 なんとなく気になって。

 スマホを取り出す。

「ちょっと調べる」

「勉強しろよ」

 直樹のツッコミ。

「一応、歴史だ」

 そう言って検索する。


 ――巴御前。

 表示される説明。

 女武者。

 戦場で戦った女性。

(……へえ)

 さらに読む。

 武勇に優れ。

 首級を挙げ。

 馬上で戦い。

(……は?)

 スクロールが止まらない。

(ちょっと待て)


 文章を、もう一度読む。

(これ……)

「凄くね?」

 思わず口に出る。

「なにが?」

 彩音がのぞき込む。

「巴御前」

「強いよね」

「強いってレベルか?」

 直樹も横から見る。


「確かにすげえな」

「いや、これ普通に……」

 言葉を探す。

「戦場の最前線で戦ってるじゃん」

「うん」

「しかも普通に勝ってるし」

「うん」

「何者だよこれ」

 彩音が少し笑う。

「歴史上の人だよ」

「それは知ってる」

 三人で少しだけ笑う。


 でも、画面から目が離れない。

(……やばいな)

 頭の中に、映像が浮かぶ。

 戦場、馬、刀。

 その中で戦う、一人の女性。


(こんなのいるのかよ)

 小さく息を吐く。

「……巴って名前、すげえな」

 ぽつりと言う。

「まあ、かっこいいよね」

 彩音が軽く返す。

「……いや」

 首を振る。

「名前負けしてないのがやばい」

 一瞬、二人がきょとんとする。


「どういう意味?」

「いや」

 少しだけ考えてから。

「なんか……」

 言葉を探す。

「強い感じ、するだろ」

 曖昧な言い方。


 自分の中では、しっくりきていた。

 グラウンドでの姿。

 まっすぐな走り。

 あの圧。

(……重なるな)

 ほんの少しだけ。

「……まあ、いいや」

 スマホを置く。

(考えても仕方ない)


 現実に戻る。

「ほら」

 彩音がノートを指す。

「テスト、落ちたら終わりだよ」

「……はい」

 三人で、また勉強に戻る。


 でも、頭のどこかに。

 “巴御前”の姿が残っていた。

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