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やさしい距離

 放課後、練習が終わる。


「……っはぁ……」

 その場に座り込む。

 足が重い。

 呼吸がまだ荒い。

(きつ……)

 初日じゃないのに。


(慣れねえな、これは)

 地面を見つめる。

 そのとき。

「……あの」


 小さな声に顔を上げる。

 一人の小柄な女子。


 少しだけ距離を取って立っている。

 白石ひより。

 見覚えはある。


 でも、話したことはない。

「これ……」

 差し出される。

 スポーツドリンク。

「え?」

「よかったら……」

 遠慮がちに。


「……ありがとう」

 受け取る。

 冷たさにそれだけで、少しだけ楽になる。


「……すみません、急に」

「いや、大丈夫」

 一口飲むと喉にしみる。

「助かる」

 ひよりが、少しだけほっとした顔をする。


「……あの」

 ひよりが少しだけ勇気を出すように言う。

「ずっと、見てました」

「……え?」

「最近、ずっと走ってるの」


 目は合わせない。

 でも、言葉はちゃんと出る。

「すごいなって」

 一瞬、言葉に詰まる。

「……すごくはないだろ」

「そんなことないです」

 すぐに否定される。


「毎日、来てるし」

「キツそうなのに、やめないし」

 ひよりの言葉は、静かだけど。

 ちゃんと、見ていた言葉だった。


「……まあ」

 少しだけ、視線を逸らす。

「やるって決めたから、それだけだよ。」


 ひよりが、少しだけ笑う。

「いいと思います」

 その言い方。

 優しい、ただ肯定するだけ。

「……ありがとう」

 さっきとは少し違う意味で言う。


 また、少しだけ沈黙。

 今度は、自然だった。

「……じゃあ」

 ひよりが少し下がる。

「頑張ってください」

 軽く頭を下げる。

「ああ」

 短く返す。

 ひよりはそのまま去っていく。


 足音も、ほとんど残さず彼女は去り。

 一人になる。

 手の中のボトルを見る。

(見てた、か)

 巴とは違う。


(でもちゃんと見てるやつ、いるんだな)

 小さく息を吐く。

 もう一口、飲む。


 さっきより。

 少しだけ、楽だった。

 

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