差と、それでも
入部初日。
「じゃあ、アップからな」
顧問の声。
軽く流す。
……はずだった。
(……速くないか?)
周りのペースについていく。
つもりで、足を動かす。
呼吸が、乱れる。
まだ序盤なのに。
「遅れるなー」
先輩の声。
「……っ」
歯を食いしばる。
(こんなもんかよ)
甘く見ていたわけじゃない。
(全然違う)
基礎体力。
動き。
全部が違う。
次のメニュー。
ダッシュ。
「本数いくぞ」
(来たな)
スタートに立つ。
横を見る、真田巴。
同じライン。
(ここか)
息を整える。
「よーい」
緊張。
「ドン!」
飛び出し、足を前に出す。
腕を振る。
(速っ……)
一瞬で離される。
視界の端で。
巴の背中が、前に行く。
軽い、無駄がない。
伸びるような加速。
(違う)
完全に。
(レベルが)
同じ“走る”でも中身が違う。
ゴール。
「……っはぁ……!」
膝に手をつく。
肺が焼ける。
顔を上げる。
巴は、もう戻ってきている。
呼吸も、乱れていない。
(……すげえな)
悔しさより先に。
そう思った。
次また走る。
また、離される。
何本やっても。
差は、縮まらない。
(当たり前だろ)
わかってたけど。
(ここでやめるか?)
違う。
足を動かす。
きつい苦しい。
でも、止まらない。
「……いいね」
声に、横を見る。
巴が、こちらを見ている。
「落ちてない」
短く言う。
「普通はもっとバテるよ」
その評価。
少しだけ、息が整う。
「……そっか」
苦笑する。
「まだ全然だけど」
「知ってる」
巴がくすっと笑う。
「でもさ」
一歩、距離を取る。
「食らいついてるじゃん」
その一言だけで。
(……十分だ)
胸の奥が、少し軽くなる。
再び、スタートに立つ。
(まだいける)
足に力を込める。
前を見る。
その先に巴の背中。
(追いつく)
無理でもいい。
それでも。
(離されっぱなしは、嫌だ)
走る。
ただ、それだけだった。




