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近くで見るということ

 グラウンドに着く。

 夕方の光が、少しだけ赤い。

 息が上がる。

 でも、止まらない。


(……いた)

 視線の先。

 真田巴。

 トラックの端で、軽く体を動かしている。


 遠くからでもわかる。

 あのシルエット。

 長い手足、無駄のない動き。


 でも、近づくほどそれは“別物”になる。

(……でかいな)

 190センチ。

 改めて、実感する。

 ただ大きいだけじゃない。

 均整が取れている。


 肩幅、腕、脚。

 全部が、無理なく繋がっている。

 走るための体。


 それ以上に――

(存在感、すげえ)

 そこにいるだけで、周囲の空気が変わる。

 夕日の中でも、埋もれない。


 風が吹く。

 高い位置で結ばれた、ポニーテールが揺れる。

 毛先がしなやかに弾む。

 でも首も、背筋も、軸は一切ぶれない。


 近くで見ると。

(……綺麗だな)

 思わず、そう思う。


 日焼けした肌。

 光を受けて、ほんの少しだけ艶がある。

 汗が、首筋を伝う。

 それすら、どこか自然で作っていない“強さ”がある。


「真田」

 声をかける。

 巴が振り向く。

 大きくまっすぐな視線。


「朝比奈」

 名前を呼ばれる。

 その距離、近い。


(……やっぱ、違う)

 教室で見るのとも。

 遠くから見るのとも。

 全部違う。


「どうしたの?」

 息が少し上がっている俺を見て巴が言う。

「……さっきの」


 一歩、近づく。

「ありがとう」

 はっきり言う。

 巴は少しだけ目を瞬かせる。

「別に」

 あっさり。

「思ったこと言っただけ」

 

 その声は、少しだけ柔らかかった。

「それでも」

 言葉を続ける。

「助かった」

 


 一瞬、巴が少しだけ視線を逸らす。

 風が吹く。

 ポニーテールが揺れる。

「……まあ」

 小さく言う。

「変な噂だったし」

 その言い方。

 

 いつも通りだけど。

 ほんの少しだけど。

 照れているようにも見えた。


「でもさ」

 巴がこちらを見る。

「次からはちゃんと言いなよ」

 まっすぐな言葉。


「否定くらいしないと」

「……ああ」

 小さく頷く。

「わかった」

 素直に。


 巴が、少しだけ笑う。

「それならいいよ」

 短く。


 その距離は近いまま。

 でも、不思議と。

 居心地は悪くなかった。

(……こういう距離か)

 

 ただ見ているだけじゃなくて。

 ちゃんと話す距離は、心地よい。

(悪くないな)

 むしろ。

(いいな)

 そう思えた。


 巴がふと思い出したように言う。

「そういえば」

 視線をこちらに向ける。

「顧問がさ」


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