頭を下げる理由
教室の空気が、静かに揺れていた。
さっきまでの“確信”は消えて。
残っているのは――
戸惑いと、気まずさ。
西園寺さつきが、ゆっくりと視線を落とす。 その周りの女子たちも、同じだった。
(……やばい)
そんな空気。
「……行こ」
誰かが小さく言う。
西園寺たちが、そそくさと教室の出口へ向かう。 逃げるように。
その時。
「おい」
直樹だった。
教室の空気が、また止まる。
「そのまま出ていくのか?」
振り返る、西園寺たち。
「……え?」
「謝れよ」
はっきりとした声。
「全員で」
一瞬、空気が張り詰める。
「……」
西園寺が言葉に詰まる。
その時。
「……いい」
恒一が、口を開く。
「わかってもらえたなら、それでいい」
静かな声。
「別に、謝らなくても」
その言葉に。
空気が少しだけ揺れる。
「いや」
西園寺が、小さく言う。
ゆっくりと、恒一に振り向く。
顔を上げる。
「……ごめん」
その一言で、続くように。
「……ごめんなさい」
「すみませんでした」
ぽつり、ぽつりと。
そして全員が頭を下げた。
教室が、完全に静まる。
恒一は、その光景を見ていた。
(……なんか)
変な感じだった。
嬉しいわけでもなく。
勝ったわけでもなく。
(ただ終わったな)
それだけだった。
「……もういいよ」
小さく言う。
西園寺たちは、ゆっくりと顔を上げる。
さっきまでの強気な表情は、もうない。
そのまま、何も言わずに教室を出ていった。
静寂。
そして。
キーンコーンカーンコーン――
チャイムが鳴る。
いつも通りの音。
でも。
教室の空気は、少しだけ違っていた。
誰も、もう笑っていない。
代わりに。
どこか、認識が変わったような視線。
朝比奈恒一を見る目が――
ほんの少しだけ変わっていた。
授業が始まる。
日常はが戻る。
でも確実に。
何かは変わっていた。




