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恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
第3章 真白な頁に名前が灯る編

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第226話 告白に気づいていない?


 巴との電話を切った千夜は、自分の部屋で、すぐに別の番号を選んだ。


 彩音だった。


 数回の呼び出し音のあと、電話がつながる。


『もしもし?』


「彩音?」


『前田さん? どうしたの?』


「こんな時間にごめん」


『別に大丈夫だけど』


 千夜は少し迷ってから口を開いた。


「巴が今日、朝比奈君に告白した」


『……え?』


「告白した」


『ちょっと待って。告白したの?』


「うん」


『待つって話じゃなかった?』


「そうなんだけど……」


『ちょっと待ってね』


「何?」


『今、基樹が近くにいるから。スピーカーにする』


「基樹くんが?」


『うん』


 少しして、基樹の声も聞こえてきた。


『前田さん、こんばんは』


「こんばんは。こんな時間にごめんね」


『大丈夫ですよ。それで、真田さんが告白したんですか?』


「うん」


『結果は?』


「それが分からないの」


『分からない?』


「巴本人も、成功したのか失敗したのか分からないって」


『どういうこと?』


 彩音が聞いた。


「順番に話すね」


 千夜は、さっき巴から聞いたことをそのまま話し始めた。


「巴が好きだって言ったら、朝比奈君も好きだって言ったらしいの」


『恒一が?』


「うん」


『真田さんのことを?』


「……そこが分からない」


『何で?』


「それから巴が、できるならずっと一緒にいたいって言ったんだって」


『うん』


「そしたら朝比奈君が、ずっとは無理だって」


『……何で?』


「時間が経てば、いつかいなくなるからって」


『いなくなる?』


 基樹が聞き返した。


「ずっと同じままではいられない、とも言ったらしい」


『何の話だ、それ』


「私が聞きたいよ」


 千夜は額を押さえた。


「でも、そのあと巴が一緒にいたくないのかって聞いたら、朝比奈君は、できるならずっと一緒にいたいって言ったんだって」


『……』


「好きだとも、もう一回言ったらしい」


『ちょっと待って』


 彩音の声に困惑が混じった。


『好きで、一緒にいたい。でもずっと一緒にはいられない?』


「そう」


『いつかいなくなる?』


「そう」


『意味分からないな』


「でしょ?」


 千夜は大きく頷いた。


「それで巴、朝比奈君が転校するんじゃないかって心配してるんだよ」


『転校?』


「うん。どこか別の学校に行く予定があるんじゃないかって」


『そんな話、聞いたことないよ』


 彩音が答えた。


「引っ越す予定があるんじゃないかとも言ってた」


『それも聞いてない』


「それか、家庭の事情でどこか遠くに行くのかもしれないって」


『俺も何も聞いてませんね』


 基樹が答えた。


「本当に?」


『はい』


「二人が知らないだけってことはない?」


『それはあるけど』


 彩音が少し考えた。


『でも、転校とか引っ越しみたいな大きなことなら、たぶん私たちには相談すると思う』


「そうなの?」


『あいつ、そういうこと結構相談してくるから』


 基樹も続ける。


『自分だけじゃ判断できないと思ったら、俺たちに聞きますよ』


「そんなに相談するの?」


『昔からするよ』


 彩音が答えた。


『恋愛の時もしてたし』


「ああ、それは前に聞いたね」


『いろんな子に交際を申し込んでは断られてたって話?』


「うん」


『その頃も相談されてたよ』


「告白する前に?」


『する前もあったし、したあともあったし』


「じゃあ、二人の言うとおりにしてたの?」


『それは別』


「別なの?」


『恒一って、相談しても必ずその意見に従うわけじゃないから』


「じゃあ何のために相談するの?」


『意見を聞きたいんじゃない? 「お前ならどう思う?」みたいに』


 基樹も続ける。


『聞いたあとで最後に決めるのは恒一ですよ』


「なるほど」


 千夜は少し考えた。


 この二人とつながっていれば、朝比奈君についての情報はかなり入ってくるのかもしれない。


「じゃあ、朝比奈君に何か大きなことがあったら、二人にはだいたい話が来るんだね」


『だいたいはね』


「必ず?」


『必ずとは言わないよ』


 彩音が答える。


『私たちだけじゃないし』


「他にもいるの?相談相手」


『純也』


「三浦純也くん?」


『知ってる?』


「知ってるよ。同じクラスだし」


『そうなんだ』


「基樹くんの従兄弟の三浦くんだよね?」


『そうそう』


 彩音が続ける。


『最近、恒一は純也とも結構話してるから、私たちが知らなくても純也には相談してる可能性はあるかな』


「そっか」


『でも、転校とか引っ越しみたいな大きな話なら、俺たち全員に何も言わないってのは考えにくいと思います』


「やっぱりそう?」


『はい』


 千夜は少し黙った。


「それでも巴、分からなくて……最後には朝比奈君が病気なんじゃないかって心配してる」


『病気?』


「余命いくばくもなくて、だから好きだけどずっと一緒にはいられないんじゃないかって」


 少し間があった。


『……ははっ』


 基樹が笑った。


「基樹くん、笑わないで」


『いや、だって恒一ですよ?』


「私もそう思ったけど」


『あいつ、ほとんど学校休んだことないですよね』


『そうね』


 彩音も同意した。


『毎日あれだけ陸上部で走って、それで剣道までやってるんですよ。そんなやつが死にかけてるとは思えないでしょう』


「私も同じようなこと言ったよ」


『ですよね』


「それでちょっと笑ったら、巴に怒られた」


『怒られたんですか?』


「『笑い事じゃない。私は本当に心配してるんだ』って」


『……ああ』


 基樹の笑いが止まった。


『それは悪かったです』


「本人、本気なんだよ」


『でも、恒一が大きな病気だなんて、私は聞いたことないよ』


「うん」


『俺もないです』


「だよね……」


 千夜はため息をついた。


「じゃあ、朝比奈君は何のつもりであんなこと言ったんだろう」


『それなんだけど』


 彩音の声が少し変わった。


「何?」


『前田さん。巴が実際に何て言ったか、もう一回確認していい?』


「うん」


『ちゃんと「朝比奈君のことが恋愛として好き」って言ったの?』


「……そこまでは言ってないと思う」


『「付き合ってほしい」は?』


「言ってない」


『じゃあ、何て?』


「好きだって」


『それだけ?』


「それと、ずっと一緒にいたいって」


『その時、二人は何してたの?』


「夕焼けを見てた」


『……夕焼け?』


「うん。練習が終わって、人もほとんどいなくなって、二人で見てたみたい」


『それ、恒一は夕焼けの話をしてたんじゃない?』


「え?」


『「好き」も、「ずっとは無理」も、「時間が経てばいなくなる」も』


 千夜は黙った。


『夕焼けの話なら、そんなにおかしくないでしょう?』


「……」


『俺もそう思います』


 基樹が続けた。


『真田さんは自分のことを話してるつもりで、恒一はずっと夕焼けの話をしてたんじゃないですか?』


「じゃあ……」


 千夜は目を瞬いた。


「朝比奈君、巴に告白されたって気づいてない?」


『その可能性が高いと思う』


 彩音が答えた。


「でも、好きだって言ったんだよ?」


『何が好きなのか、はっきり言ってないんでしょう?』


「そうだけど……」


『「ずっと一緒にいたい」も、巴が思ってる意味で受け取ったとは限らないし』


「そんなことある?」


『恒一だからね』


 彩音が即答した。


「またそれ?」


『でも今回は本当にそうだと思う』


 基樹も続ける。


『振ったとか振られたとか以前に、真田さんが告白したこと自体に気づいてない可能性がありますよ』


「……」


 千夜は頭を抱えた。


「巴だけ告白したつもりだったってこと?」


『たぶん』


「何なの、それ……」


 千夜は大きく息を吐いた。


 そして、そこで別の問題を思い出した。


「でも、それ巴に言えない」


『何で?』


「この前、三人で話したでしょ。まだ告白しない方がいいって」


『うん』


「それで私、巴を止めるために嘘ついたんだよ」


『嘘?』


「朝比奈君は夕焼けが嫌いだって」


『……そんな話、私した?』


「してない」


『してないよね』


「彩音と基樹くんから聞いたことにして、私が勝手に言ったの」


『俺たちから聞いたことにしたんですか?』


「うん、ごめん」


『そこまでしたの?』


「だって、まだ告白しない方がいいと思ったから」


『それなのに、夕焼けを見ながら告白したのね』


「そう」


『……前田さんも大変ね』


「本当にね」


 千夜はため息をついた。


「だから巴に、朝比奈君は夕焼けの話をしてたんじゃないかなんて言ったら……」


『前田さんの嘘がばれるね』


「そうなんだよ」


『じゃあ、夕焼けのことは言わなくていいよ』


「え?」


『巴には、恒一に告白だと思われてない可能性が高いって、それだけ言えばいいんじゃない?』


「それだけ?」


『それだけでいいと思う』


「夕焼けのことは?」


『言わなくていい』


 彩音はあっさり答えた。


『巴が恒一は夕焼けが嫌いだと思ってるなら、今はそのままでいいでしょ』


「……私の嘘は?」


『それはまた別の話』


「また別の話か……」


『今は、巴が振られたわけじゃないって分かれば十分じゃない?』


 基樹も続ける。


『俺もそう思います』


「そっか」


 千夜は少し考えた。


「でも念のため、明日三浦くんにも聞いてみようかな」


『純也に?』


「うん。本当に朝比奈君が転校するとか、引っ越すとか、何か事情を聞いてないか」


『そこまで確認する?』


「巴に話す前に、一応ね」


『まあ、同じクラスならすぐ聞けるか』


「うん」


 千夜は頷いた。


「二人ともありがとう」


『どういたしまして』


『いえ』


「そうだ、基樹くん。電話番号教えてもらってもいい? また何かあった時、直接聞けた方が便利だから」


『いいですよ』


 千夜は基樹の番号を聞き、その場で連絡先に登録した。


「こんな時間にごめんね」


『大丈夫』


「じゃあ、また」


『またね』


 電話を切った。


 千夜は、そのまましばらくスマートフォンを見つめていた。


 どうやら。


 巴は振られたわけではない。


 それどころか、告白したこと自体、恒一には伝わっていない可能性が高い。


「……何なの、この二人」


 千夜はベッドに倒れ込んだ。


 そして明日は、念のため三浦くんにも確認しなければならない。


「……巻き込まれる人、多すぎない?」


 巴と恒一。


 二人の恋愛のはずだった。


 それなのに、どうしてこんなに周りの人間が必要になるのだろう。


 千夜は天井を見上げ、大きなため息をついた。


「私の苦労、大きすぎるよ……」



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