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恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
第3章 真白な頁に名前が灯る編

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第225話 いなくなるって、どういうこと?


 夜。


 千夜が自分の部屋にいると、スマートフォンが鳴った。


 画面を見る。


 巴だった。


「もしもし?」


『千夜』


「うん」


 声を聞いた瞬間、千夜は少し眉を寄せた。いつもの巴より、明らかに元気がない。


「どうしたの?」


『……ごめん』


「何が?」


『お前の言うことを聞かなかった』


「……え?」


 嫌な予感がした。


「何したの?」


 少し間があった。


『告白した』


「……」


 千夜は数秒黙った。


「告白したの!?」


『ああ』


「待ってって言ったよね!?」


『言われた』


「タイミングは私が考えるって!」


『分かっている』


「じゃあ、どうして告白したの!」


『夕焼けが綺麗だったんだ』


「……」


 千夜は額を押さえた。


 それは、以前巴が自分に話していた理想の場面だった。


 部活が終わったあと、人の少なくなったグラウンド。夕焼けの中で恒一と二人きりになって告白する。


「だから、その夕焼けで告白するのを止めたんだけど」


『分かっている』


「分かっててやったの?」


『……すまない』


 巴の声が小さくなる。


 千夜はため息をついた。


「……それで?」


『何がだ?』


「結果だよ。告白したんでしょ?」


『ああ』


「どうだったの?」


 巴が黙った。


「巴?」


『……分からない』


「何が?」


『成功したのか、失敗したのか』


「……どういうこと?」


 千夜は首を傾げた。


「好きって言ったんだよね?」


『言った』


「朝比奈君は?」


『好きだと言ってくれた』


「じゃあ成功じゃない!」


 千夜は思わず声を上げた。


『私も、そう思った』


「思った?」


『だが』


 巴の声が沈む。


『ずっと一緒にはいられないと言われた』


「……は?」


 千夜の表情が止まった。


「何で?」


『分からない』


「どういう話をしたの?」


『私は、できるならずっと一緒にいたいと言った』


「うん」


『そうしたら、恒一は無理だと言った』


「……うん」


『時間が経てば、いつかいなくなるから、と』


「いなくなる?」


『ああ』


「誰が?」


『多分、恒一のことだと思う。だけど分からない……』


「……何それ」


 千夜はますます分からなくなった。


『ずっと同じままではいられない、とも言っていた』


「朝比奈君が?」


『ああ』


「それで?」


『私は、一緒にいたくないのかと聞いた』


「うん」


『そうしたら、できるならずっと一緒にいたいと言ってくれた』


「……」


『好きだとも、もう一度言ってくれた』


「……じゃあ何なの?」


『私にも分からない』


 巴の声には、本当に困惑が混じっていた。


『好きだと言ってくれた』


「うん」


『一緒にいたいとも言ってくれた』


「うん」


『でも、ずっと一緒にはいられないらしい』


「何で?」


『だから分からない』


「私も分からないよ」


 千夜は頭を抱えた。


 どう考えても意味が分からない。


『もしかして、恒一は転校するのかもしれない』


「転校?」


『ああ。だから、ずっと一緒にはいられないと言ったんじゃないか?』


「そんな話、聞いたことないけど」


『じゃあ、引っ越す予定があるとか』


「それも聞いてないよ」


『家庭の事情で、遠くへ行くことになったとか……』


「巴、ちょっと考えすぎじゃない?」


『だが、それなら話はつながるだろう』


「まあ……そうかもしれないけど」


 少し間が空いた。


『もしかして……恒一は、余命いくばくもないとか?』


「……は?」


『だから、私のことは好きだけど、ずっと一緒にはいられないって言ってるんじゃないか?』


「そんな馬鹿な」


 千夜は思わず少し笑った。


「だって、余命いくばくもない人が、陸上部であれだけ走ってるとは思えないけど」


『笑い事じゃない。私は本当に心配してるんだ』


 巴の声は真剣だった。


 千夜は少し黙った。


「……ごめん」


『いや』


「でも、朝比奈君が病気だって話は本当に聞いたことないよ」


『そうか……』


 巴はまだ不安そうだった。


 そして突然、低い声で言った。


『千夜』


「何?」


『お前は知っていたんだろう?』


「……何を?」


『恒一が、いずれいなくなることを』


「知らないよ!」


 千夜は即答した。


『本当か?』


「本当!」


『だが、お前は私に告白するなと言った』


「私が知ってたのは、朝比奈君が夕焼けを嫌いだってことだけだよ」


『……それだけか?』


「それだけ。それ以外は何も知らない」


『本当か?』


「本当」


『だが、夕焼けもやめた方がいいと言った』


「それは、朝比奈君が夕焼けを嫌いだって聞いてたから」


『そうなのか』


「うん」


 千夜はそう答えながら、胸の奥が少し痛んだ。


 夕焼けが嫌いだという話は、自分がついた嘘だった。だが、それをここで説明すれば、別の問題が発生する。


『私が傷つくと分かっていたからじゃないのか?』


「違うよ」


『本当に?』


「本当に。私は朝比奈君が転校するとか、引っ越すとか、家庭の事情で遠くへ行くとか、病気だとか、そんな話は何も知らない」


『そうなのか』


「本当に知らない」


『……そうか』


 巴の声がさらに沈んだ。


 千夜は少し心配になる。


「巴」


『何だ』


「今、泣いてる?」


『泣いていない』


「本当?」


『少し目が熱くなっただけだ』


「それ、ほとんど泣いてるんじゃない?」


『泣いていない』


「……分かった」


 今は追及しない方がよさそうだった。


「とりあえず、私が少し調べてみる」


『調べる?』


「朝比奈君が本当にどこかへ行く予定があるのか」


『分かるのか?』


「たぶん」


『どうやって?』


「彩音に聞いてみる」


 巴が少し黙った。


『彩音か』


「うん。朝比奈君とは昔から一緒だし」


『そうだな』


『……頼めるか?』


「聞いてみるよ」


『すまない』


「いいよ」


『千夜』


「何?」


『本当に、ごめん』


「だから何が?」


『言うことを聞かなかったことだ』


 千夜は少し黙った。


「……次からは聞いてね」


『ああ』


「本当にね」


『分かった』


「じゃあ、また分かったら連絡する」


『頼む』


 電話が切れた。


 千夜はスマートフォンを見つめた。


「……何なの、これ」


 告白はした。好きだとも言われた。一緒にいたいとも言われた。


 それなのに、ずっと一緒にはいられない。


 いつかいなくなる。


 意味が分からない。



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