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恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
第3章 真白な頁に名前が灯る編

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第218話 新人戦

 ■学校・グラウンド


 新人戦の地区予選が終わった。


 陸上部は、かなりいい結果を残していた。


 県大会への出場を決めた部員も多い。


「朝比奈!」


 いつもより大きな声が飛んできた。


 振り返ると、佐藤が満面の笑みを浮かべてこちらへやってくる。


「何だ?」


「三位だぞ!」


「知ってる」


「三位! 俺が三位!」


「だから知ってるって」


「県大会だぞ、朝比奈!」


「ああ」


「俺が県大会だぞ!」


 佐藤は笑いながら拳を握った。


 千五百メートルで三位。


 本人にとってもかなり嬉しい結果だったらしく、地区予選が終わってからずっとこの調子だった。


「いやあ、三位か」


「さっきからそれしか言ってないぞ」


「だって三位だぞ?」


「分かったって」


「何回でも言うぞ。俺、三位だからな」


「そんなに嬉しいのか?」


「嬉しいに決まってるだろ!」


 佐藤は胸を張った。


 普段ならもう少し落ち着いている男なのだが、今日はまるで違う。


 嬉しさを隠そうという気もないらしい。


「俺だって二位だったぞ」


「知ってる」


「お前は三位でそこまで喜んでるじゃないか」


「お前だって二位で喜んでただろ」


「それはそうだけど」


「ほら見ろ」


 佐藤はますます嬉しそうに笑った。


 今回、結果が良かったのは二人だけではない。


 ひよりをはじめ、他の部員たちも県大会への出場を決めていた。


 陸上部全体で見ても、かなりいい地区予選だった。


 恒一はグラウンドを見回す。


「でも、これだけみんなの結果が良かったってことは、やっぱり俺の指導が良かったんじゃないか?」


「何でお前だけの手柄になるんだよ」


 佐藤がすぐに言った。


「俺が練習スケジュールを作ったからだろ」


「いや、実際に指導したのは俺だろ」


「その指導をするためのスケジュールを組んだのは俺だ」


「でも、その通りにちゃんと教えたのは俺だぞ」


「俺のスケジュールが良かったんだよ」


「俺の指導だ」


「俺のスケジュールだ」


 二人は顔を見合わせる。


「……真田もやってただろ」


 佐藤が言った。


「まあ、それはそうだな」


「俺とお前と真田の三人で見てただろ」


「ああ」


「三人でやった結果だ」


「でも、俺の指導が良かったのもあるだろ?」


「だったら俺のスケジュールが良かったのもある」


「結局、自分の手柄にしたいんじゃないか」


「お前が言うな」


 自分たちの成績も良かったせいか、二人ともいつもより少し浮かれていた。


 その時だった。


「巴様ー!」


「県大会も頑張ってください!」


「巴様、本当にすごかったです!」


 グラウンドの端から歓声が上がる。


 西園寺たちだった。


 普段も巴の練習を見に来ることはあるが、いつもはもう少し大人しい。


 今日は地区予選の結果がよほど嬉しかったのか、少しうるさいと思うくらい騒がしかった。


「相変わらずすごいな」


 佐藤がそちらを見る。


「今日は特にだな」


「真田の結果が良かったからだろ」


「ああ」


 そこへ、ちょうど巴が戻ってきた。


「二人とも、おめでとう」


「ああ、ありがとう」


「真田もな」


 佐藤が答える。


 恒一も巴を見て、そこで思い出したように目を瞬いた。


「そういえば、巴もすごかったんだよな」


「今さらか?」


 佐藤が呆れたように言った。


「いや、報告は受けてたんだけど……自分のことでちょっと頭から抜けてた」


「部長が忘れるなよ」


「お前だって三位で浮かれてただろ」


「それは関係ない」


「あるだろ」


 巴が二人を見ながら首を傾げた。


「百メートルは一位だった」


「ああ」


「二百メートルも一位だ」


「……」


「……」


 改めて本人の口から聞くと、恒一と佐藤は揃って黙った。


「どうした?」


「いや……」


 佐藤が少しだけ遠い目をする。


「俺、三位ですごく喜んでたんだけどな」


「俺も二位で結構喜んでた」


「二人とも十分いい結果だろう」


 巴は何でもないことのように言った。


「でも、巴は二つとも一位だろ」


「そうだな」


「もう少し喜ばないのか?」


「嬉しくないわけではない」


 巴はグラウンドへ目を向ける。


「だが、もう終わったことだ」


「……」


「……」


「次は県大会だろう。今はそちらの方が大事だ」


 そう言うと、巴はすぐにグラウンドへ戻っていった。


 自分自身も二種目で一位。


 女子部員の練習を見ることも多く、今回の結果にも十分関わっている。


 それなのに、自分の手柄だとは一言も言わない。


 少し前まで、自分の指導が良かった、自分のスケジュールが良かったと言い合っていた二人とは大違いだった。


「巴様ー!」


「頑張ってください!」


 西園寺たちの歓声がまた上がる。


 その向こうでは、巴がもう次の一本へ向けて準備していた。


 恒一はその姿をしばらく見つめる。


「……俺も、いつか巴みたいになりたいな」


 ぽつりと呟いた。


 佐藤が恒一を見る。


「それは無理じゃないか?」


「何でだよ」


「お前もああいうファンが欲しいのか?」


「そういう意味じゃない」


「違うのか?」


「違う」


 恒一は呆れたように答えた。


「結果を出しても浮かれないで、もう次を見てるところだよ」


「ああ、そっちか」


「他に何があるんだ」


「いや、ちょうどあいつらが騒いでたから」


「俺はファンクラブが欲しいわけじゃない」


「そうか」


「ああ」


 佐藤は少し考えた。


「でも、やっぱり今のお前には無理じゃないか?」


「だから何でだよ」


「さっきまで『俺の指導が良かった』って言ってたじゃないか」


「……」


「巴とはだいぶ違うぞ」


「お前だって『俺のスケジュールが良かった』って言ってただろ」


「……」


 二人は黙った。


「巴様ー!」


「県大会も頑張ってください!」


 また歓声が響く。


 その向こうで、巴はもう練習を始めていた。


「……俺たち、まだまだだな」


「……そうだな」


 二人は少しだけ肩を落とした。


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