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歪められる視線

 昼休みの廊下。


「ねえ、あの人でしょ」

「うん、“告一”」

 ひそひそとした声。


「また見てたよ」

「キモ……」

 聞こえる。


(……来たな)

 彩音に言われた噂は思ってた以上に、広がり始めていた。


「巴様をさ」

「追いかけてるんでしょ?」

「陸上部もそれで入ろうとしたらしいよ」

「やばくない?」


 一つ一つは、小さい。

 でも、確実に、形を作っていく。


「教室からずっと見てるって」

「しかもなんか、いやらしい目で」

「うわ、最悪」

(……それは違うだろ)


 思うけど、決して口には出さない。

(言ったところで、変わらない)


 視線が集まる。

 避けるように、通り過ぎるやつもいる。

 その中心、階段の踊り場。


 西園寺さつき。その周りに、ファンクラブの女子たち。

「だから言ったじゃん」

 さつきが腕を組む。


「あの人、ちょっとおかしいって」

「“告一”だよ?」

 くすくすと笑いが広がる。

「巴様も迷惑でしょ」


 その言葉。

 少しだけ、胸に刺さる。

(……迷惑)

 考えたことは、あった。


 でも、俺は目を逸らさない。

(逃げてないだけだ)

 それだけは、決して変わらない。


 そのまま、歩く。練習のためグラウンドへ向かう。


 途中

「恒一!」

 声か聞こえ振り向く。

 直樹と、純也。

「……聞いたぞ」

 直樹が言う。


「噂」

 純也が溜息をつく。

「派手にやられてるな」

「……まあな」

 軽く返す。


「気にしてないのかよ」

「気にはする」

 正直に言う。


「でも」

「やめる理由にはならない」

 静かに。

 二人が、少しだけ黙る。

「……ほんと」

 直樹が呆れたように笑う。

「変わんねーな、今のお前は」

「だな」

 純也も笑う。


「でもさ」

 直樹が少しだけ真面目な顔になる。

「やり方は気をつけろよ」

「誤解されてるのも事実だ」

「……ああ」


 うなずく。

「わかってる」

 それは、さっきからずっと考えていることだった。

(変えるべきは、そこだ)

 やることは同じ。

 でも、これからは。

(見せ方は変える)

 誤解されないように。


「まあ、ここからどうするかだな」

 純也が肩をすくめる。


「だな」

 三人で、少しだけ笑う。

 でも、状況は、変わらない。

 噂は、広がっている。


 それでも。

(やめない)

 足を止めない。

 その覚悟だけは。

 もう、揺れなかった。


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