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恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
すれ違い編

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第2話 強すぎる人を見つけた話

 それから数日。


 俺――朝比奈恒一は、完全に迷っていた。


「同じ街。同い年。名前は分かってる」


 そこまではいい。


 問題は。


「……見つかる気がしない」


 蒼ヶ崎市は、普通に広い。

 高校も一つではない。


 同い年の女子なんて、当然いくらでもいる。しかも、手がかりは名前だけ。


 いや、一応もう一つある。


 巴御前の魂。


「……探し方が分からなすぎる」


 駅前で「あなたは巴御前ですか」と聞いて回るわけにもいかない。


 通報されるだろう、かなり自然に。


「……とりあえず、普通に生活するしかないか」


 そう思って、俺はいつもの電車に乗った。


 ■通学電車


 朝の通勤ラッシュ。


 車内は混んでいた。

 つり革を掴みながら、ぼんやり窓を見る。


(恋人探しどころじゃないな、これ)


 人。

 人。

 また人。


 この中から、たった一人を探す。


 無理ではないだろうか。

 いや、絶対無理だ。


 そう思った、その時だった。


「――ちょっと」


 低く、よく通る声がした。

 車内の空気が、一瞬で変わる。


「あなた、今、何してるか分かってる?」


 視線が集まった。


 声の方を見る。


 一人の女子がいた。

 背が高い。


 姿勢がまっすぐで、立っているだけで妙に圧がある。黒髪は後ろでまとめられていた。


 制服には、見覚えがあった。


(……うちの学校?)


 その時点で、少しだけ嫌な予感がした。

 いや、嫌というより、妙に引っかかった。


 整った顔立ち。だけど、それ以上に目を引いたのは、その目だった。


 迷いがない。

 強い。


 次の瞬間。


「動くな」


 彼女は、目の前の男の腕を掴んだ。


 ガシッ。


 そのまま、ねじ上げる。


「いっ、痛っ!?」


「痛い? なら感覚はあるね」


 言い方が物騒だった。


 だが、動きは速い。

 ためらいがない。


 男が逃げようとした瞬間、彼女はさらに一歩踏み込んだ。


「逃げるなら、もう一回締める」


「や、やめ――」


「じゃあ動かないで」


 完全に制圧していた。

 周囲がざわつく。


 誰かが駅員を呼ぶ。


 けれど彼女は、少しも慌てていなかった。


 電車が次の駅に止まる。彼女は男の腕を押さえたまま、淡々とホームへ降りた。


「すみません。この人です」


 駅員へ引き渡す。


 その動作が、あまりにも自然だった。

 何度もやったことがあるみたいに。


 いや、普通はない。


(……なんだ今の)


 ただの女子高生の動きではなかった。


 スポーツが得意。

 そういう次元でもない。


 あれは戦える人間の動きだった。


 扉が閉まる直前。

 ふと、彼女がこちらを見た。


 目が合う。


 一瞬だけ。


 けれど、その視線には妙な圧があった。


 そして、ほんの少しだけ楽しそうでもあった。


 電車が動き出す。

 駅が遠ざかる。


 それでも、俺の頭から彼女の姿は消えなかった。


「いやいやいや……」


 思い出す。


 神様の言葉。


『その娘の魂は――巴御前じゃ』


 武勇に優れた女武者。

 並の男では、まず惹かれない。


 そして、さっきの彼女。

 あの迷いのなさ。


 あの力。

 あの目。


「……まさか」


 胸が、少しだけ鳴る。


 いや、まだ分からない。

 彼女の名前も知らない。


 ただ強い女子高生を見ただけかもしれない。それにしては、あまりにも引っかかった。


 ■放課後の教室


 放課後。


 俺はスマホを開いた。


 制服は、うちの学校のものだった。


 だから、調べるべきことはそこではない。


 学年。

 部活。

 名前。


 それから、あの動きに繋がりそうな情報。


 探していくうちに、一つの情報にたどり着く。


 蒼ヶ崎市立東雲高校。


 二年B組。


 陸上部所属。


「……うちの学校じゃないか」


 思わず声が出た。


 いや、それは制服を見た時点で分かっていた。


 問題は、その先だ。


 二年B組。


 俺は二年A組。


 隣のクラスだった。


「いや、近すぎるだろ……」


 同じ街どころではない。


 同じ学校。

 同じ学年。

 隣のクラス。


 数日間、どう探せばいいのか分からないと悩んでいた相手は、思っていたよりずっと近くにいた。


 短距離と跳躍で有名な女子生徒。


 勝負事が好き。


 強い相手を見ると、無意識に試したくなる。


 そして。


 名前は真田巴。


「……いた」


 画面を見たまま、俺は小さく呟いた。


 見つけた。

 たぶん。


 いや、かなりの確率で。

 この人だ。


 強すぎる。


 まっすぐすぎる。


 少しだけ、今の時代に馴染みきれていない感じすらある。


 でも、間違いなく。俺の恋愛台帳に残っていた、ほぼ唯一の可能性。


「……探す前から、勝てる気がしないな」


 そう呟いて。


 それでも俺は、画面の中の名前をもう一度見た。


 真田巴。


 俺の、無謀すぎる恋の相手だった。


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