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恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
第1章 すれ違い編

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第2話 強すぎる人を見つけた話


 それから数日。


 朝比奈恒一は、完全に迷っていた。


「同じ街。同い年。名前は分かってる」


 そこまではいい。


 問題は。


「……見つかる気がしない」


 蒼ヶ崎市は普通に広い。高校も一つではなく、同い年の女子なんて当然いくらでもいる。


 しかも、手がかりは名前だけ。


 いや、一応もう一つある。


 巴御前の魂。


「……探し方が分からなすぎる」


 駅前で「あなたは巴御前ですか」と聞いて回るわけにもいかない。


 かなり自然に通報されるだろう。


「……とりあえず、普通に生活するしかないか」


 そう思い、恒一はいつもの徒歩ではなく、珍しく電車で学校へ向かった。


 朝の通勤ラッシュで、車内は混んでいた。つり革を掴みながら、ぼんやり窓を見る。


(恋人探しどころじゃないな、これ)


 人。


 人。


 また人。


 この中から、たった一人を探す。


 無理ではないだろうか。


 いや、絶対無理だ。


 そう思った、その時だった。


「――ちょっと」


 低く、よく通る声がした。


 車内の空気が、一瞬で変わる。


 恒一も声の方を見る。


 一人の女子がいた。


「大丈夫?」


 かなりの長身の女子が、隣にいた女子へ声をかけている。


 声をかけられた女子は、戸惑いながらも小さくうなずいた。


 それを確認すると、すぐそばにいた男へ視線を向けた。


「あなた、今、この子に何したか分かってる?」


「な、何も――」


 男が逃げようとした。


「動くな」


 次の瞬間、彼女は男の腕を取った。


 背筋はまっすぐに伸び、立っているだけで妙な圧がある。黒髪は後ろでまとめられていた。


 制服には見覚えがある。


(……うちの学校?)


 その時点で、少しだけ嫌な予感がした。


 いや、嫌というより、妙に引っかかった。


 整った顔立ち。だが、それ以上に目を引いたのは、その目だった。


 迷いがない。


 強い。


 彼女は男の腕を、ガシッと音がしそうな勢いでそのままねじ上げた。


「いっ、痛っ!?」


「痛い? なら感覚はあるね」


 言い方が物騒だった。


 だが、動きは速い。


 ためらいがない。


 男が身をよじって逃れようとすると、彼女はさらに一歩踏み込んだ。


「逃げるなら、もう一回締める」


「や、やめ――」


「じゃあ動かないで」


 完全に制圧していた。


 周囲がざわつき、誰かが駅員を呼ぶ。


 それでも彼女は、少しも慌てていなかった。


 電車が次の駅に止まると、男の腕を押さえたままホームへ降りる。


「すみません。この人です」


 駅員へ引き渡す動作まで、あまりにも自然だった。


 何度もやったことがあるようにすら見える。


 いや、普通はない。


(……なんだ今の)


 ただの女子高生の動きではなかった。


 スポーツが得意。


 そういう次元でもない。


 あれは、戦える人間の動きだった。


 扉が閉まる直前、ふと彼女がこちらを見る。


 目が合った。


 一瞬だけ。


 けれど、その視線には妙な圧があった。


 そして、ほんの少しだけ楽しそうにも見えた。


 電車が動き出し、駅が遠ざかっていく。


 それでも恒一の頭から、彼女の姿は消えなかった。


「いやいやいや……」


 神様の言葉を思い出す。


『その娘の魂は――巴御前じゃ』


 武勇に優れた女武者。


 並の男では、まず惹かれない。


 そして、さっきの彼女。


 あの迷いのなさ。


 あの力。


 あの目。


「……まさか」


 胸が少しだけ鳴った。


 いや、まだ分からない。


 名前すら知らない。


 ただ強い女子高生を見ただけかもしれない。


 それにしては、あまりにも引っかかった。


◇ ◇ ◇


 放課後。


 恒一は教室でスマートフォンを開いた。


 制服は、蒼ヶ崎市立東雲高校のものだった。


 だから調べるべきなのは、その先だ。


 学年。


 名前。


 それから、あの動きにつながりそうな情報。


 探していくうちに、一人の女子生徒へたどり着いた。


 二年B組。


 恒一は二年A組なので、隣のクラスだった。


「いや、近すぎるだろ……」


 同じ街どころではない。


 同じ学校。


 同じ学年。


 隣のクラス。


 数日間、どう探せばいいのか分からないと悩んでいた相手は、思っていたよりずっと近くにいた。


 短距離と跳躍で有名な女子生徒。


 勝負事が好き。


 強い相手を見ると、無意識に試したくなる。


 そして。


 名前は、真田巴。


「……いた」


 画面を見たまま、恒一は小さく呟いた。


 見つけた。


 たぶん。


 いや、かなりの確率で、この人だ。


 強すぎる。


 まっすぐすぎる。


 少しだけ、今の時代に馴染みきれていない感じすらある。


 でも、間違いなく。


 恋愛台帳に残っていた、ほぼ唯一の可能性。


「……探す前から、勝てる気がしないな」


 そう呟きながら、恒一は画面に表示された名前をもう一度見る。


 真田巴。


 恒一の、無謀すぎる恋の相手だった。



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