表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/140

強すぎる人を見つけた話 改稿版

 それから数日。


 俺――朝比奈恒一は、完全に迷っていた。

「同じ街。同い年。名前は分かってる」

 そこまではいい。


 問題は。

「……見つかる気がしない」

 蒼ヶ崎市は、普通に広い。

 高校も一つではない。

 同い年の女子なんて、当然いくらでもいる。

 しかも手がかりは、名前だけ。

 いや、一応もう一つある。

 巴御前の魂。


「……探し方が分からなすぎる」

 駅前で「あなたは巴御前ですか」と聞いて回るわけにもいかない。

 通報される。

 かなり自然に。

「……とりあえず、普通に生活するしかないか」

 そう思って、俺はいつもの電車に乗った。


 朝の通勤ラッシュ。

 車内は混んでいた。

 つり革を掴みながら、ぼんやり窓を見る。

(恋人探しどころじゃないな、これ)

 人。

 人。

 また人。

 この中から、たった一人を探す。

 無理ではないだろうか。

 いや、かなり無理だ。

 そう思った、その時だった。

「――ちょっと」

 低く、よく通る声がした。

 車内の空気が、一瞬で変わる。


「あなた、今、何してるか分かってる?」

 視線が集まった。

 声の方を見る。

 一人の女子がいた。

 背が高い。

 姿勢がまっすぐで、立っているだけで妙に圧がある。

 黒髪は後ろでまとめられている。

 整った顔立ち。

 だけど、それ以上に目を引いたのは、その目だった。


 迷いがない。

 強い。

 次の瞬間。

「動くな」

 彼女は、目の前の男の腕を掴んだ。

 ガシッ。

 そのまま、ねじ上げる。

「いっ、痛っ!?」

「痛い? なら感覚はあるね」


 言い方が物騒だった。

 だが動きは速い。

 ためらいがない。

 男が逃げようとした瞬間、彼女はさらに一歩踏み込んだ。

「逃げるなら、もう一回締める」

「や、やめ――」

「じゃあ動かないで」


 完全に制圧していた。

 周囲がざわつく。

 誰かが駅員を呼ぶ。

 けれど彼女は、少しも慌てていない。

 電車が次の駅に止まる。

 彼女は男の腕を押さえたまま、淡々とホームへ降りた。


「すみません。この人です」

 駅員へ引き渡す。

 動作が、自然すぎた。

 何度もやったことがあるみたいに。

 いや、普通は、ない。

(……なんだ今の)


 ただの女子高生の動きではなかった。

 スポーツが得意。

 そういう次元でもない。

 あれは。

 戦える人間の動きだった。

 扉が閉まる直前。

 ふと、彼女がこちらを見た。

 目が合う。

 一瞬だけ。


 けれど、その視線には妙な圧があった。

 そしてほんの少しだけ、楽しそうでもあった。

 電車が動き出す。

 駅が遠ざかる。

 それでも、俺の頭から彼女の姿は消えなかった。


「いやいやいや……」

 思い出す。

 神様の言葉。

『その娘の魂は――巴御前じゃ』

 武勇に優れた女武者。

 並の男では、まず惹かれない。


 そして、さっきの彼女。

 あの迷いのなさ。

 あの力。

 あの目。

「……まさか」

 胸が、少しだけ鳴る。

 いや、まだ分からない。

 名前も知らない。

 ただ強い女子高生を見ただけかもしれない。


 それにしては、あまりにも引っかかった。

 放課後。

 俺はスマホで調べた。

 電車で見た制服。

 学校。

 部活。

 名前。

 探していくうちに、一つの情報にたどり着く。


 蒼ヶ崎市立東雲高校。

 二年B組。

 陸上部所属。

 短距離と跳躍で有名な女子生徒。

 勝負事が好き。

 強い相手を見ると、無意識に試したくなる。

 そして。

 名前は真田巴。

「……いた」

 画面を見たまま、俺は小さく呟いた。


 見つけた。

 たぶん。

 いや、かなりの確率で。

 この人だ。

 強すぎる。

 まっすぐすぎる。

 少しだけ、今の時代に馴染みきれていない感じすらある。


 でも、間違いなく。

 俺の恋愛台帳に残っていた、ほぼ唯一の可能性。

「……探す前から、勝てる気がしないな」

 そう呟いて。

 それでも俺は、画面の中の名前をもう一度見た。

 真田巴。

 俺の、無謀すぎる恋の相手だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ