その距離で指輪は重い
放課後の教室の隅。
俺は机に、小さな箱を置いた。
「これ、見て」
直樹と彩音が覗き込む。
「なにこれ」
箱を開ける。
中には――
シンプルな指輪。
一瞬の沈黙。
「……は?」
直樹が固まる。
「え、ちょっと待って」
彩音も目を見開く。
「それ、どうしたの?」
「バイト」
「え」
「3ヶ月分」
あっさり言う。
再び沈黙。
「……お前さ」
直樹がゆっくり口を開く。
「これ、どうする気だよ」
「決まってるだろ」
「7月8日」
「……」
「巴の誕生日に渡す」
空気が、止まった。
「やめとけ」
直樹、即答。
「無理」
彩音も即答。
「なんでだよ!?」
「早すぎるだろ!!」
直樹が机を叩く。
「まだそんな仲じゃねえだろ!」
「いやでも」
「でもじゃない!」
「引くって!」
彩音が追い打ちをかける。
「普通に引く!」
「そんなに!?」
「その距離で指輪は重い!!」
ド正論。
「でもさ」
俺は食い下がる。
「正々堂々渡せば、巴なら受け取ってくれると思う」
一瞬の沈黙。
「……受け取るかもしれないけどさ」
彩音がゆっくり言う。
「困るでしょ、相手が」
グサッと刺さる。
「……あ」
「重いのは、“断りにくい”ってことでもあるんだよ」
言葉が、静かに響く。
「それはさ」
直樹が続ける。
「優しさにつけ込んでるのと同じだぞ」
何も言えない。
「……」
箱を見る。
自分では、まっすぐなつもりだった。
でも。
(違うのか……?)
「じゃあ」
顔を上げる。
「どうすればいいんだよ」
素直に聞いた。
「どうしたら、巴と親しくなれる」
直樹と彩音が顔を見合わせる。
「……うーん」
彩音が腕を組む。
「難しいな、それ」
「そもそも段階飛ばしすぎなんだよ」
直樹がため息をつく。
「いきなり指輪じゃなくてさ」
「もっとこう」
「普通に話すとか」
「一緒に何かするとか」
「そういう積み重ねだろ」
当たり前のこと。
でも。
今の俺には、それが一番難しい。
「……なるほどな」
小さくうなずく。
彩音が少しだけ笑う。
「まあでもさ」
「そこまでやったのは、すごいと思うよ」
「うん」
「方向はちょっとズレてるけど」
「ズレてるのかよ」
「だいぶね」
三人で、少しだけ笑う。
(でも、やることは見えた)
焦るな。
積み重ねろ。
それが。
一番の近道。
俺は、そっと箱を閉じた。




