遠くからの視線
昼休みの教室の窓際。
俺は、何となく外を見ていた。
――グラウンド。
そこにいる。
真田巴。
スタートラインに立つ。
姿勢が低く、無駄がない。
(……来る)
次の瞬間。
走る。
地面を蹴る音。
風を切るような加速。
(速っ……)
何度見ても思う。
あれは、別物だ。
ゴール。
「よし!」
巴が小さく拳を握る。
すぐに先輩が近づく。
「今の、かなりいいぞ」
「ほんとですか!?」
ぱっと表情が明るくなる。
「タイム更新してる」
「マジですか!?」
その笑顔。
(……よかったな)
思わず、口元が緩む。
自分のことみたいに。
「ねえ」
後ろから声。
「なにニヤニヤしてんの」
振り向く。
女子が三人。
その中の一人。
西園寺 さつき(さいおんじ さつき)は、巴ファンクラブの中心人物。
いわゆる“ガチ勢”。
「気持ち悪いんだけど」
ストレートすぎる。
「……悪かったな」
軽く返す。
「ていうかさ」
さつきが腕を組む。
「まだいたんだ、」
「誰のことだよ」
「“告一”」
「誰だそれ」
「週一で告白してた人」
周りの女子がくすっと笑う。
「……それ俺かよ」
「そうでしょ?」
「恒一な」
ちゃんと訂正する。
「へえ、まだ諦めてないんだ」
ニヤッと笑う。
「まあ、無理でしょ」
悪気はない。
ただの事実として言っている。
だから、余計に刺さる。
「別に」
窓の外に視線を戻す。
「今はそういうんじゃない」
「じゃあ何」
食いついてくる。
「……興味あるだけ」
「興味?」
「最近、トレーニングしてるから」
淡々と言う。
「参考にしてる」
少しだけ沈黙。
「……ふーん本当?」
さつきがじっとこちらを見る。
「まあ」
肩をすくめる。
「見るだけなら勝手にすれば」
興味を失ったように視線を外す。
俺はそれ以上何も言わず、その場を離れた。
廊下に出て、少しだけ息を吐く。
(……言われたな)
“気持ち悪い”
“無理”
全部、想定内。
でも。
もう、あの頃とは違う。
(見てるだけじゃないしな)
階段を降りながら、思う。
(ちゃんと、近づいてる)
少しずつ。
確実に。
その実感だけで、十分だった。




