ひよりの迷いと戸惑い
放課後のグラウンド。
夕暮れが少しずつ赤く染まる中、白石ひよりはベンチに一人腰を下ろしていた。
(……あれ、何だったんだろう)
昨日までの恒一の様子が頭をよぎる。少し距離を置きつつも、巴と話していたあの微妙な距離感――
見ているひよりには明らかに異様に思えたが、恒一はそれに全く気づいていない。
「……わからない」
ため息をつき、弁当を箸でつつく手も止まる。何度か、恒一と短く会話する機会はあった。
「……今日の練習どうだった?」
「まあまあです」
「……真田先輩、何か変じゃなかったですか?」
「……いや、普通じゃない?」
どれも短く、ろくに話が続かない。恒一は鈍く、ひよりが気にしていることを理解できていない。
視線は自然と、遠くで汗を流す巴に向く。
巴は練習中、少しイライラしているようにも、集中しているようにも見える。
(……やっぱり、わからない)
ひよりは小さく肩をすくめる。
「……どうして、朝比奈先輩は全然見えないんだろう」
小さく呟くひよりに、佐藤が近くで一年生部員に小声で助言する。
「焦るな。少しずつだ」
「……はい」
だが、どちらの言葉も恒一の耳には届かず、彼は今日も鈍く、誰にも、ろくな返答を返さなかった。
ひよりは再びベンチに座り、巴の様子をちらりと確認する。
(……真田先輩、またイライラしてる)
表情や動作の微妙な変化も、恒一には理解できるはずもない。少し時間が経ち、昼休みの終了が近づく。ひよりはまだ戸惑い、少し肩を揺らす。
「あ、戻らないと」
教室へ向かい、ひよりは小さく呟く。
「結局、さっきもなんだったんだろう……」
恒一の鈍さも、巴の異常な集中も、何もかも理解できないまま。
だが、少しだけ進んだ感覚はある。
(……焦らず、少しずつ……)
グラウンドでは、汗を流しながら巴が黙々と動き続ける。ひよりはその姿を見つめ、少しだけ気持ちを落ち着ける。
(……難しいな、でも見守るしかない)
こうして、今日も何もはっきりとは進展しないまま、放課後は静かに過ぎていく。
微妙な不安と少しの決意を胸に抱え、ひよりは帰路につく。




