表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/86

守りたいもの

 いつもの放課後。


 廊下の窓際で、彩音に呼び止められた。


「ねえ、恒一」


「ん?」


 少しだけ、真面目な顔。


「最近さ」


 一呼吸置いてから、


「直樹、ずっと恒一のこと心配してるよ」


 その一言で、全部わかった。


「……あいつらしいな」


 苦笑する。




「笑い事じゃないって」


 彩音が少しだけ眉を寄せる。


「バイトもトレーニングも、やりすぎだって


 言ってた」


 図星。


「顔にも出てるし」


「……そんなに?」


「うん、わかる人にはすぐわかる」


 彩音は少しだけ優しい声で続ける。


「大丈夫なの?」


 まっすぐな問い。


 逃げられない。




 俺は、少しだけ目を伏せてから――


「……大丈夫だよ」


 そう言った。


 本音じゃない。


 でも、嘘でもない。


 そのまま顔を上げる。


「ありがとな」


「え?」


「心配してくれて」


 一歩、踏み込む。


「直樹にも、ありがとうって言っといて」


 彩音は少しだけ驚いた顔をしてから、ふっと


 笑った。


「自分で言いなよ」


「あとで言う」


「彩音……ごめん」


「なんで謝るの?」


「巻き込んでるから」


 素直に言う。


 彩音は少しだけ考えてから、


「まあ、巻き込まれてるけど」


 くすっと笑う。


「嫌じゃないよ」


 その一言が、やけに温かかった。


「……そっか」


「でもさ」


 彩音が少しだけ真面目な顔になる。


「ちゃんと限度は守りなよ」


「うん」


「約束ね」


「……ああ」


 しっかりとうなずく。





 そのあと。


 俺は直樹のところへ向かった。


「直樹」


「ん?」


 振り向く。


「心配かけてごめん」


「……急にどうした」


「彩音から聞いた」


 直樹は少しだけ目を逸らす。


「別に…」


「ありがとな」


 はっきり言う。


 直樹は少しだけ黙ってから、


「……おう」


 短く返した。




「あと」


「?」


「トレーニング、少し控える」


 その言葉に、直樹がこちらを見る。


「マジで?」


「無理しすぎないようにする」


 ちゃんと、約束する。


 直樹はしばらく俺を見てから、


「……ならいい」


 小さくうなずいた。




 別れ際。


「ほんと、倒れんなよ」


「倒れねえよ」


 少しだけ笑って、別れた。




 一人になる、夕暮れの道。


(……いい友達持ったな)


 しみじみ思う。


 だからこそ。


(これ以上、心配させたくない)


 足が向かう、あの神社へ。


 最初に、全部が始まった場所。


 石段を上る。


 夕方の静かな空気。


「……」




 賽銭箱の前に立つ。


 ポケットから、新しい財布を取り出す。


(これでいいのかよ)


 少しだけ迷う。


 でも。


(他に方法、ないだろ)


「……頼むぞ」




 そして。


 ――ポイッ。


 財布ごと、投げ入れた。


「えっ!?」


 後ろにいた参拝客が声を上げる。


「今、財布…?」


 ざわつく空気。


 でも、もう遅い。


「……これでいい」


 手を合わせる。


(神様)


(出てこい)




 その夜。


 布団に入る。


 目を閉じる。


(頼む)


(会わせてくれ)


 静かな闇の中で。


 ただ願った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ