守りたいもの
いつもの放課後。
廊下の窓際で、彩音に呼び止められた。
「ねえ、恒一」
「ん?」
少しだけ、真面目な顔。
「最近さ」
一呼吸置いてから、
「直樹、ずっと恒一のこと心配してるよ」
その一言で、全部わかった。
「……あいつらしいな」
苦笑する。
「笑い事じゃないって」
彩音が少しだけ眉を寄せる。
「バイトもトレーニングも、やりすぎだって
言ってた」
図星。
「顔にも出てるし」
「……そんなに?」
「うん、わかる人にはすぐわかる」
彩音は少しだけ優しい声で続ける。
「大丈夫なの?」
まっすぐな問い。
逃げられない。
俺は、少しだけ目を伏せてから――
「……大丈夫だよ」
そう言った。
本音じゃない。
でも、嘘でもない。
そのまま顔を上げる。
「ありがとな」
「え?」
「心配してくれて」
一歩、踏み込む。
「直樹にも、ありがとうって言っといて」
彩音は少しだけ驚いた顔をしてから、ふっと
笑った。
「自分で言いなよ」
「あとで言う」
「彩音……ごめん」
「なんで謝るの?」
「巻き込んでるから」
素直に言う。
彩音は少しだけ考えてから、
「まあ、巻き込まれてるけど」
くすっと笑う。
「嫌じゃないよ」
その一言が、やけに温かかった。
「……そっか」
「でもさ」
彩音が少しだけ真面目な顔になる。
「ちゃんと限度は守りなよ」
「うん」
「約束ね」
「……ああ」
しっかりとうなずく。
そのあと。
俺は直樹のところへ向かった。
「直樹」
「ん?」
振り向く。
「心配かけてごめん」
「……急にどうした」
「彩音から聞いた」
直樹は少しだけ目を逸らす。
「別に…」
「ありがとな」
はっきり言う。
直樹は少しだけ黙ってから、
「……おう」
短く返した。
「あと」
「?」
「トレーニング、少し控える」
その言葉に、直樹がこちらを見る。
「マジで?」
「無理しすぎないようにする」
ちゃんと、約束する。
直樹はしばらく俺を見てから、
「……ならいい」
小さくうなずいた。
別れ際。
「ほんと、倒れんなよ」
「倒れねえよ」
少しだけ笑って、別れた。
一人になる、夕暮れの道。
(……いい友達持ったな)
しみじみ思う。
だからこそ。
(これ以上、心配させたくない)
足が向かう、あの神社へ。
最初に、全部が始まった場所。
石段を上る。
夕方の静かな空気。
「……」
賽銭箱の前に立つ。
ポケットから、新しい財布を取り出す。
(これでいいのかよ)
少しだけ迷う。
でも。
(他に方法、ないだろ)
「……頼むぞ」
そして。
――ポイッ。
財布ごと、投げ入れた。
「えっ!?」
後ろにいた参拝客が声を上げる。
「今、財布…?」
ざわつく空気。
でも、もう遅い。
「……これでいい」
手を合わせる。
(神様)
(出てこい)
その夜。
布団に入る。
目を閉じる。
(頼む)
(会わせてくれ)
静かな闇の中で。
ただ願った。




