仕事②
「おはようございます、アリスさん!」
「おはよう」
セレーナとアイビーは早朝の冒険者ギルドに顔を出していた。
「おはようございます、セレーナさん、アイビーさん」
そんな2人をいつもの笑顔で出迎えるのは受付嬢のアリスだった。
「今日はお2人ですか?」
「はい。姉さんと一緒に良い依頼がないか見に来たんです」
「何か良い依頼はないかしら?」
ルイとユフィアはゴードン商会からの依頼で遠出してるし、ルミナは屋敷でやることがあると言って残っている。
みんなが働いていると言うのに自分達が何もしていないというのは流石に申し訳ないと感じてしまい、2人はこうして依頼を受けに来たのだ。
勿論、ルイにはきちんと許可を貰っているので問題はなかった。ただし無茶だけはしないと言う約束付きだった。
「そうですね、D等級冒険者であるお2人に良さそうな依頼となると……これならどうでしょうか?」
アリスが手頃な依頼がないか確認すると、1枚のD等級依頼書を2人に見せる。
内容はポポア草を採取することだった。
ポポア草とは身体を温めて咳や喉の痛みを和
らげる等の効果がある為、風邪を引いた時に薬として調合するのに必要不可欠な薬草だ。
オルフィンから徒歩で2時間程の距離にあるミトの森にポポア草はあるようで、採取だけなら簡単なのだが魔物が生息しているので気をつける必要がある。
だが報酬はポポア草 1本につき3000リルなので採取すれば採取する程それだけ多く稼げることが出来る。
それにアイビーは木精霊なのでポポア草がある場所を把握することが出来るのでこれ程優良な依頼はないだろう。
「ミトの森か。なら僕達と一緒に組まないかい?」
「………………」
セレーナとアイビーは隣から声をかけて来た男を見てみると、鼠人種の獣人だった。鼠のような耳と尻尾が特徴的だ。
もう1人は鬼人族の大男だ。筋肉質で如何にも格闘家という風貌だが、寡黙な性格なのか一言もしゃべらない。
「僕の名前はレード。C等級冒険者だ。後ろの大男はガドって言って同じくC等級冒険者だ。良かったら僕達と一緒に組んで依頼を開けないかい? 僕は斥候として、ガドは接近戦が得意なんだ。見たところ君達は弓使いと魔法使いのようだけど、接近戦が得意な僕達と組んだ方が良いと思うよ?」
レードという男は人懐っこい笑みを浮かべながら話しかけてくる。だが逆にその笑顔が不気味に思うセレーナとアイビーだった。
「残念だけど私は姉さんと2人だけで依頼をうけたいんだよね」
「アンタ達なんか必要ないわ」
「へえ……」
あっさりと断られるレード。しかし彼は不快感を示すどころか、余計にセレーナとアイビーを気に入ったようで、しつこく勧誘を続けてくる。
「アリスさんの方からも彼女達を説得してくれませんか? こっちは遠距離系の冒険者を探している。そちらは近距離系の冒険者が不足している。お互い利益があると思うよ?」
「申し訳ありませんが、今回の依頼はセレーナさんとアイビーさんだけでも十分に達成出来ると思っています。なので貴方方とパーティーを組む必要はないと思われます」
「そっか、それは残念だな。まあ別の機会があったらよろしく」
そう言ってレードとガドは行ってしまった。
「何よアイツら、怪しすぎるわ」
鬱陶しそうにアイビーは呟く。
「そうだね。アリスさんのお陰でパーティーを組まないで済んだよ。ありがとう」
「いえいえ。それにお2人にはあの方達とは関わって欲しくなかったですからね」
アリスによると、レードとガドのパーティーには黒い噂があった。それは彼らと行動を共にした冒険者は行方不明になっているというものだった。
レードとガドの証言によると魔物に襲われて命を落としたと供述しているが、冒険者ギルドは2人が襲っていると考えている。
しかし証拠がない以上は彼らが犯人だと決めつけることが出来ないので、冒険ギルドも困り果てていた。
「ですのでお2人も彼らには十分気をつけて下さいね」
「分かりました」
「あんな奴らとパーティーを組むなんて死んでも御免よ」
セレーナとアイビーの態度にホッとするアリスはそのまま依頼書の手続きをして依頼書を手渡す。
「手続きが完了しました。お気をつけて依頼をこなして下さいね」
こうしてセレーナとアイビーはポポア草を採取するべく、ミトの森へと向かうのだった。
「ふふふ、今回の冒険者はなかなか楽しめそうですね」
「………………」
そんな彼女達の背中をレードとガドは嬉しそうに見続けていた。
◇◇
ミトの森でポポア草を探し始めて始めて2時間が経過した。セレーナとアイビーは順調に採取していた。
ポポア草は普通の薬草と同じような見た目をしているので見分けが難しいのだが、アイビーの木精霊としての能力によりそれも楽で済んでいた。
「姉さん、また見つけたよ!」
「こっちにもあるわ」
今採取したポポア草を含めるとこれで20本目だった。このまま順調にいけば更に多くのポポア草を集めることが出来るだろう。
そう、何事もなければだが……。
しかし予想していた通り、揉め事は向こうからやって来た。
「やあ君達、また会ったね」
「………………」
突然、冒険者ギルドで会ったC等級冒険者のレードとガドが姿を現したが、セレーナとアイビーは別に驚きはしなかった。
何故なら彼らが2人を跡をつけていたのは最初から分かっていたからだ。木精霊のアイビーにかかれば森の状況なんて手に取るように分かる。それでレードとガドがこのミトの森に入って来たことはすぐに分かていたのだ。
「やっぱり君達のことが心配で跡を追いかけて来たけど、どうやら無事だったみたいだね」
「貴方達が心配? 嘘が下手だね」
「どうせアタシ達を襲う気満々何でしょ? 今までの冒険者みたいに」
レードは心配しているような素振りを見せてはいるが、その瞳の奥にあるどす黒い感情までは隠しきれていなかった。特に後ろに控えているガドなんて溢れんばかりの殺気を一切隠そうとしていない。
「ははは、流石にバレたか。実は君達みたいな冒険者を痛ぶるのが趣味でね。こうして人気のない場所に来る機会を窺っていたんだ」
「悪趣味ね」
「アンタ達、冒険者ギルドからマークされていることを知ってる?」
「うーん、流石にちょっと羽目を外し過ぎたようだね。もう冒険者として大活躍するのは難しそうかな」
レードは少し残念そうな表情を浮かべながらため息を吐く。その様子からはこれまでの罪悪感は一切感じていないようだ。
「今朝貴方達は私と姉さんと話をしている。それも受付嬢のアリスさんの目の前でね」
「もし私達が行方不明になったら今度こそアンタ達は終わりよ?」
セレーナとアイビーがそう告げるも、寧ろレードは余裕のある笑みを浮かべる。
「残念だけど、もう僕達はオルフィンに帰るつもりはないよ。幸い僕達の実力を買ってくれている人がいてね。これからはそこで思う存分羽目を外すつもりさ」
「……………なあレード」
すると、今まで無口だった筈のガドが口を開いた。
「早く奴らを嬲り殺させろよ。もう、我慢出来ねえよ」
必死で身体の震えを抑えているガド。おそらく彼の持つ殺人衝動が今にも爆発しそうなのだろう。
「分かったよガド。僕はあのエルフを殺る。君はもう1人の方を好きにするといい」
「分かった! 好きにするぜ!!」
それを聞いたガドは下卑た笑みを浮かべてアイビーを見つめる。まるで獲物を見るかのように……。
「安心してよ。君達の死体はこの森に生息する魔物達が処分してくれるよ。まさに『弱肉強食』というやつだね!」
そしてレードは腰にかけている短剣を抜くと、まるで見せつけるかのようにその刃を光らせると、セレーナに振り下ろそうとする。
しかし、レードの凶刃がセレーナを切り裂くことはなかった。
「え?」
何故ならレードの短剣を握る腕はセレーナによって射抜かれ、あまりにも威力が強すぎたせいか腕ごと吹き飛ばしてしまったからだ。
「あれ? 腕? 僕の腕がどうして?」
未だに自身の現状が把握しきれていないのか、呆けたような顔で何度も射抜かれた腕と切断面を見続ける。
「ぎゃああああああああああっ!? 僕の腕がああああああああっ!?」
そしてそれからすぐに来る激痛でようやく我に返ったのか、レードは地面に激しくのたうち回る。
「お前! レードに何した!?」
そんなレードを見て、相方のガドは憤怒の顔をしながらセレーナに殴りかかろうとする。だがそれも無駄に終わることになる。
「セレーナを殴ろうとしてんじゃないわよ。ウッドアーム」
「がはっ!?」
セレーナに殴打をくり出す前にガドは、セレーナが発動した巨大な木の腕によって地面へと叩き潰されることになる。
「あ、が……」
白目を剥きながらガドは僅かに息があった。普通なら致命傷となる一撃を受けて尚生きているとは流石は鬼人族というべきか、凄まじい生命力を誇っていた。
「これ以上動かれるのは面倒ね。ソーンバインド」
念の為にアイビーは魔法陣が出現する荊でレードとガドを拘束する。
「な、何をするんだ!? 早く僕達の拘束を解け--ぎゅああああああああっ!?」
荊の拘束から逃れようとするレードだったが、それが逆効果だったようだ。暴れる度に荊の棘が肉体に食い込んでいき、切り裂いていく。あまりの激痛にレードは本日2度目の叫び声を上げる。
「そんな、C等級冒険者の僕達がこうもあっさりとやられるなんて……君達は一体何者なんだよ!?」
レードが犯した最大の過ちは、狩られる側だと思っていたセレーナとアイビーが狩る側の存在だと見抜けなかったことだろう。だからこうしてみっともなく姿になっていた。
「分かった、降参するよ! これまで犯して来た罪を冒険者ギルドに洗いざらい話すから、僕達を殺さないでくれ!」
「今更命乞いなんて図々しいよ」
この後に及んで見苦しくも助けを求めるレードにセレーナは冷やかな視線を向ける。おそらく今まで殺してきた冒険者達も同じように懇願した筈だ。それを容赦なく殺害してきた2人をセレーナはどうしても許すことは出来なかった。
「安心しなさい。アタシ達はアンタ等を殺さないわ」
まさかのアイビーの言葉にレードは思わず歓喜の表情を、セレーナは不満の表情を浮かべることになる。
「姉さん、どうしてそんなことを……」
「そのままの意味よ。アタシ達はこいつ等を殺さない。何故ならもっと相応しい相手がいるから」
そう言ってアイビーは森の奥へと視線を向ける。
するとレードとガドの流す血に引き寄せられて来たのか、まるで狼のような魔物の群れが姿を現す。
「まさか……フォレストウルフ!?」
魔物の姿にレードは血の気が引き、顔を青くする。
フォレストウルフとは狼型のD等級魔物だ。森を縄張りにして群れで狩りを行う習性がある。
普段のレードとガドならなんてことない相手なのだが、今はアイビーの魔法の荊によって拘束されているので対処は不可能だった。
「アンタ達は魔物の餌になって人生を終えるのよ。まさに『弱肉強食』ね。さ、行きましょうセレーナ」
「うん」
「ま、待ってくれよ! 置いて行かないでくれよ!!」
助けを求めるレードとガドを無慈悲にその場に残してセレーナとアイビーはその場から去ってしまう。
「い、嫌だ! こんなところで死ぬのは嫌だ!! やめろ、これ以上近寄るな! ぎゃあああああああああ!!」
レードの3度目の叫び声が森に響き渡るが、誰も助ける者はいなかった。
これが因果応報というものなのか。
こうして散々非道な行為を行なって来た冒険者2人はフォレストウルフの餌になってその生涯を終えることになるのだった。




