工場が人生レベルで俺を手放してくれないのだが
?「お疲れ様でした、絹罹さん。」
誰かの声がする。頭が重い。意識が朦朧としている。
?「あなたの人生は先程、終わりましたよ。」
ん?何を言っているんだ?上手く理解することができない。
人生がうんちゃらって、一体何の話をしているんだ。
?「まだ眠たいようですね。起きて下さい、絹罹よしのぶさん。」
、、、誰だろう、この声の主は。聞き覚えの無い声のように思えるが。
申し訳ないが、今は「ごめんだけど、あと5分だけ」とか言うレベルを通り越して、しっかりと後8時間は寝れるレベルで眠たいんだが。
何だろう、人の名前勝手に呼ぶの辞めてもらっていいッスか?
あまりの眠気に、言葉理性の制御を失いつつある。それくらいに気怠さが絹罹の全身を覆っていた。
?「はぁ、近年稀にみるお寝坊さんみたいですね。」
?「仕方ありませんね。こうなっては力ずくで、、、。」
?「絹罹工場長!!始業開始10分前です!!点検をお願いします!!」
大声と共にチャイム音が響き渡る。
、、、、何ッ!?い、いかん作業開始が遅れてしまう。ラインの遅れは利益に直径してしまう。
寝坊確定演出に、工場長魂にバチッと火がつく。
くっ、少しの怠さはあるが恐らくは微熱程度だろう。
仕方ない。おい、皆!!すぐに行くぞ!!
「急ぎ、始業前の最終点検を行います!!」
重い瞼を無理やりにこじ開けながら、最大限であろう声で、高らかに宣言をかまし、ガバッと起き上がる絹罹。
まだ意識は完全に覚醒はしていないが、寝坊する訳にはいかないという、染み付いた強い責任感で奮い立った。
?「ふふふ。本当にあなたという人は、つくづく真面目な人ですねぇ」
「えっ?うぅぅわぁぁぁあぁあ!!お、女の人がなんでここに!!?」
「いやいやいやいや、俺は本当に何もしてませんから!!」
「本当、もう勘弁して下さい。」
激しく取り乱す絹罹。先程までの眠たそうな雰囲気をなぎ払い、勝って出てきたのは張り付いた恐怖心であった。
絹罹はしっかりと女性恐怖症となっていた。
しかし、それもその筈。セクシャルハラスメントに粛清され、そこから転落の一途を辿り、挙句の果てには、出所したその日に交通事故で亡くなっていたのだから。
全身から吹き出る冷や汗は冷やすどころか、より身体を暑くさせている。
高鳴る鼓動は聞こえてはこないが、その分増して手足が震えている。
?「おやおや、美人はお嫌いでしたか?」
不敵に笑いながら、更に女性は話しかけてくる。
女神「私はね、女性ではありますが、人間ではありませんよ。言うなれば女神です。」
女神「だから安心して下さい。ここには人間の女性はいません。」
恐怖心に支配されながらも、女神と名乗った女性の声は絹罹の中に入って拒めない。
まるで、頭の中に直接語りかけられている様だった。
女神「落ち着いて下さいね、絹罹よしのぶさん。あなたはね、昨日亡くなられているのですよ。」
突然のストレートすぎるその言葉の威力は、正にトラックに轢かれる以上の衝撃を与えてきた。
破壊的な一言を聞いたその瞬間、恐怖心に支配されていた身体は、急にそれから解放された。
そして一瞬で訪れた、全てが静止する魔の時。ZONEのそれに近いものかもしれない。
元から意識が覚醒しきれていなかったとは言え、
ちょっとやそっとでは、やはり理解できなかった。
「亡くなって、、、?え?」
無意識に振り絞って出たやっとの声。
女神「はい。残念ですが、事故で亡くなられているんですよ。」
眼がガン開きになるほどの放心状態で、ゆっくりと顔を上げてみると、そこにはピンク髪の小柄で童顔の子供?らしき女性がいた。
見た目が女性なので、出現を目視で確認できた瞬間に脈拍の乱れは感じたが、今はちゃんと確認しなければならない事がある。
「えーっと、その、あぁ、女神さん?でしたっけ?」
震えた声で尋ねてみると、堂々とした表情を崩さぬままの女神が返してくる。
女神「はい、そうですよ。どうしましたか?」
「その、いや、えっと。僕は死んだ、、、ということでしょうかね?」
女神「はい。亡くなられていますね。」
「あぁ、はっははは。じゃ、じゃあここは一体どこなのでしょうか?」
女神「ここは役目を終えた魂達の集う場所。分かりやすく言うと神様の世界ですね。」
「神様ですか、、、。」
女神「そうです。そして端的に説明させていただかきと、ここではお役目を終えて帰還した魂たちを、次なる旅へと送り出す事をしています。」
女神「人間の言葉で言うと、輪廻転生と言うものですね。
「輪廻転生、、、ですか。何かの冗談ですか?と聞き返してみようとも思いましたが、この周りの風景を見るに、ここは本当に神様の世界のようですね。」
絹罹の目の前には女神がおり、その後ろにはビル10階くらいの高さに相当するであろう扉がそびえ立っている。
扉には何やら解読できない文字が刻まれており、それ以外の周りの景色と言えば、一面を霧のようなもの中にオーブの様な光が無数に飛んでいる状態。
ここはどこですか?と聞かれたら、普通に「知らん」としか言えない。そんな認知とはかけ離れた景色が広がっているのだ。
女神「信じてもらえたなら良かったです。たまに錯乱する方もいますから、今回は適応力が高くて助かりましたよ。」
「いやいや、それほ、、、、」
絹罹の返事など、お構い無しに続ける女神。
女神「それでは早速ですが、先程申し上げた通りに、あなたには輪廻転生をしてもらいます。」
女神「この際に重視されるのは、あなたの前世です。どれ程に現世に貢献してきたのか、これを神の物差しでジャッジし、転生先を幾つか提示します。」
「転生先をこちらに提示しても、、、」
またも絹罹の言葉に被せる女神。
女神「ただし提示された転生先を自由に選べる訳ではありません。」
「え?それってつま、、、」
女神「通常の場合、転生先は5〜6個ほど提示されます。その行き先が書かれたルーレットにダーツを投げてもらい、当たったところが次のあなたの転生先となります。」
思わずちょっと大きい声がでる絹罹。
「ちょぉおおおおおおっとぉ!!!」
女神「どうしました?」
女神も一通りの説明が終わり、やっと反応を見せる。
「そんな感じなんですか!?そんなテレビ番組みたいな!?ちょっと、何か、ちょっと慎重に選べたりしないのですか?!」
女神「人生はあなたを待ってはくれません。周りもあなたを待ってはくれません。導かれるままに、あるがままに。これが神の世界の常識なのです。」
女神「仮に選べたところで幸せが待っているとは限りません。それこそ、あなたが歩みの中で掴むものです。」
女神「本当に真剣に選ぶべきは、生きる中での自身の選択肢です。それを誤ったからこそ、絹罹という人生を不本意な形で締めくくったのではないのですか?」
「、、、、それは、そうかもしれませんが、、、。」
女神「大丈夫ですよ。転生先はあなたの前世が反映されて選ばれます。見たことろ、あなた自身は極悪人ではないようですし、変な転生先は選択肢に入ってはこないでしょう。」
「はぁ、いやぁ、そうは言っても、、、」
女神「そうですね。そうは言っても、もうダーツの矢は、ほら。あなたの右手にすでに有りますしね。行くしかないですものね。」
「えっ?」
ニッコリと笑っている女神の視線の先は俺の右手だった。
言われてみれば、いつの間にか右手に違和感がある。
冷たく、冷徹さを感じるという表現が正しいかは分からないが、何かとてつもない寒気のようなものを右手に感じる。
恐る恐る確認してみると、確かに俺の右手には、いつの間にやら銀色のダーツの矢が握られていた。
「ぼぶぇぅえ!?」変な声が出てしまった。
女神「そうです。ぼぶぇぅえっと言った勢いのままに、運命の導きに身を委ねることこそ、今のあなたがするべきことなのです。」
「さっきから、全然俺の話聞いてませんよね!?」
女神「神が人の言葉を聞き漏らすとでも?愚問ですね。ちゃんと聞いていますよ、ぼぶぇぅえ!?っですよね。その通りです。それでは、転生先が出揃ったみたいなので確認していきましょうか。」
絹罹の話など、全然聞いていない様子である。
もしかすると〜、絹罹はふと思った。
もしかして、これって、この女神さんは俺のこと嫌いなんじゃ、、、。
そして、重ねてもしかすると、それが理由で変な転生先がずらりと並んだりするのではなかろうか。
神話の神様って、意外と理不尽な方も多かったような、、、。
そう思うと、話しかけずにはいられなかった。
「あ、あのぉ、俺って、あの、何かやっちゃいましたか、、、?」
精一杯の今できる質問を投げかけてみる。
女神「ん?何もしてはいませんよ。これからですよ、ダーツを投げるのは。わくわくしますね!」
何故か徐々にテンション上げながら、純真な笑顔をこちらに向け返事をする女神。絹罹も「あぁこういう神なんだな」と悟り、少し肩を落とす。
女神「さぁて、それでは転生先が出揃いましたよ!絹罹さんも、ほらご覧下さい!」
女神が今日一番のテンションで話しかけてくる。
ご覧下さいと指さされたその先には、円形のフレ〇ドパークさながらのダーツボードが用意されており、円の内側には、転生先の書かれた均等な扇形が6つあるのが見て分かった。
ダーツボードを目を凝らして良く見てみると、全てひらがなで記載してある。
内容を読んでみる事にするが、本当に驚くことになった。
・ぺんぎん(おす)
・あろわな(おす)
・まいなすどらいばー(まいなす)
・べるとこんべあ(しょくひん)
・せきゆおう(あらぶ)
・とらっく(おおがた)
あまりの衝撃に「これは一体?」というような顔で、数秒固まってしまった絹罹に対し、女神は急かしてきた。
女神「さぁあ!絹罹さん!次回の旅は如何様になるのでしょうねぇ!運命の一投ですよ!!」
相変わらずのマイペースの女神に、次の瞬間には自然とツッコミをかましてしまっていた。
「ちょっと待ったぁあああ!!」
「なんじゃああ、こりゃあああ!!」
絹罹にしては珍しく、雑な言葉遣いで声を荒らげて動揺してしまう。
「人間に転生するんじゃないんかぁ!?」
「なんで半分も無機質がおるんじゃあああ!?」
「そんで、石油王と無機質の落差が激しすぎるやろがぁああい!」
ぜいぜいと息を切らしながらも、大声でツッコミ混じりの抗議をぶつけてみる。
しかし、女神はいつでもマイペースな様で「なにが?」と言いたげな表情をしている。
女神「呪いの人形とか、ご存知ありませんか?」
「何を言っとるんじゃあああ!!どこに転生したら呪いの人形になる世界があるんじゃああ!!」
ツッコミ&抗議が止まらない。
女神「無機質な物にも魂は宿っていますよ。例えば職人さんが丹精込めて作った物や、念が押し込まれた人形など。」
女神「確かに人前で動いたりはしません。しかし、銅像が夜中歩いたり、ピアノが勝手に鳴ったり、電気が突然消えたり。無機質な物に魂が宿り起きた現象を、あなたも聞いた事くらいはあるでしょう。」
ものすごく正論を言いました。みたいな顔をしている女神見て、絹罹も反撃する。
「いや、それは怪奇現象やろがあぁ!!」
「転生した先が残留思念でしたって、そんな事あるかぁあ!!」
女神「しかし、もし残留思念だと思っていたそれが、実は全て、転生した魂たちだとしたら。」
「!?」
ボソッと鋭い顔つきで割って入ってくる。
女神「人間の物差しで、神の領域は測れませんよ。」
女神「あなたの思っているそれは、ただの偏見です。無機質?笑わせないで下さい。彼らも皆一様に、魂がちゃんと宿っています。」
女神「それに気づいていないのは、愚かな人間だけです。逆に言えば、神の世界でそれは当たり前の事実。何も知らぬあなたにものを言われても、何も変わりませんよ。」
先程のハイテンションから打って変わって、いきなり冷静かつ真面目な雰囲気で切り出され、絹罹も少し面食らってしまう。
「た、確かに言ってることはそうかもしれませんが、、、マイナスドライバーとかペンギンとか、何か関係性がよく分かんないんですけど、、、。」
どうしても納得することのできない選択肢に、大抵のことならいつも諦めて流す絹罹でも、簡単に譲ることはできなかった。
女神「はぁ、関係性ですか。一度言いましたが、あなたの前世に選択肢は関連しています。」
女神「まず幼い頃から水族館が好きだった、だから水辺の生き物です、」
女神「次に、ハイオクはコーラの味だ。と友人に吹き込まれて少量のハイオクを口に含み、死にかけた経験から石油王。」
女神「あとはまぁ工場長関連ですね、」
「どっから引っ張ってきてんねぇぇんん!!」
心当たりは確かにあるが、想定外すぎるところからのピックアップに、思わず声が漏れてしまう。
女神「そうやって喚いていても、何も始まりません。さぁ、お早くダーツを投げて下さいよ。」
女神「それとあまり五月蝿いと、地獄に落としますよ?」
「ッ!?」
地獄という突然の強烈フレーズに、空いた口が塞がる。
女神「よろしい。次に吐き出す言葉には重々気をつけて下さい。その言葉次第で全てを決します。」
女神「絹罹よしのぶさん。新しい旅に進みますか?それとも地獄にでも行ってみますか?」
、、、、、卑怯だ。素直にそう思った。しかし、生殺与奪を握られているこの状況では、最早歯向かいようが無いように思える。
良く考えてもみれば、この女神さんと出会ってから、初めてちゃんと俺の話を聞いてくれる様子を見せてくれている。
覚悟を、、、決めるしかない、、な。腹を括った。
「ダーツ、、、投げさせて下さい。」
女神「やっとその気になりましたね。良いですよ。一回きりの大切な選択。良く味わいながら進んで下さい。」
そう言いながら女神は、おもむろにダーツボードを高速回転させ始める。
「え?これは狙って当てる感じじゃないんですか?」
女神「そうですよ!狙って当てちゃって下さい!」
「、、、、この状態で?」
女神「もちろん!運命の導きを感じますね!」
「、、、、、。」
女神はご機嫌である。少し苛つくが、もう退路など無いことはとうに理解できている。
進む以外には、無い。人生とはいつだってそうだ。
時間は戻らない。後悔も、幸福も、全てを乗り越えることしか、初めから選択できる筈も無い!!
「えぇーーーい!!ままよ!!」
勢い良く放たれた銀色のダーツは、全てを飲み込む勢いで回転しているボードへと勇ましく突き進んでいった。
銀色のダーツは、退路の無い絹罹を自らに重ねるかのように、運命に導かれていく。
絹罹の狙いは、石油王。ここ一択だ。
ドスッ。重々しい音が鳴り、ダーツが刺さったことを耳で確認する。
恐る恐る眼を開けると、ボードの回転も少しずつ緩やかになってきている。
頼む、石油王。頼む、石油王。俺は石油王になる!!
止まりきったボードに、力強く突き刺さっているダーツの先には「べるとこんべあ」の文字。
女神「はーーーい!!絹罹よしのぶ、次はべるとこんべあに決定ーーー!!」
視界が揺らぐ。頭が溶ける。
絶望的な状況から、後は上がるしか無いかと思っていたのだが。
待っていたのは更なる絶望。
工場はまだ俺を逃がしてはくれないみたいだ。
ただ、一つだけ言わせて欲しい。
「ベルトコンベアに転生ってなんだぁぁぁぁ!!」




