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すみませんが裁判だけは本当に辞めて下さい、マジで

最弱の人間から最強の機械に!?


今までに無い最強の無機質転生を果たした

工場長は、前世に抱えた闇を秘めつつ今世とどう向き合うのか?


乞うご期待!!

「おつかれッス!」気さくに挨拶をしながら、肩にポンッと触れて社員を労う工場長。


「え?ちょっと気軽に触らないでもらえませんか?」不機嫌そうな顔で、最早裁判をも辞さないといった表情でこちらを睨みつける女性社員さん。


俺は思わず身を震わせてしまいながら、冷や汗と共に音場を発する。


「あっ、ごめんなさい。」情けなくも、早々に謝ってはみたのだが、手遅れだったようで。


現在の法律は、俺に助かる活路を恵んではくれないようだった。


ゴンッ!と高らかにも重く鳴り響くのはガベルの音。

こいつは俺を決して許しはしない、逃しもしない。


「それでは、判決を言い渡します。」


「嫌がる女性社員の身体に、許可無く触れる行為はセクシャルハラスメントに該当します。」


「従って、本件はセクシャルハラスメントと断定し、被告・絹羅よしのぶには6年以上または10年以下の拘禁刑を言い渡します。」


えぇーー、マジでぇーーー?と思っていたのも束の間、トドメにかかる裁判長。


「異論は無いですか?」と、凛とした表情で俺に告げる裁判長に、同じ長と付くものとして言うべきことは1つだった。


「はい、すみませんでじたる。」


「それでは以上を持って閉廷とします!」その宣言を皮切りに、俺はその後の記憶が曖昧になっていた。


それから気が付くと、俺は拘禁刑を言い渡されたので特別な施設にいた。


イケメンなら許されてたのかな。そんなことをぼんやりと考えていた絹罹の頬には暑く流れる涙があった。


元工場長、肥満と言う肩書きに女性恐怖症が新たに追加された彼の施設での態度は、周りの模範そのものだった。


腰を90°曲げてるかな?くらいの礼儀正しいお辞儀からの挨拶。


ホコリ1つ許さない、徹底的な掃除。


ロボットの様に正確な、ラジオ体操。


彼の姿は、施設に入ってから数ヶ月もする頃には、何とも凛々しいのもとなっていた。


作業を丁寧にこなしながら、弾ける汗と笑顔には、以前の工場勤務時代にはあまり感じることのできなかった喜びのようなものが滲みでている。


そんな彼の姿を見て、次第に周りの人間たちにも変化がでてきた。


これまで掃除や作業などを面倒に思い、手を抜く者が殆どであった。


しかし、絹罹の懸命な姿にあてられてか、手を抜くことをする者が少しずつ減ってきたのだった。


更に数ヶ月が経ち、気づけば施設全体に妙な連帯感のようなものが生まれつつあった。


その連帯感とは、誰かを縛るものではなく、皆にとっての心地の良いものであり、どこか嬉しさのようなものが芽生えてくるものであった。


そして、その中心に君臨していたのはもちろん絹罹だ。


彼のその正しい行いや所作が、清い1日を送ることの素晴らしさを肌で説いていたのだ。


それが次第に1人へと、また1人へと伝播していき、やがては施設全体を包むほどの説法となっていた。


「絹さん、おざっす!」


俺を絹さんと呼び、爽やかに挨拶をくれる黒髪ショートの彼は宮田くんだ。


見たことろ20歳そこそこの彼は、絹罹が入所した少し後にここに来た新人さんだ。


細身で肌も綺麗で、身長とかも何か良い感じの今どき風イケメンの彼は、何をやってここに来たのかは知る由もないが、少なくともセクハラとかではないだろうなと感じていた。



「あぁ、おはようございます、宮田くん。」


爽やかな笑顔で挨拶を返す絹罹。ハラスメントの隙を与えない立ち回りもすっかり板についてきていた。


宮田「絹さん、今日は忙しい1日になりそうですねぇ」


「あぁ、本当にそうだね。なんせ今日はこの施設の一部を一般開放してのバザーデーだからね。」


「俺も初めてだから良く分からないけど、聞く話じゃあ結構人がくるみたいだからね。」


宮田「ですよね。でも絹さんみたいな温厚な人がリーダーで本当に良かったです!」


絹罹は、普段の素行の良さから本件の中心人物(リーダー)としての位置を言い渡されていた。


彼の右腕に付けられている光り輝く赤いワッペンが、正にその証だ。



「いやいや、皆の力が合わさったからこそだよ。」


「それに、ここまで俺自身が楽しんで作業できたのは君たちのお陰だと感謝しているくらいだよ。」


ニッコリと笑って感謝を伝える。実に清々しい気分であった。

絹罹にとって、今を生きることは工場長をしていた頃よりも活き活きできていると感じていた。


宮田「絹さんにそう言ってもらえると嬉しいですよ!」


宮田「今日のバザーデー、皆で絶対に成功させましょうね!」


あぁ、なんと眩しい青年なのだろう。そして何をしてしまい、こんな所に来てしまったのだろう。


晴れ晴れとした宮田の態度に、絹罹は更にボルテージが上げていった。


「あぁ、皆で絶対に成功させよう!行こう、宮田君!」


宮田「はいっ!」


威勢の良い返事をもらった絹罹は、右手の親指をグッと立てながら、宮田の肩にポンッと左手をおく。


一連の動作に笑みを浮かべる2人は、軽やかに、しかし頼もしいさを背に抱きながら施設内へと足を急がせた。


朝9時。施設の中庭に約100名の受刑者たちが綺麗に整列して、開催の言葉を待つ。


看守長「えー本日は実に素晴らしい。天気も良いし、皆さんの顔にも雲が無いように見える。」


看守長「私もここの長となって25年経ちますが、こんなにバザーデーの成功を確信した日はありませんでした。」


看守長「一般のお客さんとの触れ合いは、社会貢献の第一歩となります。果ては、受刑者という言葉のイメージの改善にも繋がることでしょう。」


看守長「皆さんの未来の為にも、今日は一日がんばりましょう」


看守長の短くも愛のこもった檄を受け、皆やる気を最高潮に昂らせる。


一同「はいっ!!」


乱れの無い返答を受け、やはりなと成功を改めて確信する看守一同。


午前10時。「開場します!!」掛け声と共に、一般のお客さんたちも足早に入場してくる。


次々と途切れることなく入場してくるお客さんを目前とし、「いらっしゃいませ!」と各所で元気な声が飛び交う。


その頃絹罹はと言うと、不良品や不用品となった木材を再加工して作成した椅子やミニテーブル等の販売を担当していた。


主婦「あら、結構おしゃれなものがあるんですね♪」


「どうぞ、お気軽にお手にとってご覧下さいね!」


営業スマイルを常に纏う絹罹からは、社会人経験の豊富さを垣間見ることができた。


お客さんの反応も良く、接客もまたお手の物と言った具合だ。


そんな絹罹等の努力は、最初こそ幾ばかりかの不安もあったものの、開場から僅か4時間で実を結ぶこととなった。


なんと本来の開催時間が6時間のところに対し、開場4時間あまりでの各所からの完売報告が次々と上がっていたのだ。


これには看守長を含め、施設のスタッフはもちろんのこと、その場にいる誰もが湧き上がる幸せを噛み締めることとなっていた。


こうして施設全体をあげてのバザーデーは、大いなる成功を納めることとなり、看守長からも「過去一番の盛り上がりだった!」と賞賛を受けたのだった。


無事にバザーデーも終了し、いつもなら質素な晩御飯に舌鼓をうっている頃合なのだが、今日は特別。


施設始まって以来とも言える快挙に、急遽簡素ながらも打ち上げ会が開催されることとなったのだった。


この打ち上げの中で、やはり絹罹は中心的な人物として君臨していた。

バザーデーも宛ら、日常においても品行方正な振る舞いで、中心的な人物となっていた絹罹。打ち上げの場で、正にヒーローとして皆から惜しみない労いの言葉を浴びていた。


「いやぁ、ほんと皆さんのお陰ですから!」


「私一人ではとてもとても」


「このメンバーで成功できたことが何より嬉しいですよ」


絹罹も皆に感謝の言葉で応える。


ここで打ち上げと言うこともあり、施設側から生ビールが紙コップ一杯程度、皆に配られる。


粋な計らいである。


久しぶりの生ビールとの対面に、呑んでもいないのにも関わらず、思わず頬を赤らめる絹罹。


そう。絹罹は大のビール好きで、工場長時代は晩酌を毎夜欠かさないほどであった。


有難い。本当に。そう思った。


意図しない出来事とは言え、罪を犯してしまったという負い目を、普段感じずにはいられずに過ごしてきた。


大好きなビールのことですらも、今の今まで頭から抜け落ちでいた。


そんな絹罹の元にも運ばれてくる、冷えた生ビール。


ご対面に無意識に少し手が震えているのが分かる

。


指先に走る微かな痛みは、キンキンに冷えたビールが主張する個性が故の至福の感覚。


思い出す、仕事終わりに出会える唯一の存在。


やっと会えた。頂きます。


「あぁ、キンッキンに冷えてやがるぅ。」


噛み締めざる得ない、後悔と苦労の先にある報いという味わい。絶品である。


勢いのままにビールを一気に飲み干すし、周りを見渡してみると、皆もほぼ同じタイミングで飲み終えていたようで、眼には薄っすらと涙を含ませているのが分かる。


「お疲れ様」「本当にお疲れ様」


そんな声が周りで飛び交っている。ここはハッピーワールドだなぁなどと呑気に思っている瞬間、背後に気配を感じる。


えっ?と思い振り返ってみると、一人の看守がいつの間にか後ろに立っていた。


黒髪短髪で、スラリとしており、帽子を深く被っている為に顔は良く見えないが、看守にしてはやや華奢なスタイルだなと感じた。


「これは看守殿、如何なさいました?」


看守「絹罹さんがこの施設にきてくれて本当に良かったです。」


「え?いやいや、俺としても成功したのは良かったですが、来たくて来たわけでは、、、。」


苦笑気味に告げる絹罹に、クスッと笑いながら看守も返事をする。


看守「わかってますよ、そんなことは。でも、絹罹さんが来て、ここが変わったのは事実ですから。」


「ま、まぁ、そう言っていただけるのは嬉しいですが、ちょっと複雑ですね」


絹罹も恥ずかしさ混じりの苦笑をしながら返す。


看守「実は、絹罹さんが来るまではここの人たちは結構荒れていたんですよ?」


「そうなのですか?」

意外だと感じた。囚人ではあるが、素直な面を持ち合わせていた彼らが、看守から見ても荒れていると思われていたなんて。


看守「そうですよ!だから看守側もストレスが溜まってしまい、ぶっちゃけこちら側の雰囲気もあまり良くはなかったのが現実です。」


「そうなのですか、、、少しびっくりです。俺が見ていた光景とは少し違ったのですね」


看守「はい。だから、絹罹さんが風紀を変えてくれたことに感謝しています。」


看守「看守としてではなく、一人間として、ありがとう。」


思いがけないカミングアウト&感謝に更に顔を赤らめる。


看守「呑みすぎました?顔、赤いですよ」


笑いながら言う看守。


「いやいや、久しぶりのアルコールが染みているんですよ。」


今日くらいは何かのせいにしても罰は当たらないだろう。晴れやかな気持ちで絹罹も更に返す。


「でも、ありがとうございます。これからも罪を償いながら俺、頑張ります。看守さんも何か困ったこ事があったらいつでも声をかけて下さいね」


ニコっと笑いかけ、ポンッと看守の肩に手を置く。


看守「きゃっ。ちょっと!!」


響く看守の声。


「え?え?え?」


挙動不審気味にキョロキョロとしてみる絹罹。


突然なにが起きた?何事だ?と脳内はパニック状態である。


しかし、どういう訳かこういう突然の場面等では、一時的にではあるが時間の進みが異常に遅く感じることがある。


これはスポーツ選手で言うところのいわゆるZONEと言うものであり、周りの時間の進みに対し、思考が倍速以上で進む為に生じる、時間と思考の感覚ズレのことだ。


絹罹は正に今、夢見心地から一瞬で現実へと引き戻された為に、ZONEが強制的に発動されたのだった。


きゃって何だ?

あの不愉快そうな顔は何だ?

あの触れた肩を庇うような仕草は何だ?

あの俺を見る眼は何だ?

、、、って言うか、あの高い声は何だ?


行き過ぎた思考が、ZONEを経て自分の中へと帰ってくる。その間約2秒の出来事。


瞬間。猛烈な悪寒を覚える。

鳥肌が立っている。全身から妙な汗も吹き出してきているではないか。


怖い。この感覚はまるであの時の、、、、、!!


全てを悟れてしまった時には、もう遅かった。


看守「あの、すみません。勝手に触らないでもらえますか。」


「あっ、ごめんなさい。」


こうして、元工場長・絹罹よしのぶは人生二度目のセクシャルハラスメントを犯し、再度裁判をすることとなってしまった。


裁判の内容は割愛させていただくが、反省していないのでは?との見解を打破することが出来ずに、判決は見事に有罪。

気がつけば再び施設へ。


そして、裁判の間留守にしていた施設に戻ると、以前の様子は無く、被害者の女性看守が前に言っていたような、荒れ果てた施設へと逆戻りしていた。


そこからは正に地獄の呼べる日々を送ることとなる。


以前の英雄の姿は、今や堕天した者として呪物のような扱いを受けることもしばしば。


元工場長・女性恐怖症・人間不信・元英雄・特級呪物と盛りに盛られた肩書きを連ね、刑期は10年もある始末。


絹罹は最早、無難に目立たず、透明人間の如く生活することを心がけるようになっていた。


苦い記憶は自らに重い蓋をして、動かない。


このトラウマは、絹罹の人格そのものを変えてしまうに大いに値するものだった。


そして、時は進み、10年間もの時をただひたすらに透明に過ごすことを終えた10月20日。


朝11時、絹罹は施設を解放された。


久しぶりの自由の生活、外での生活。10年という時間はあまりに長く、自らをタイムトラベラーかと思う程に、景色は見慣れないものへと変貌していた。


ここは本当にあの道なのか?そんなことを感じながら、フラフラ歩きだし、とりあえず元住んでいた場所に帰るべく、縮こまりながら長旅の帰路につく。


道中にある感覚、「怖い」ただそれだけだった。


恐怖というものは時に魔物だ。感じている者を引きずり込もうと、常に手招きをしてる。

その手招きは、常に視界にあり、思考にへばりて離れない。


絹罹はそんな魔物と戦いながら、フラフラと歩いていた。


永遠と思えるほど長い帰路をフラフラと歩いていた。


刹那。キキィィィー!!!!大音量のブレーキ音が鳴り響く。

次の瞬間には、絹罹の身体は宙へと浮かび上がっていた。


痛みなど感じる余裕もなかった。ただただ視界が黒に染まっていく。

意識が白に染まっていく。


「大丈夫か、おい、アンタ!」


周りが何か騒がしいなぁ。長いこと不眠気味だったんだよな、俺。でも今は凄く眠いんだ。


「おい、アンタは救急車を!早く!」


あぁ、やっと眠れるんだな。人が周りにいる気がするけど、久しぶりだな、人に囲まれるのは。誰なんだろう?


ダメだ。見えない。暗い。


こうして、絹罹よしのぶの最弱工場長としての人生は幕を引いたのであった。


次回はついに無機質転生!?


最弱の人生を涙と共に終えた主人公は次回、復讐の鬼と化すのか?


乞うご期待!

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