↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の君へ —— 魔王になった僕が君を救う物語——  作者: R.R.
第四章 真実と未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/42

40、帰還

大聖堂に、金色の紙吹雪が舞っていた。


 赤い絨毯が敷かれた中央通路の両脇には、王国の高官や貴族、騎士たちが並んでいる。


「セシリア様!」


「人類の英雄だ!」


「我が国の救世主よ!」


 割れんばかりの歓声が響き渡る。


 その中央を、セシリアは一人で歩いていた。


 魔王城から戻ってきたばかりの身体には、まだ戦いの疲労が残っている。


 それでも、足は止まらない。


 壇上には国王が立っていた。


 金色の冠を頭に乗せ、満足そうな笑みを浮かべている。


「勇敢なる勇者セシリアよ!」


 国王が両手を広げた。


「お前は身を挺して我が国最大の脅威を打ち倒した! その功績は永遠に語り継がれるだろう!」


 拍手が起こる。


「お前には王国最高位の爵位を与える!」


 さらに歓声が膨れ上がった。


「そして今後も、栄誉ある勇者として――」


 セシリアは動かなかった。


 ただ、国王を見ていた。


 その碧い瞳には、以前のような戸惑いも怯えもない。


 冷たい。


 ただ、それだけだった。


「……セシリア?」


 国王が首を傾げる。


「どうした。早くひざまずき、褒美を受け取るのだ」


 返事はない。


 セシリアは一歩、前へ出た。


 カツン。


 靴音が大聖堂に響く。


 もう一歩。


 カツン。


 歓声が少しずつ小さくなっていく。


 貴族たちが顔を見合わせた。


 セシリアは国王の目の前まで歩き、そこで足を止めた。


「……こんなものに」


 静かな声だった。


「何の価値があるというのですか」


「……なんだと?」


 国王の眉が動く。


 セシリアは視線を逸らさなかった。


「あなたが隠し続けた呪いのシステムも」


 一言ずつ、噛みしめるように言葉を重ねる。


「私たちを、使い捨ての道具としか見ていないことも」


 大聖堂から音が消えていく。


「全部、知っています」


 国王の顔から笑みが消えた。


「お前……一体、何を――」


「魔王を討ち取ったあと、私は次の魔王になる」


 セシリアの声は震えなかった。


「だから、その場で自決しろ。そう命令したことも」


 誰かが息を呑んだ。


 国王の顔が引きつる。


「それは……」


「全部、分かっています」


 セシリアは聖剣へ手を伸ばした。


 けれど、その剣を誇らしげに掲げることはしない。


「英雄の栄誉なんて、いりません」


「セシリア!」


「王国の地位も」


 彼女はゆっくりと国王から視線を外した。


「あなた方から与えられる褒美も、全部いりません」


 その言葉に、騎士たちがざわめく。


 それでもセシリアは振り返らない。


「私を縛るものなど、この国にはもう何一つありません」


「待て!」


 国王が声を荒らげた。


「止まれ、セシリア! それは反逆だぞ!」


 セシリアの足は止まらなかった。


 大聖堂の扉へ向かい、そのまま重い扉を押し開ける。


 冷たい風が吹き込んだ。


 銀色の髪が大きく舞う。


 背後では、まだ国王が何か叫んでいる。


 けれど、もう振り返らなかった。


 大聖堂を出る。


 王都を抜ける。


 城門を越える。


 そして、荒野へ続く街道を歩き始めた。


 手には何もない。


 国王から与えられるはずだった爵位も、栄誉もない。


 ただ、胸の奥には一つだけ残っていた。


 シトが命を懸けて守った世界。


 シトが血を流してまで残してくれたもの。


 それだけだった。


 セシリアは前を向いた。


 もう、誰かに決められた「勇者」として歩く必要はない。


 彼の愛と真実を胸に抱えたまま、自分自身の足で歩いていく。


 荒野を渡る風が、長い銀髪を揺らした。


 セシリアは一人、街道の先へ進んでいった。

変更後です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。