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勇者の君へ —— 魔王になった僕が君を救う物語——  作者: R.R.
第三章 決戦

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36/42

36、魔王 対 勇者


 玉座の間が、轟音に揺れた。


 石造りの床を踏み砕きながら、漆黒の甲冑を纏った魔王が一歩踏み込む。


 その瞬間だった。


 足元から噴き上がった黒い魔力が、無数の刃へと姿を変える。


「――っ!」


 次の瞬間、黒い飛剣が一斉に放たれた。


 空気を裂き、音を置き去りにするほどの速度。


 四方八方から迫る刃を、セシリアは紙一重でかわしていく。


 銀色の聖剣が閃いた。


 カンッ!


 一本。


 カンッ!


 二本。


 迫る飛剣を次々と弾き飛ばす。


「……まだ!」


 セシリアが踏み込んだ。


 その瞬間――


 魔王の姿が消えた。


「え……?」


 背後。


 気配を感じたときには、もう遅かった。


 轟音とともに、魔王の回し蹴りがセシリアの脇腹へ叩き込まれる。


「ぐっ……!」


 身体が宙を舞った。


 そのまま石造りの柱へ激突する。


 ドンッ!


 柱に亀裂が走り、大量の石片が床へ落ちた。


 セシリアは崩れ落ちる寸前、聖剣を突き立てて身体を支える。


「……はぁ……っ」


 口元を拭う。


 手の甲に赤い血が付いた。


 それでも、立ち上がる。


 視線だけは魔王から外さない。


(速い……)


 飛剣。


 体術。


 そして、魔力の操作。


 一つ一つの攻撃に無駄がない。


 セシリアは息を整えながら、魔王の足元を見る。


 重心。


 肩の動き。


 魔力が生まれる瞬間の僅かな気配。


 ひとつでも見落とせば、次は死ぬ。


「どうした、勇者セシリア」


 魔王がゆっくりと歩いてくる。


「その程度の刃で、仲間たちの無念を晴らすつもりか?」


「……」


「思い出せ。お前が守れなかった者たちを」


 セシリアの指が、聖剣の柄を強く握った。


「仲間たちは泣き叫びながら死んでいった。すべて、お前の無力さのせいだ」


「……黙れ!」


 声が玉座の間に響いた。


 ルカ。


 戦場で散っていった仲間たち。


 脳裏に浮かぶ光景を、セシリアは振り払うように首を振る。


 だが、魔王は止まらない。


「学園で過ごした穏やかな時間もそうだ」


 仮面の奥の目が細められる。


「シトとかいう薄汚いガキにすがっていたな」


「……!」


 セシリアの動きが止まった。


 脳裏に浮かんだのは、あの日々だった。


 放課後の教室。


 笑い合った時間。


 頭を撫でてくれた、大きな手。


『君は君のままでいい』


 シトの声。


(違う……)


 セシリアは唇を噛んだ。


(あれは……甘えなんかじゃない)


 聖剣を握り直す。


 震えていた手が、止まった。


「……私が、ここまで来たのは」


 顔を上げる。


「シトにすがるためじゃない」


 魔王が笑った。


「ならば教えてやろう」


 一歩。


 魔王が踏み出す。


「お前が愛し、待ち続けていたシトなら――」


 セシリアの瞳が揺れる。


「すでに僕が殺した」


「…………え?」


「この手で惨殺してやった。肉片すら残っていない」


 静寂。


 玉座の間から、音が消えた。


「…………」


 セシリアは何も言わなかった。


 ただ、聖剣を握っている。


 その指が、ゆっくりと白くなる。


「……シトが」


 小さな声だった。


「死んだ……?」


 返事はない。


 代わりに、魔王の口元がわずかに歪んだ。


 その瞬間だった。


 セシリアの瞳から、光が消えた。


 悲鳴もない。


 涙もない。


 ただ、聖剣を握る手に力が込められていく。


 ギシッ。


 柄が軋んだ。


 彼女はゆっくりと顔を上げる。


 そこに、先ほどまでの勇者の姿はなかった。


「……そう」


 聖剣が震える。


 銀色だった刀身が、徐々に黒く染まっていく。


「あなたが……シトを殺したのね」


 魔王が黒い長剣を構える。


「ようやく、その顔になったか」


 セシリアは答えない。


 ただ、聖剣を構えた。


(……殺す)


 一歩、踏み出す。


(この男を)


 さらに一歩。


(私の手で)


 床の石畳が、足元から砕けた。


 セシリアの全身から、凄まじい殺気が噴き出す。


 魔王の周囲を覆っていた黒い魔力すら、押し返すほどの殺意。


 聖剣が激しく脈動した。


 銀色の光が、更なる力強い光へと変わっていく。


「…………」


 魔王が剣を構え直す。


 セシリアもまた、聖剣を握り直した。


 二人の視線が交わる。


 一秒。


 いや、それすら長すぎた。


 玉座の間を震わせていた空気が、一瞬で張り詰める。


 そして――


 ドンッ!!


 二人の姿が同時に消えた。


 石畳が爆ぜる。


 黒と銀。


 二つの刃が、互いの命を奪うために一直線へと走り出した。

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