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勇者の君へ —— 魔王になった僕が君を救う物語——  作者: R.R.
第二章 魔王

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28、強さ

第28話 強さ


 王都の大通りを、セシリアは一人で歩いていた。


 石畳を踏む靴音だけが、一定の間隔で響いている。


「……あれが、噂の」


 すれ違った男が、ちらりとセシリアを見る。


「魔王が現れるところには、いつもあいつがいるらしいぞ」


「じゃあ、本当に英雄なのか?」


「さあな。魔王と裏でつながってるって話もあるらしい」


 小さな声だった。


 けれど、聞こえないほど小さくはない。


 セシリアは足を止めなかった。


 前だけを見る。


 抱えていた荷物の端を、ぎゅっと握る。


 それだけだった。


「……」


 以前なら、立ち止まっていた。


 何が悪かったのか考えて。


 どうすれば認めてもらえるのか悩んで。


 それでも答えが見つからなくて、俯いていた。


 けれど――今は違う。


「英雄じゃなくてもいい」


 誰に聞かせるでもなく、セシリアが小さく呟いた。


「勇者じゃなくても……」


 一歩。


 また一歩。


「私がやることは、変わらない」


 通りの向こうから、また視線が飛んでくる。


 嫌悪。


 疑い。


 恐怖。


 セシリアはそれらを振り切るように、顔を上げた。


「……魔王を倒す」


 青い瞳が、真っ直ぐ前を向く。


 それだけでいい。


 誰かに褒められる必要もない。


 誰かに信じてもらう必要もない。


 自分がやると決めた。


 なら、歩く。


 セシリアは王都の大通りを、そのまま抜けていった。


 その姿を、少し離れた建物の陰から見つめる者がいた。


 黒い外套。


 深く被ったフード。


 シトだった。


「……」


 シトは何も言わなかった。


 ただ、遠ざかっていくセシリアの背中を見つめている。


 以前の彼女なら、周囲の言葉に傷ついていた。


 誰かに手を差し伸べてもらわなければ、立ち上がれなかった。


 けれど今は違う。


 誰にも頼らず、自分の足で歩いている。


「強くなったね」


 小さく呟く。


 その声は、風に紛れて消えた。


 シトはフードをさらに深く引き下げる。


 そして――


 セシリアとは反対の道へ歩き出した。


 彼女の視界から、自分の姿を消すために。


     *


 王都を出たセシリアは、人気のない道を歩いていた。


 風が吹く。


 髪が揺れる。


 遠くから鳥の鳴き声が聞こえた。


 セシリアは足を止め、空を見上げる。


「……シト」


 誰もいない。


 返事もない。


 それでも、セシリアはしばらく空を見ていた。


 やがて、ゆっくりと視線を下ろす。


 腰にある聖剣へ手を伸ばす。


 柄を握った。


「私は……」


 指先に力を込める。


「もう、逃げない」


 聖剣は静かだった。


 まだ、完全には応えてくれない。


 それでも――手放さなかった。


「強くならなくちゃ」


 セシリアは聖剣を握ったまま、歩き出す。


 誰かに認められるためじゃない。


 誰かに褒めてもらうためでもない。


 自分で決めた道を進むために。


 石畳に、足音が響く。


 一歩。


 また一歩。


 その背中は、以前よりずっと小さく見えた。


 けれど、その足取りだけは――以前よりも強かった。

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