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勇者の君へ —— 魔王になった僕が君を救う物語——  作者: R.R.
第二章 魔王

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20、努力の成果


朝の冷気が、窓ガラスを白く曇らせていた。


薄暗い部屋の中。


セシリアはベッドの端に座り、じっと部屋の隅を見つめていた。


そこには、一振りの剣が立てかけられている。


昨日までなら、ただの冷たい鉄の塊にしか見えなかった。


けれど――今は違う。


鞘の隙間から、淡い光が漏れている。


「……え?」


セシリアは目を瞬かせた。


見間違いかと思い、ベッドから立ち上がる。


一歩。


また一歩。


剣の前まで近づく。


漏れ出しているのは、ほんの小さな光だった。


けれど、確かに輝いている。


セシリアは恐る恐る手を伸ばした。


「これ……」


指先が柄に触れる。


その瞬間。


ふわっ。


手のひらに、温かな感触が広がった。


「……っ」


セシリアの肩が跳ねる。


冷たい。


ずっと、そう思っていた。


どれだけ祈っても。


どれだけ剣を振っても。


聖剣は何も答えてくれなかった。


それなのに――。


「温かい……」


セシリアは両手で柄を包み込んだ。


じんわりとした熱が、指先から腕へ伝わってくる。


そして、その光景を見つめたまま。


セシリアの唇が、ゆっくりと震えた。


「……私の、努力……」


声が出ない。


一度、目を閉じる。


昨日までのことが頭をよぎった。


何度も振った剣。


何度も倒れた。


手のひらが裂けても、足が動かなくなっても、それでも立ち上がった。


誰もいない場所で、一人。


何度も。


何度も。


「……届いたんだ」


小さな声が、部屋に落ちた。


セシリアは剣を抱きしめるように胸元へ引き寄せた。


「私……ちゃんと、頑張ってたんだ」


頬を、一筋の涙が伝う。


けれど。


その涙は悲しみによるものではなかった。


セシリアは慌てて袖で目元を拭う。


「だめ……朝から泣いたら……」


そう言いながら、もう一度剣を見る。


淡い金色の光。


それは、確かにそこにあった。


「ふふ……」


セシリアの口元が緩む。


「やった……!」


思わず声が大きくなる。


慌てて口を両手で押さえた。


「……えへへ」


誰もいない部屋なのに、セシリアは少し恥ずかしそうに笑った。


昨日までとは、何かが違う。


聖剣が突然、すべての力を解放したわけではない。


まだ小さな光だ。


けれど。


今まで何をしても動かなかった剣が、初めて自分に応えてくれた。


それだけで十分だった。


セシリアは窓辺まで歩いていく。


カーテンを開ける。


青白かった空が、少しずつ朝の色へ変わっていた。


「……私、まだできる」


剣を握る。


今度は、昨日までとは違う力が指に入った。


「もっと頑張れば……もっと強くなれる」


窓に映った自分を見る。


少し疲れた顔。


目元には、まだ薄く涙の跡が残っている。


それでも。


セシリアは笑った。


「待っててね」


誰に言うでもなく、剣へ語りかける。


「私、ちゃんと強くなるから」


剣は答えない。


ただ、淡い光を放ち続けている。


セシリアは小さく頷いた。


「……うん」


そして、ぎゅっと拳を握る。


「今日も、やろう」


昨日より一回。


今日より明日。


少しずつでもいい。


自分の手で、自分の足で。


前へ進む。


そんな決意を胸に、セシリアは剣を鞘へ戻した。


部屋を出ようとして――。


ふと、足を止める。


振り返る。


「……ありがとう」


淡い光を残す聖剣へ向かって、セシリアは笑った。


「私、負けないから」


扉が開く。


朝の光が部屋へ差し込んだ。


その光の中を、セシリアは歩いていく。


昨日までより少しだけ、背筋を伸ばして。


小さな一歩を踏み出した。


まだ道のりは長い。


魔王との戦いも終わっていない。


自分の力だって、十分とは言えない。


それでも。


昨日まで何も返してくれなかった聖剣が、今は確かに光っている。


ならば。


自分も、立ち止まる必要はない。


セシリアは廊下へ出る。


そして、いつものように歩き始めた。


その足取りは――昨日までより、ほんの少しだけ軽かった。

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