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冷血公爵は仮面の裏で溺愛を隠す〜「愛するつもりはない」と突き放す旦那様は、初恋の私への重すぎる贖罪と執着を抱えていました〜  作者: 黒崎 隼人


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第14話「青い花の絨毯と本物の誓い」

 馬車は王都の喧騒を抜け、北の郊外へと続く街道をなめらかに進んでいた。

 車内には穏やかな空気が満ちており、向かい合って座る二人の間には、以前のような息苦しい沈黙はない。

 クロードは時折窓の外の景色に目をやりながら、時折リリアーナの方へ視線を戻し、わずかに口元を綻ばせる。

 冬の陽射しが彼の銀髪を照らし、冷たかった横顔に柔らかい陰影を落としている。

 やがて馬車が速度を落とし、静かな森の入り口で完全に停止した。

 御者が扉を開け、クロードが先に降りてからリリアーナに手を差し出す。


「足元が滑る。気をつけて」


 リリアーナはその大きな手に自分の手を重ね、慎重に馬車を降りた。


 森の中は、王都よりもさらに空気が澄み切り、静寂に包まれていた。

 クロードに手を引かれるまま、彼女は枯れ葉の積もった獣道をゆっくりと進んでいく。

 木々の間を抜ける風が冷たいが、繋がれた手から伝わる熱が、彼女の身体を芯から温めていた。

 しばらく歩くと、視界が急に開け、開けた斜面に出た。

 そこには、リリアーナの想像を絶する光景が広がっていた。

 冬の寒さの中、枯れ草に覆われているはずの斜面の一角だけが、鮮やかな青色に染め上げられている。

 それは、彼女が温室で密かに育てていたあの花とまったく同じ、深い青色の小花だった。

 無数の花が密集して咲き誇り、まるで地面に敷き詰められた瑠璃色の絨毯のようだ。

 リリアーナは言葉を失い、ただその光景に見入った。

 季節外れの花が、これほどの群生を作って咲いているなんて、自然の摂理ではあり得ないことだ。


「これは……どうして」


 リリアーナがかすれる声で尋ねると、クロードは彼女の隣で立ち止まり、斜面に咲く花々を見つめた。


「温室の管理を任せている庭師に、王都の土壌に合うよう品種改良をさせていたんだ。君が嫁いでくるずっと前から。……いつか、君の記憶が戻ったときに、この花が悲しい過去の象徴ではなく、新しい記憶として上書きされるようにと願いながら」


 彼の言葉に、リリアーナの胸が締め付けられる。


『その花を引き抜け』と温室で激昂したあの日の裏側で、彼は誰にも知られず、彼女の好きな花をこうして咲かせようと何年も前から準備をしていたのだ。

 過去から逃げようとしていたようでいて、誰よりも過去と向き合い、彼女のための未来を用意しようともがいていた。

 リリアーナの目から、とめどなく涙があふれ出した。

 悲しみの涙ではない。

 彼の不器用すぎるほどの深情けと、そこに込められた真実の愛の重さに、心が震えているのだ。


「クロード様……」


「リリアーナ」


 彼が彼女の前に立ち、両手でその肩を包み込む。


 琥珀色の瞳が、彼女の涙で濡れた瞳を真っ直ぐに捉えた。


「十年前、私は君を守れなかった。だがこれからは違う。この花のように、君の行く先が悲しみで染まらないよう、私がすべての障害を退けよう。偽りの契約ではなく、ただ君を愛する一人の男として、生涯君の傍にいることをここに誓う」


 それは、かつて冷たい執務室で交わされた紙の上の契約よりも、はるかに重く、そして美しい本物の誓いだった。


 リリアーナは泣き笑いのような表情で彼の胸に飛び込み、その背中に腕を回した。

 クロードの強い腕が彼女を抱き締め返し、二人の体温が重なり合う。

 森の風が青い花々を揺らし、かつて彼から漂っていたあの針葉樹と白檀の香りが、今度は二人を包み込むように柔らかく立ち昇った。

 すれ違い続けた二つの軌跡は、瑠璃色の絨毯の上でついに完全にひとつに重なり合い、もう二度と離れることはない。

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