81 疑惑の策
「ん、ぅん……」
自らの息遣いを感じ、俺は目覚めた。
まだ外は薄暗いため、時刻は夜明け前だと思われる。
せめて朝日が上るまで二度寝しようと目を瞑るも、冬の寒さに眠気を奪われた。
加えて猛烈な尿意に襲われたので、睡眠は諦めて外へと出る。
天幕から数メートル先の森の中へ入り、ベストな場所を求めて彷徨った。
この世界には簡易トイレ的なのはないので、排泄する時は必然的に森の中ですることになる。男はともかく女性はかなり不便だよなぁ。と、深く考えない内に思考を止めた。
「ふぅ……」
ようやく体内のものを外へと排出できる事実に、思わず嘆息を吐く。
しかし、ズボンのボタンを一つ外したところで、近くの茂みが慌ただしく音を立てて揺れた。
「おぉわぁあっ!?」
幽霊か? モンスターか!? と何時でもディメンテイターを呼べるように構えていると、茂みの揺れは収まり、辺りはしん、と閑静に返る。
敵対する何かであれば、襲い来る筈なのに。
妙に思った俺は、ゆっくりと近づき、茂みの奥を覗く。
すると、そこに居たのは……。
「……あれ、マクロちゃん?」
尻もちをついた少女、マクロちゃんだった。
一体何故、彼女がこんな所にいるのだろう。
「ちょ、びっくり……させないで……うぅ……」
マクロちゃんの赤く染まった頬と、小刻みに震える身体をみて悟った。
一体何故、なんて考えるまでもなく、彼女がここにいる理由はひとつしかないのだ。
そう、俺と同じーー。
「も、もう……げん、かい…………っ」
「ままま、ま、まったぁあああああああ!!」
その後、何とかマクロちゃんが踏みとどまってくれたお陰で事なきを得た俺たち。
しかし、日が地に沈みかけた時間帯。次の戦略会議の雰囲気は、重々しいものだった。
「うぅむ……」
唸ったのは、アルティ隊長。それに続き、ほかの隊員達も苦い顔を浮かべる。
どうしたのだろうと問いかける前に、隊長が説明を入れてくれた。
「タクマもいるので改めて解説するが、次の戦地マザハ都市は、十年前モンスターに襲撃され占拠されて以降、一度も突破出来てない難所だ」
そう言って、彼は簡略された世界地図の、ほぼ真ん中を指す。
どうやらここの地点を取り返さない限り、本格的な進軍は出来ないようだ。
逆にこの都市さえ奪い返せれば、侵攻の幅も増えるらしい。
「でもどうするんスか。今までだって、何度も挑んでは沢山の犠牲が出て、アルウェス参道まで下がる……って事の繰り返しっスよ。何か策があるんスか?」
副隊長が質すも、隊長は口を一本に引き結んでかぶりを振った。
「それがな……このマザハ都市の作戦は毎回皇帝陛下が賜るのだが、前回とあまり変更点が無いんだ」
「え、それじゃあ……」
つい口を挟んでしまうも、隊長は顔色を変えずにひとつ頷く。
「あぁ。今回も、かなりの犠牲が出てしまうだろう」
その重苦しい言葉に、俺は思わず冷や汗を垂らした。
「そんな……なら俺たちで新しく作戦を考えれば……!」
簡単では無いだろうが、現状に比べまだ希望が残る提案をするも、その場の全員が目を伏せる。
「いや……皇帝陛下の策を無視するのは重罪だ。事がバレれば刑を執行されるだろう」
「……そ、そんなのおかしいでしょ! だって十年間も同じ人の指揮で勝ててないんですよね。なんで別の人が作戦組んじゃダメなんですか!」
当然と思えた疑問に対し、今度は副隊長であるユージンさんが答えた。
「……仕方ないっス。それがこの国の法律、なんスから」
法律って……と言おうとして、俺は口を噤んだ。
これ以上言ったところで迷惑でしかないと察したからだ。
悔しいが、流浪の冒険者である俺に法律を変える力も無視する魂胆も無い。今はただ、周りの仲間達が居なくならないよう、懸命に剣を振るのみだ。と、改めて心を引き締めた。
「……では、改めて作戦を説明する。部隊を四つに分け、それぞれを北門、東門、西門、南門に配置し、一斉に攻撃を仕掛ける。乱戦になると思うが、我々は只管に進んでいき、中央の塔に位置する大将を討ち取るのが使命だ」
全員が頷いたところで、隊長は更に続ける。
「私たちは第二部隊と共に南門から突入する。なるべく多くの敵を蹴散らしつつ塔を目指すぞ。この後すぐ移動を開始し、アルウェス参道を通り過ぎた地点で休憩。明朝に作戦が決行される。皆、今回も生きて帰るぞ」
「了解!」
全員で首肯し、疑念揺蕩う戦地へ向かうのだった。
風呂に入ろうと思って移動したら、何故かトイレに着きました。作者です。
それはそうとめちゃくちゃ投稿が遅くなり本当にすみません。最近理由もなく憂鬱でして……と、これは言い訳ですね。ごめんなさい。
また少しずつ書いた後に投稿されて頂くので、気楽にお待ちいただけると嬉しいです。それでは、次回もよろしくお願いします。




