80 戦の後味
巨大スケルトンナイトを倒した後は、比較的容易かった。
敵も殆ど倒していたし、残党も戦場に残った者は粗方片付いたのである。
しかし、戦場にはまだ、血の香りが漂っていた。
「ぐ、くっ……!」
薄布を被った騎士に対し、一人の兵が項垂れ泣きじゃくっている。
布には、所々に血が付着していた。
他にも、かなりの人数が同じ状況に陥っているようだ。
「……前回よりは抑えられましたけど、やっぱゼロには出来なかったっスね……」
「……あぁ」
ユージン副隊長の言葉に、隊長はたった一言だけ口にした。
傍から耳にした俺は、震える右手を握り込む事によって抑える。
数年前、学校の行事にて、交流会を名目に御老人から戦時の話を聞くという授業があった。
タイル床に座らされ、凄惨な出来事を聞かされている間は慄いたものだが、次の日には何事も無かったかの如く日常に戻っていた事をふと思い出す。
結局のところ、言い方は最悪だが、子供にとってはその程度だったのだ。
しかし、今は違う。
全身で沈んだ空気を感じて、俺は何かが込み上げてくる感覚を得た。
近くにいる蹲る兵士、その前に横になっている人。明日、俺や仲間がどちらかになる可能性はゼロじゃない。
恐怖と憐憫に駆られた心を無理やり押し込み、隊長の近くへ駆け寄る。
「……毎回、こんなに亡くなっているんですか」
問いに対しアルティさんは、一度深呼吸してから口を開く。
「……あぁ。少なくとも、無血で済んだ事は無いな」
無優の現実を改めて感じ、無意識の内に視線が下がる。
「国の平和のために散った命は、国の平和を守る事で弔うしかない。少なくとも、私はそう考えている」
隊長の言葉に、俺は無言で頷いた。
しかし、それと同時に疑問を抱く。
国の平和を守っているのは、相手も同じなのでは無いのか。
数々の作品に触れ、様々な国模様を見てきたからこそ抱く感情だったが、だからと言って既に血にまみれた俺に綺麗事は似合わない。
それに、今はユズリを取り返す。ただその願いの為だけに奮闘するのだ。
戦士達への餞は、通過点だと割り切ってでも。
「タクマ」
副隊長に呼ばれ、顔を向ける。
「なんですか?」
「顔、暗すぎっスよ。勿論、倒れた騎士を想うのは大切だと思うっス。けど、思い詰め過ぎたら逆に動けなくなるっス」
どうやら、向こうからしたら苦手意識があるだろう俺に対し、気を使ってくれているらしい。
「そう、ですね。所で、隊長は?」
「今、一人一人の騎士の所へ行って黙祷してるっス」
ユージンさんの言葉を得て、辺りを見回す。
「……あ、本当だ。俺も行ってきます」
隊長と共に一通り回った後、俺達は拠点の天幕に戻ったのだった。
「よう。今日は随分窶れているな」
ヴルヘリットさんの声により、ここが夢の世界である事を認識する。
どうやら、天幕に帰った後はほぼ無意識に飯を食らい、水を浴び、そして床に着いたらしい。
「……今日、もしかしたら初めて、人の死を知ったかもしれない」
疑問系であるのは、亡くなったのがそこまで深い関係の人で無かった為だ。
「成程。我々にとっては疎い感覚だな」
彼の言葉から察するに、やはり敵側にそういった感情はほとんど無いのだろう。だからこそ、何体かを犠牲にする作戦に出れたのだ。
「では、どうする。今日は休むか?」
「いや……やるよ。仲間を死なす確率を一パーセントでも下げるには、俺自身が強くなるのが早いと思うから」
無論、どちらかと言えば守られるのは俺側だ。
しかし、今後今日のように不測の事態に陥り、窮地に立たされる事も往々にしてあるだろう。
その時に少しでも役に立つためにも、“展開”のマスターやディメンテイターの熟練に励まなくてはならない。
「じゃあ……今日もよろしくお願いします!」
気合いは存分にあった筈だが、この時も“展開”は習得出来なかった。
……次の戦場にて、悲劇が起こることも知らずに。
部屋を掃除しなきゃ……と思ってたら一週間経ってました。作者です。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は戦いの合間の回です。しかし次回からはまた直ぐ新しい戦地へ赴く事になりますので、次の更新もお待ちいただけたらと思います。
それではまた次回!




