なんなの?
翌翌日、なぜか王太子殿下がウチの庭にいた。
庭で、私を見つけると親しげに、寄ってくる。
御付きの人もいるが、離れたところにいる。
「殿下、場所をお間違えではないでしょうか?」
「いや 間違えていないよ。」
「わたしは、メアリー嬢の家に来たいと思ってここにいる。それよりも、メアリーと呼んでもいいかな?」
「はあ、かまいません。」
「では、私のことはクラウスと」
あ、名前クラウスだったのか。
「はい。クラウス殿下。」
「殿下ではなくてクラウスがいいな。」
「クラウス ...さま」
クラウスっていかにも王子様っぽい名前ね。ぴったりだわ。
「まあ それでいいよ。 メアリーは、可愛いね。」
呼び捨てされるとなんか恥ずかしい。ちょっと顔が赤くなった気がする。金髪イケメンに呼び捨てって結構すごいかも。ってか、わたしのことメアリーとか呼ぶ人初めてだよ。みんなお嬢様か、メイとしか呼ばないからね。
クラウス様は、わたしの顔をじっと満足げに見てる。嬉しそうだし。ちょっと浮かれてる感じだ。
「クラウス様って、いつも女性には、こんな感じなのでしょうか?クールな方だと思っていたのですが、ちょっとキャラ変わっていませんか?
なぜウチにいらしているのですか?」
「ん?キャラ?メアリーが言っただろう。
何回失敗しても構わない。 私が赦すって。
だから、うまく飛ばせる紙飛行機ができるまで、何回でもここに来ることにしたんだ。
ゆるしてくれるだろう?」
「その、それはそういう意味じゃ」
「そういう意味でもあるだろう?そして、僕は、婚約者を決めるためにここに来たんだ。まだ君は、決められないだろうけど、君が受け入れようと思うまで、何万回でも来るよ」
「殿下」
「クラウス」
「殿下、おっしゃっている言葉の意味が、全く分かりません。婚約者って何ですか?ウチには、殿下の婚約者になるような人はいません。」
「私が、将来も今も側にいて心地よい女性は、メアリーしかいない。
わたしは、婚約者を決めなければいけないと言われているが、君に婚約者になってもらいたいんだ」
「君ってわたしのことですか?
もちろんメアリーのことだよ。
絶対無理です。
それに私のような9歳の子供が、側にいて心地よいのは、君だけだって、どうなんでしょうか?( ガキンチョ相手に何言っちゃってくれてんの?ロリコンかよ? それとも、二重キャラの変態路線か?)
だいたいフローラ様はどうしたのですか?
お美しくて、聡明で、お優しくて、お家柄もお人柄も非の打ち所がない方です。理想の女性です。あれこそ王太子妃になるお方です。
ここはフローラ様の家じゃありません。
さあ今出て行って、すぐ馬車を呼んでフローラ様にさっきのセリフを言って下さい」
腕を上げて、門を揚々と指差す私。
「フローラじゃダメなんだ。フローラの前では、僕は失敗できないから」
「そんなことありません。
フローラ様とよく話して下さい。フローラ様も失敗を知っている方です。
失敗しないで、あんなに立派な女性になるなんてありえません。
彼女ならどんな殿下も受け入れてくれるはずです」
「そうだよ。
殿下であるならね。
僕の名はクラウスだ。 殿下じゃない。
彼女は、殿下の嫁になるために、努力してきた人だ。
クラウスのパートナーになりたいのではない」
「殿下もクラウス様も
同じではないですか!」
「違うよ」
「クラウス様 駄々っ子みたいになっていますよ」
「そうだよ。僕は駄々っ子だ。
メアリーが、うんっていうまでここに通い続けるよ」
目を見ると青い瞳が真剣そのものだった。
まじか? こっ怖い。
「わ
私は、絶対に無理です」
「なぜだ?」
「クラウス様は王太子殿下です。 その婚約者なんて、みんなに一挙一動を見られて間違いが許されないじゃないですか!」
「そうだよ。
僕は生まれた時から母にさえ間違いを許してもらえなかった。
でも、君が教えてくれたんだ。
何度でも失敗して良いと。
私に生を与えた創造主とメアリーが許すと。
だから、君も失敗しても良いんだ。
創造主と僕が許すよ」
「そ、そんな。
人には適正とか適材適所とかいう言葉があって」
「よく知っているね、そんな言葉」
「この世に完璧な人はいないと思いますが、私に、やらせてはいけない職業があります。
失敗しても生かされている間は、生きていこうと思っていますが、世の中には、決して間違ってはいけない仕事があって、その仕事には関わらないようにしようと胸に誓っているのです。
人類の幸せのためです」
「人類のね」
あっ笑った。 本気にしてないよね。
「王太子殿下の婚約者とか、ましてや、王太子妃とか、わずかな言動が人や国家に影響する役割なんて、一番、わたしの様な者が、なってはいけないものの一つです」
「メアリー、自分がやっちゃいけないことに関しては、主張が鮮やかだね。
そんな面も魅力だよね」
「はい?」
「他になってはいけないものは?」
「お金や数字を扱う仕事をしてはいけません。銀行とか会計とか。
それと命を扱う仕事をしてはいけません。医師とか、看護士とか薬師とか。
私は、そそっかしいの一言で済むようなレベルではなく、必ず失敗したり、忘れたりする人なんです。
クラウス様の失敗の千倍の量です。普通の暮らしで
人に迷惑をかけないように生きていくだけでも難しいのに、王家とか、絶対に入ってはダメです」
「ふーん なるほどね。
そういう種類の人はいるよね。
僕付きの騎士にも一人いてね。剣を僕の部屋に忘れた時には驚いたな」
「私が、騎士になったら絶対やりそうです。 私なら驚きません」
「じゃあ騎士もダメだね」
「はい。騎士もダメです」
「医者も王太子妃もダメなんだな。公爵令嬢はいいの?」
「それは、今はまだ子供で、庇護されていますし、責任もないですから」
「でもさ、大きくなったらどうするの?」
「これから考えます。出来れば、屋敷に引きこもってできることだけを行うようにしたいと思っています。
もしも何らかの重要な仕事を義務で行わなければならなくなるならば、お父様に甘えて、私の代わりに失敗してはいけない仕事の部分をこなす方を雇っていただき、私は、判断をしたり、方向性を考えたりするだけにします」
「それいいね。それなら王太子妃もできるのではないかな?」
「!
できません」
「いいよ。メアリー、今日は仲良くなれたしね。
また来るよ!」
学園から帰ってきたお兄様の姿が見えた
腕を組んで殿下の馬車を見ていたが、気がついて庭へ歩いてきた。やってきた。
「やあ デイビス」
「殿下、なぜこちらに?」
激しく同意
ウンウンと首を縦に振る。
もっと言ってやってよ。
「今メアリーと仲良く話をしてたんだ」
そう言って
殿下は、機嫌良さげに帰っていった。
殿下の後ろすがたを訝しげに睨む兄
お兄ちゃん
殿下って変な人なの?




