何万回でも (王太子視点)
メアリー嬢を気に入ったのは、
母上に述べたような理由じゃない。
庭で、メアリー嬢と落下した紙飛行機を探した。
形の崩れた歪な紙飛行機を手に取って
「これは失敗だ。私の作ったのは全然ダメだな。」とくしゃくしゃにして握り潰したんだ。
すると、メアリー嬢が突然、私の近くに来て、抑えた低い声で告げた。
「殿下、こんな程度で、ダメだなんて、言わないでください!
これが、ダメなら、私はどうなるのですか。
紙飛行機だって私は何十回も折って綺麗に飛べるものが出来るようになったの。
一回ダメだからって、ひどいわ。
人は正しいことが出来るようになるまで、失敗を何回でも、何十回でも何万回でもしていいの。
殿下も、私もだわ」
「ああ、理屈ではそうだろう。だが私は、常に正解であることが求められている。
周りが、私の失敗を狙っていて隙あらば突いてくるんだ。
それに私には、何万回も失敗をする時間もそれをすることも赦されてはいない」
「だったら
他の誰がゆるさなくても私がゆるします。
私に生を与えた創造主と私が赦します!
だって私は 創造主と、周りの人たちから、すでに殿下の10倍も10万倍も赦されているから!
赦されてるからここに立っていられるから。
生きている以上、失敗はゆるされているはず。
失敗するということは、まだ成長する余裕があると言う事でしょう? 」
無表情だった彼女が 励ますように笑いかけたんだ。
白い陶器のような滑らかな肌に、人形のように整った顔立ち、見ているだけで美しいが、笑った途端に、花がパッと咲いて、光が溢れるようだった。
僕は、7つも下の少女に心臓を射抜かれたように凍りついた。
じっと顔を見つめていたが変に思われなかっただろうか。
上目遣いで、首を傾げる姿は可愛すぎて、その頰を思わず触りたくなったがそうするわけにいかない。
・・・他の誰がゆるさなくても私がゆるします。
そんな言葉、誰からも聞いたことがなかった。
私は、常に上手くやるのが当たり前だ。
王子なら、失敗は赦されない。
政敵もいるし、私の失敗は、王家を揺るがす原因にもなる。
『何万回でもしていい。 私がゆるします』
か。
彼女となら僕は自分でいられるかもしれない。 彼女は王子の自分じゃなくて人間の自分を見てくれる。
フローラ嬢なんて冗談じゃない。アレといると完璧な彼女に合わせて完璧な王子でいることを求められる。フローラは、僕が王子でなかったら、近づいても来ないだろう。
フローラと生活を共にしたら、休む場所がないじゃないか。
自分の片翼になり得るのはあの小さな黒髪の少女メアリーだ。
『生きている以上、失敗は、やり直せるはず。』
ずっと無表情だった彼女が
遥か遠くを見るような、未来を見通すような透明な目をして笑ったその様子が心と目に焼き付いてはなれないのだから。




