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27 チーム拠点

 


 整地が終われば建築が待っている。切り倒して加工した丸太を使い、チームの拠点となる建物を建ててるのだ。

 話し合いの結果、三階建てのログハウスを建てることとなった。つまり、二階より上を居住区とし、二階を男、三階を女が使うということである。


 美弥妃が提案したその案に、春之と丹紫姫は激しく抵抗した。


 春之は美弥妃が毎朝起こしに突撃してくることを忌避したため。

 丹紫姫は男共に襲われることを忌避したため。


 春之としては、丹紫姫を襲うような物好きがいるはずがないし、もし襲ってくれるような奴がいるならば、きっとその男が運命の人であるため結婚した方かいいのではないか、と思わされる丹紫姫の発言。


 心の中で嘲笑っていたのだが、いつの間にか口からそっくりそのまま漏れでていたらしく、その場でいつもの喧嘩が始まってしまった。


 そこにサブが喧嘩するほど仲が良い発言が加わり、事態は収集がつかなくなってしまったのだった。


 それにより二人の反対は有耶無耶になり、結局美弥妃案が採用されることとなったのだった。


 なお、サブは女子と一つ屋根の下とか興奮するとして賛成の意を示し、彩月は寝ることができる場所ならどこでもいいとしてサブ同様に賛成している。


 もともと三対二で春之達に勝ち目などなかったのかも知れなかった。


「俺、空気として扱われてるな」


 いつもの昼寝スポットにて、春之は四人の作業を見ながら虚空に語りかけた。春之としては、それはただの独り言であり、誰かの返答を期待したものではなかったのだが、たまたまそれを聞いていた者が答えてくる。


「もともと戦力として期待されてないからね」


 返答を返した者━━━━萌桃がピョンと跳ねて春之の横に座った。


「何? 少し寂しいの?」


「いや、それはないな」


 春之は即答し、目を細めて四人を眺める。


 現在、驚異の速度で建築されているログハウス。カナディアで見ることができそうな木造の趣深い建物であるが、誰が見てもプロの所業である。


 サブの指示のもと、三人が協力して木を組み、釘を打ち、ボルトを閉める。設計も現場監督も全てサブがこなし、彼は既に親方の顔をしていた。


「あいつ‥‥‥建築士の家にでも生まれたのか?」


 確か、どこの県だったかは忘れたが、実家が何かしらの家業を営んでいると聞いていた。もしかしたら、建築士か大工でもやっているのかもしれないと春之は思い、感心していたのだが、


「その質問を彩月がそのまましてたけど、実家の家業は陶芸関係らしいよ」


「清々しいほど大工関係ないな」


 やはり、サブという男は、必ず突っ込みどころを用意してくる男であるが、彼の謎の才能の開花によってこちらは得しているので何も言えない。特に春之はただ昼寝しているだけであるため、本来であれば足を向けて寝られない身であった。


 まあ、敬意を払うつもりなど毛ほどもないのだが。


 楽して良い家に住めるならそれに越したことはない。春之は悪い笑みを浮かべながら目と閉じた。


「君も何か仕事したら?」


「絶対に嫌だね」




 ◇◆◇◆◇◆



 そんなこんなで約半月が経った。


 あんな会話があった翌日。春之は昼寝要員を解雇され、間食要員として魚釣りに邁進することとなる。


 ログハウスの建築は佳境を迎え、内装の段階に入っている。つまり、建築という意味ではほぼ終了しており、部屋によっては家具や機材を運び込んでいる。


 春之はミニマリストであり、部屋に運ぶ物などベッドと一人用の小さなソファーと、衣類や小物を入れるクローゼットしかない。

 六畳ほどの春之の部屋は、それらを置き、遮光度の高いカーテンを窓に設置しただけで完成したのだった。


 自分の新たなに(部屋)に籠り、ベッドに寝転がる。切り立ての木の匂いが少し強い気もするが、これはこれで良い。


 下階では未だに釘の音などが響いているが、自分には関係ないと目を閉じた時だった。


「おい春之」


 ドタバタとけたたましい足音を立てながらサブが部屋に入ってきた。ちなみに、大和人たる春之達は土足文化がないため、全階靴を脱いでの仕様になっている。

 親切にも、玄関には靴箱と上靴が備え置かれており、一階のチーム拠点使える仕組みになっている。

 来客用のスリッパもいくつか用意されていた。


「おい春之」


 喧しい男は無視しようと布団を頭まで被ったのだが、サブに引きずり剥がされて冷たい外気に晒される。


「何だ。俺は今から寝るんだが」


「チームに配布される仮想空間発生機材を軽トラで持ってきたんだが人手が足りなくてさ。運ぶの手伝ってくれねえかと思ってよ」


「美弥妃は?」


「猪の鍋が食べたいとか言って彩月と萌桃を連れて山に入ってったからいねえんだよ」


「あの駄狐め」


 萌桃に視界を同調させたら山の中を走っていた。基本的に春之は萌桃の行動を全て把握しているわけではないが、おそらく飯に釣られたのだろう。

 美弥妃は萌桃の扱いが上手かったと記憶している。


「じゃあ、兵部大輔は?」


「丹紫姫は部屋に畳を敷いている最中で今は手を離せないらしいんだ」


 いつの間にか名前呼びになっていることは無視した春之だったが、既に春之が手伝う以外に選択肢はないらしい。

 畳を敷いているという丹紫姫を動かせよと思わなくもなかったが、春之が頼んでも逆効果であることは用意に想像できた。


 何か仕事があるならば早く終わらせて寝ようと考え、大きくため息を付きながら立ち上がる。


「春之ェ‥‥‥」


「軽トラってのはどこだ。早く終わらせるぞ」


 何故か感動しているサブの頭を叩き、春之は部屋を出た。なお、思ったよりも機材は重量があったことから、全身が筋肉痛となってしばらく寝て過ごすこととなるのだが、一階へと向かう春之はまだ知らない。


 また、猪は捕れず、鹿鍋に変わった。










カナディアとは、カナダのことです

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