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魔王と聖女の共同戦線(4)

「これはこれはユリア殿、わざわざ見舞いに来ていただいてありがとうございます」

「教皇様の身に何かあっては、我がフォルナ教にとって多大な損失となりますから。心配するのは私の立場からしても当然のことです。何より、教皇様が無事でよかった」


ここはフォルナ大聖堂、フォルナ教最大の聖地にして、本部が設置されているまさに中枢といった所だ。

そこでユリアは、呪いを見に受けたと噂されている教皇と直接会っていた。


「何、大したことはありません。魔族の残党の悪あがきでしょう、もうすでに解呪は済ませております。それにしてもお恥ずかしい、昔ならこの程度の呪い、かかることすらなかったのですが、私も年を取ったということですかね」


白々しい、と目の前の胡散臭いオヤジをみながら笑顔の裏でユリアは毒づく。

いくら力が半減しているとはいえ、あのエリスの本気の呪いをその身に受けたのだ。

あんなものを食らえば、ユリアですらただではすまない。


「教皇様にはまだまだ頑張っていただかなければならないのですから、そんな弱気でいては困りますよ。ところで教皇様、今日伺ったのはとある情報を掴んだからなのですが」


このまま化かし合いを続けていてもらちがあかないと、ユリア早速本題へ踏み込む。


「どうも冒険者の街、アドベンにて新種の魔物が出たと言う話を、かの英雄ヴァン殿から相談されまして。教皇様の一件もありましたし、報告しておかなければと」

「ふむ、それは確かに大事ですね。もしかしたら再び魔族が何かを企んでいるのかもしれません。わかりました、アドベンには調査のため人を派遣しましょう」


眉一つ動かさない教皇に、このタヌキオヤジめと罵りたくなるのを、ユリアはぐっと我慢する。

ユリア自身、そんな簡単に教皇が口を割るわけがないということは長い付き合いからわかっていて、わざわざエリスにあんなものを作るよう頼んだのだから。


ユリアは話をしつつ、同時にある細工をしていた。

エリスに作ってもらった、この送話器を教皇の居室であるこの場所に仕込むためだ。

エリス曰く、対象となる場所を視認し魔道具に込められた人工精霊に記憶させなければならないらしい。

教皇と話をしつつ、耳元につけたイヤリング型の送話器に魔力を流し込んでいく。


「そう言ってもらえると助かります。ヴァン殿も喜ぶことでしょう。それでは私もこの辺りで失礼させていただきます。教皇様もお体には十分お気をつけを」


作業が終わったのを確認し、ユリアは会話を切り上げる。


「いえいえユリア殿こそ、身の回りには気をつけてください。どうやら不穏な空気が流れているようですし、大事な聖女様の身に何かあっては大変ですから」


去り際のユリアに、教皇はそんな意味深げな言葉を投げかけた。

その裏に込められた、余計な事はするなという意味をしっかり理解しつつ、ユリアは真正面からその言葉を笑顔で受け止めた。





「ユリア様は、何かに気づいているのでしょうか」

「さぁどうでしょう。どちらにせよ、何を知っても所詮お飾りの聖女であるユリアには何もできやしません」


ユリアが去った後、教皇の部屋では彼と、彼の副官である一人の女性が話していた。


「とはいえ、あまり身辺をうろうろされるのも困りますね。聖女という立場上、私が直接手を出す事はできませんが、行動を制限する事はできるでしょう」


所詮、教会の庇護がなければただの小娘ですから、と教皇は普段は絶対に浮かべないような酷薄な笑みを浮かべ副官へと呟く。


「教皇様の御心のままに。それで、アドベンの調査はどういたしますか?」


教皇はふむ、と少し考え込むそぶりを見せる。


「どうやらあの街に目当てのものがあるようですし、都合がいいと言えば都合がいいですね」

「それでは、こちらも準備を?」


副官の言葉にニヤリと笑って教皇は頷いた。


「相手はあのヴァンですから、まともにいってものらりくらりと交わされるでしょう。となれば、例の作戦を実行するとしましょうか」


かしこまりました、と言って副官は教皇の部屋から出て行く。


「あぁアイリス。この時をどれほどまったことか。ようやく、ようやくお前が手に入る」


一人残った教皇は、待ち望んだ悲願の成就を未来に幻視し、一人狂笑を浮かべていた。




「わーお、異端も異端完全に真っ黒ですねこれは」


そんな会話を、全て盗み聞きしていたユリアは、一人ほくそ笑む。


「それにしても、さすがエリスですね。いい仕事をしてくれます。この魔道具がなければ決定的な証拠は得られなかったでしょうし」


耳元で光るイヤリングをそっと撫で、にっくき恋敵の顔を思いだす。

あの元魔王は化け物じみた力以外にこんな特技まで持ってるんだから、世の中不平等だと思う。


「教皇も、お飾りの聖女とは言ってくれるじゃないですか。その喉元を食い破られないように精々頑張ってください」


一種憎悪をこめた独り言を呟きながら、ユリアはこれからのことを考える。


「やはり教皇の真の狙いは聖剣だけではなく、女神そのものを手に入れることでしたか」


できれば外れてほしいと思っていた自分の予想が、見事に当たってしまった事に頭を抱えた。


「これはいよいよ、彼に話を聞く必要があるかもしれません」


個人的に苦手という理由から、あえて接触をとっていなかったある魔族の顔を思い出し、ユリアは盛大なため息をついた。



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