魔王と聖女の共同戦線(3)
「えぇと、確かこの辺に……」
ユリアから頼まれた魔道具を作るため、作業場へと入ったエリスは、ごそごそと魔道具が入った棚を漁っていた。
「あの、何か探してるなら手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。この辺、私も何があるかちゃんと把握してないんで、適当に触ると危ないですからね」
店主すら在庫を理解してないって、今更ながらこの魔道具店本当に大丈夫なんだろうかとちょっとエルメナは不安になる。
「あったあった、これがないと話になりませんからね」
そう言ってエリスは、一つの小瓶を取り出した。
「なんですかそれ? ……って、なんか人みたいなのが入ってる!?」
エリスが手にもつ小瓶の中で、淡く光り輝く小さな人が、目をつむりうずくまっている。
「これの説明をする前に、エルメナさんは離れた所で魔力のやり取りをする方法って知ってます?」
エリスの質問に、エルメナはうーんと頭をうならせた。
「王都や魔界みたく空気に魔力が充満してるところなら、それを使って、ですか? あとはエリスさんが作った、伝送線くらいしか知らないです」
「そんなところですよね。ですが実はもう一つ方法があります」
それがこれ、と言って手に持った小瓶を軽く揺らす。
「これは人工精霊と呼ばれるものです。自然界において、魔力のやり取りは大体精霊と呼ばれる存在が行っているのですが、それを擬似的に魔法で作り出したものですね」
衝撃を与えられたことで、中にいた小人が目をゆっくりと開き、眠そうにあくびをした。
「本来、精霊は制御できるようなものではありません。なので、制御できるよう一から作られたのが人工精霊というわけです。もっとも、その能力は本来の精霊と比べると相当劣り、一つの役割をこなすのが精一杯なのですが」
そのくせ人工精霊作るのはものすごく面倒で、割に合わないんですよとエリスがぼやく。
「もしかして、あの全知の水晶っていうのもその人工精霊を使ってるんですか?」
「おぉよくわかりましたね、さすがエルメナさん。……待ってください? なんでエルメナさんが全知の水晶を知ってるんですか?」
「ゾルさんが教えてくれたので。私の事をあれで見守っててくれたって」
ちょっとゾルさん!? とエリスがカウンターにいるゾルに声を荒げるが、ゾルは聞こえないとばかりに耳を塞ぐ。
「くっ、ゾルさんが私みたいな事をするようになってる……! 一応、アレはうちの秘宝的なものなのであまり言いふらさないようにお願いします」
「やっぱり、相当貴重なものなんですか?」
その質問にエリスはそうですね、と頷く。
「あれは中に込められた人工精霊も規格外のものです。私といえどあれクラスの魔道具はどれだけ経験を積もうと作れる気がしませんね」
はっきりいってエリスにさえ、あの魔道具の正確な仕組みは理解できていない。
魔王城からもってきた魔道具の中には、他にもそんな物が幾つかある。
「エリスさんは、そんなすごい物をどうやって手に入れたんですか?」
エルメナが純粋な好奇心で追い詰めてくるので、エリスは内心涙目になった。
こんな事になったきっかけであるゾルを睨みつけながら、エリスはとっさに思いついた言い訳を述べる。
「私に魔道具の作り方を教えてくれた人から譲り受けたんですよ」
エルメナはなるほど! と言って納得してくれたようだった。
「師匠のお師匠様ということは、さぞすごい人だったんですね」
「えぇそれはもう」
そんな人物はいないのだが。
あえて師をあげるというならば、魔道具制作の基礎を教えてくれたイグルツだろうか。
「さぁ本題から逸れましたが話を元に戻しましょう! 今回の魔道具制作ではこの子を使います!」
エルメナもはい、と表情を引き締めやる気をみせる。
どうやら誤魔化しきれたようだとエリスはほっと溜息をついた。
「魔力の送受信をこの子にお願いし、離れたところの音を届けられるようにします。そこで、私はこの子に役割を与えるため、色々と調整しないといけないので、エルメナさんには魔道具本体を作って欲しいんですよ」
思わぬ大役に、エルメナはすこし表情を強張らせる。
「そんなこと、ボクにできるでしょうか?」
不安げなエルメナに、エリスは大丈夫と笑いかけた。
「設計図は私が作ります。もちろん、前回みたく刻印彫るよりかは難しいですが、ちゃんとサポートもするので安心してください」
そういうエリスに、エルメナは力強く頷く。
「ボク、頑張るっていいましたもんね! やれるだけやってみようと思います!」
冒険を経て、エルメナも少し自分に自信を持てるようになってきたのかなと、エリスは愛弟子の成長を前に嬉しそうに微笑んだ。




