魔族軍ナンバー3
エルメナ達が謎の化け物に襲われた翌日。
今日はゆっくり休みなさいとエルメナに休暇をだし、久しぶりにノワールにはエリスとゾルふたりだけとなっていた。
「エルメナさん、あれがトラウマになってないといいのですが」
「どうだろうな。初冒険であんな目にあっては普通の者は心が折れてもしかたないかもしれん」
ゾルも昨日の一部始終を全知の水晶を通してみていたので、何があったのかは知っている。
エリスがあのタイミングで助けに入れたのも、店が暇な時に全知の水晶を通してエルメナ達を見ていたからだった。
「おや、随分と辛気臭い雰囲気が漂っているな! この俺様がきてやったというのに!」
エルメナがいないためいつもより静かな店内に、来店を告げるベルと共に喧しい声が響き渡った。
聞き覚えのあるその声に、エリスとゾルは露骨に嫌そうな顔をする。
「久しぶりだなポンコツ魔王とロリコン幹部よ! おっと、今は魔王ではなく『元』魔王だったな!」
「ゾルさん、クルツさんとヴァンさんにすぐ連絡してください。店をうざい魔族が襲撃しに来たって」
「わかった、ちょっとギルドまで行ってくる」
店をでていこうとするゾルを、慌てて声の主が引き止めた。
「まぁまてゾルよ。あの反則勇者と脳筋おっさんを相手にするのは俺様にも少々荷が重い」
人間界の貴族のような服装をし、人を嘲るような口調で喋る元同僚を、ゾルは面倒臭そうに睨みつける。
「何の用だイグルツ。ふらっと姿を消したかと思えば何の脈絡もなく現れやがって」
「ちょっと面白い話を聞いたのでな! そこのポンコツ元上司に教えてやろうかと」
「さっきから聞いてれば人をぽんこつぽんこつと。ゾルさんに言われるのは仕方ないと思っていますが、あなたに言われる筋合いはありませんよイグルツさん。あなたが仕事をほっぽりなげてどっかに消えたこと、私許してませんからね!」
きっと睨むエリスに、おぉ怖い怖いとイグルツは肩をすくめる動作をした。
「エリスの目標はあの時点でほぼ達成していただろう? それに私は書類仕事には向いていないのだ」
「そういってあなたが放棄した仕事が全部私に回ってきたんですよ!?」
エリスは元魔族軍のナンバー3であるイグルツに、涙目で食ってかかる。
そこそこの重鎮にもかかわらず、気まぐれで奔放なイグルツはよく仕事を放棄してエリスに押し付けていた。
そのためエリスが魔王城での暮らしに地味にトラウマを抱えている要因をつくった張本人とも言える。
「まぁそんなことはどうでもいい。エリスよ、お前が昨日倒した魔物、あれの正体に興味はないか?」
それを聞いてエリスは剣呑な眼差しをイグルツに向けた。
「なぜあなたがそれを知っているんです? 返答次第によっては私が直々に相手になりますよ」
その答えにイグルツは面白そうに腹を抱えて笑う。
「エリス、お前随分と人間臭くなったじゃないか。誰かのために怒るなんてこと、向こうにいた頃には考えられもしなかったというのに」
確かに、エリス自身少し意外に思ってはいた。
もちろん向こうにいた頃も皆大事にはしていたが、基本的には自分の欲望を満たすついでだったはず。
だが昨日の自分は間違いなくエルメナ達に心を動かされ、彼女達を救うために行動を起こした。
「何、別に悪いことではないさ。本来お前はそうあるべきだ。今までが不自然過ぎたともいう」
相変わらず要領を得ない古くからの友人に、エリスは何を言っても無駄だとため息をつく。
「それで、なんであなたが知ってるんですか」
「残念ながらそれを教えるわけにはいかない。だが俺様の名誉のために言っておくがあれをけしかけたのは俺様ではないぞ? あんな下品な物、目にするのも嫌だからな」
イグルツの言い分に、彼の性格をよく知るエリスはまぁ本当の事だろうと納得する。
「教えられない理由を言ってもらえますか?」
「何、それも含めて今日はいろいろ話に来たのだ。とりあえず席に着こうではないか。ゾル、この弾けイチゴのぱふぇとやらを頼む」
わかったよ、とゾルは注文を受け取り調理をはじめ、その様子をイグルツは面白そうにニヤニヤ観察していた。
「それで、さっさと話をすすめてくれませんか」
「そう急ぐなエリス。せっかちな女は嫌われるぞ、そんなんだから行き遅れ……わかった、話す、話すからその剣をしまえ」
昨日魔物を倒した時よりも冷たい笑みを浮かべながら、エリスは本気でイグルツに切りかかった。
それを白刃取りしながら、冷や汗をだらだらたらしつつイグルツは魔剣をしまうようエリスに懇願する。
「いいですか、はっきり言っておきますが私は行き遅れてません。そういうことに興味がなかっただけです。気にしてませんし、いざとなったらクルツさんあたりを私の魅了で落としてみせます」
「気にしてないなら斬りかかってこなくてもよいだろうに。まぁいい、話を続けるとするか。端的に言えば今回の件、フォルナ教という人間界の宗教が関わっている」
「フォルナ教って、ユリアさんの所属している?」
「そうだ。あの寝取られ女の元締めだな」
寝取られ? と首をかしげるエリスに、ゾルが後ろからそこには触れてやるなと声をかける。
「フォルナ教はそもそも発端自体いろいろと面白いんだが……、まぁその話はそのうちしてやろう。それで、フォルナ教はどうやらお前の魔剣を狙っているようだ」
「私の? でもこれ私にしか使えませんよ?」
それを聞いてイグルツはやれやれと首を振った。
「その剣はそこらの適当に魔力がこもっただけのものとは根本的に違う。エリスにしか使えないというのもそこに関係しているのだ」
「お前はエリスの魔剣がなんなのか知っているのか?」
ゾルがパフェを差し出しながらイグルツに尋ねる。
「そうだな、知っているといえば知っている。だがこれも残念ながら教えられんな。ただ一つ言えることは、俺様だけでなくフォルナ教もお前がもつ魔剣の正体に気がついているということだ」
この胡散臭い魔族は、教えられないと言った事は何をしても教えてくれないという事を過去の経験から二人とも把握しているため、これ以上深くは追求しない。
「それで、それが今回の件となんの関係が?」
そうエリスが尋ねると、イグルツはふっと鼻でわらう。
「まだわからんのか? あの魔物はフォルナ教が魔剣を探して放ったものだ。そして、奴らは目論見通り魔剣のありかにたどり着いた」
それを聞いてエリスは、はっと昨日の魔物がつぶやいていた事を思い出す。
「見つけた……あの魔物が言っていたことはそういう……」
「今教えられる情報はこんなものだな。まぁそういうことだ、これからはフォルナ教の手の者には気をつけたほうがいいぞ。あれは間違いなくその剣を狙ってくるはずだからな」
ぱくぱくとパフェを食べながらイグルツは軽くそんなことを言う。
「それはユリアもか?」
「いや、フォルナ教と言っても一枚岩ではない。あれはむしろお前らの味方のなるだろう。そうだな、まずはあの女に相談をもちかけるといいんじゃないか?」
「イグルツさんが胡散臭いのはいつものことですが、その助言が間違ってたことはないですからね。ヴァンさんも交えて、一度ユリアさんと情報を共有する必要がありそうです」
面倒臭いことになってきたなぁと呟くエリスを、イグルツは愉快そうに眺めていた。




