正体不明の呪詛
「それにしても醜い魔物ですね」
おぞましい姿の魔物を一瞥し、エリスは冷たく言い放つ。
「ミツケタ!ミツケタ!ミツケタ!ミツケタ!」
エリスの姿をみた魔物は、未だ身体からは煙が燻っているにもかかわらず、ケタケタと下卑た笑い声をあげる。
「その耳障りな声を止めてもらえますか? インフェルノ」
エリスの手から放たれた炎が、大きな渦となって魔物を包み込む。
渦に閉じ込められた魔物は逃れようともがくが、絡みつくような炎はなかなかふりほどく事ができない。
「アァァァ……!!」
「す、すごい……」
エリスの圧倒的な魔法に、思わずミラがつぶやきをこぼす。
だが魔物はなおも生き絶える様子はなく、炎をまといながらもエリスの方へと触手を伸ばして襲いかかっていく。
「大した耐久力ですね」
涼しい顔をしながら触手による攻撃をかいくぐり、再びエリスは魔法の詠唱を終えた。
「アースプリズン」
地面が盛り上がり、魔物の動きを封じながら土で作られた牢獄へと閉じ込めていく。
「前ならこの程度秒もかからず倒せたと思うんですけど、やっぱりクルツさんの封印は結構きいてますねぇ」
聖剣による封印の影響で本調子が出せないエリスは、気怠げにそう呟くとだらりと脱力する。
「カースドダークネス」
そして、呪いを込めた眼差しで魔物の無数の瞳を射抜いた。
「ギッ……」
いままで切られても焼かれても襲いかかってきた魔物だったが、今回は様子が違った。
明らかにダメージを受けているようで、苦しそうな嗚咽をもらしながら縮こまるように悶えている。
「なるほど、やっぱりあなた、ただのモンスターというわけではないみたいですね」
動きを止め、苦しそうに震えるだけになった魔物に、つかつかとエリスは近づいていく。
「聞いてるのでしょう? この街になんの用があるのか知りませんが、私の大切な人たちに手を出すというのならば」
そして目の前まできたエリスは、にこりと笑って、ぞっとするほど冷たい声で笑いかける。
「容赦はしませんよ」
その言葉に、初めて魔物の瞳に恐怖のような動揺が走った。
「ディスペル」
エリスの呟きとともに、魔物は絶叫を放ち急激にその身をしぼませて、地面へと染み込み消えていく。
エルメナ達はその光景を、声を発する事もできずの呆然と見ていた。
「……さて、帰りましょうか。ゾルさんに頼んで皆さんのご飯を作っておいてもらってますから、皆でゆっくり食べましょう」
魔物が完全に消滅するのを見届けるとエリスは三人の方へ振り向く。
その瞳はすでにいつも通り黒く、見るものを安心させるような穏やかな笑みを浮かべていた。
エリスの先導の元帰路に着いた三人は、街まで無事たどり着いた安堵からか、うまく力が入らない足腰でなんとか歩いていた。
「エリスさん、すごかったね」
先ほどの戦いを思い出し、リーンがぽつりとそう呟く。
「私もあんな強力な魔法初めて見た。エリスさんって、実はもともとも凄い冒険者だったりするんですか?」
「うーん、そうですね。まぁそんなようなところです。こっそりヴァンさんあたりに聞きにいけば教えてくれるかもしれませんよ」
エリスは体良くヴァンに自分の正体についての後始末をなすりつけ、これ以上二人に追求されないようにした。
「あの、さっきのアレは一体なんだったんでしょう」
そういえば、と一番落ち着きを取り戻しているミラが、先ほどの魔物についてエリスに尋ねる。
「私も色々な魔族やモンスターを見てきましたが、あんな気持ち悪いのは初めて見ましたね。でもたぶんあれ、生物じゃないと思いますよ」
エリスの答えに、生物じゃない?と首をかしげた。
「あれはたぶん、呪いか何かの一種です。魔法生物とでも言うんでしょうかね」
「それで最後、解呪の魔法で魔物が消えたんですね」
納得がいったと頷いているミラを、よく魔法の種類を覚えてますねとエリスが褒める。
「解呪する前に目玉の化け物を通して、あれを使役していた何かに呪い返しをしました。だから少しの間はおとなしくしてくれるでしょう。まぁ今回の件はギルドに報告して対策を練ってもらうしかないですね」
「呪い……。一体何が目的だったんでしょうね」
さぁ、私にもわかりませんと答えながらも、エリスはあの魔物がつぶやいていた事を思い出していた。
あれは間違いなく自分を見てミツケタ、と言っていたと。
「なにはともあれ私は動いたんでお腹が空きました! いろいろ考えるのは後にして、まずは早くゾルさんにご飯をたかりに行きましょう!」
そう言っていまだ少し不安げの三人を励まし、エリス達は駆け足でノワールへと向かっていった。




