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恥ずかしがりやな頼れる仲間(3)

 リーンは、目の前で繰り広げられる一方的な虐殺をみて、引きつった表情を浮かべていた。


「こっちは準備できました。エルメナさんどうぞ」


 ミラの掛け声に、わかりましたーと返事をしながら拳大の玉を掘り返された地面に向かって投げる。

その玉はしばらくすると爆発して、地面に衝撃を与えた。

エルメナが使った魔道具は、威力そのものは大したことがなく音と振動で相手を怯ませるものだ。

だがこの状況ではそれだけの効果でも、イータープラントをおびき出すのは十分だった。

見事に反応してしまったイータープラントが、地面を突き破って何もいない空間にばくりと食らいつく。


「ファイアアロー!」


 そこを狙いうちにされ、本日10匹目のイータープラントの丸焼きが出来上がった。


「……私の立場が!!」


 エルメナのやり方の方が安全かつ確実に処理できるため、リーンは黒焦げのイータープラントを眺めるくらいしかすることがない。


「疲れてきたので少し休憩しましょうか」


 ミラの言葉にエルメナも頷いて、地面をいじりながらいじけているリーンの元へと帰って来る。 


「……エルメナちゃんは優秀だね」

「ボ、ボクなんて何も……。道具投げてるだけですし」


 ぼそりと呟くリーンに、慌ててエルメナがフォローをした。


「ほら、いじけてないの。今回はたまたま相手がその場所から動かないからエルメナさんのやり方があってたってだけなんだし」

「そうですよ。素早く動き回る相手にはボクは何もできないですから」


 本当?と捨てられた犬のように自信なさげな視線を二人に向ける。

二人がうんうんと頷くと、うわーんと大げさに声をあげながら抱きついていった。


 そんな茶番を挟みつつも、討伐依頼は順調に進んで行く。

一人も怪我することもなく、エルメナの冒険者デビューは快調に終わると誰もが思っていた。


「……二人とも、なにかおかしくない?」


 最初に異変に気がついたのはミラだった。

この辺り一帯はイータープラントの他にもたくさんの植物が生い茂っていて、生物も豊富に生息している。

実際、つい先ほどまでもそこら中から鳥の鳴き声等、生き物の息吹で満ちていた。

だが、今はまるで何かに怯えているように辺りがシンと静まりかえっている。


「……何これ、なんか気持ち悪いね」


 リーンも気がついたようで、徐々に表情が険しいものになっていく。

そんな二人の様子を見て、エルメナも不安そうな表情だ。


「討伐証明部位はもう集めてあるよね? 少し早いけどひきあげようか」


 リーンの提案に、ミラとエルメナはこくりと頷く。

なんとなく、すぐにここから離れた方がいいと三人とも感じていた。


 ザザザッ。


 しかし、3人がその場を離れるより先に、草木をかき分ける音を立てながら『ソレ』が姿を現した。


「ひっ……」

 

 その姿を見て、おもわずエルメナがちいさな悲鳴をあげる。

それほどまでに『ソレ』の姿はおぞましいものだった。

人の身丈ほどの大きさで、ゼリー状の塊のそいつは、一見すると成長したスライムのように見える。

しかし、その透明な体の中には目玉のようなものがいくつも浮いていて、体表には人間の口のようなものがいくつも蠢いている。


「……ミラ、あのモンスターの情報は?」

「私も知らない。……というか、この周辺に生息してるやつじゃないと思う」


 エルメナよりも経験を積んでいる二人は、ひしひしと恐怖を感じながらも取り乱さず冷静に状況を判断していた。

戦うという選択肢は論外、どうにかして逃げないといけないが、下手に動いて刺激をすればいますぐ襲われかねない。


「エルメナちゃん、まださっきの魔道具残ってる?」


 リーンの質問に、エルメナはこくりと頷く。

その質問で何をしようとしているのか二人とも悟り、すぐに逃げ出せる用意をする。


「爆発したら全力で走って。いくよ!」


 エルメナが化け物から少しはなれた場所へ魔道具をなげつけ、爆発音が鳴り響いたとともに三人は一斉に走り出した。


「振り向かずに走って!」


 いざというときに一番動けるリーンが最後尾を務め、目玉の化け物の動きをちらりと確認する。

どうやら爆発に気をとられそちらへ向かったようだったが、まずいことにゼリーの中に浮かんでいる目玉は全てこちらへ向いていた。

その光景にゾッとしたリーンは、顔を真っ青にして走り続ける。


「……まっずい」


 ぼそりとリーンが呟いたのを聞き逃さなかったエルメナは、後方を垣間見た。

そこには、ゼリー状の体から巨大な腕のようなものを突き出し、地面を這いながらこちらに向かってきている魔物の姿があった。

そしてそいつは追いつけないと悟ったのか、一瞬動きを止めるとその体を変形させ、体から長い触手のような物を矢のように放つ。


「危ない!!」


 とっさに隣を走っていたミラをエルメナが突き飛ばした。

そのおかげで迫ってきていた触手はミラにはあたらなかったが、代わりにエルメナの太もも辺りを掠る。


「うぐっ……」


 あまりの激痛に体制を崩し、エルメナが地面に転がってしまう。


「エルメナさん!?」


 ミラも驚いて足を止め、エルメナの方をみると、その足からは血が滴っていた。


「本当にやばいことになってきたね……。大丈夫、見捨てていったりしないから」


 うずくまるエルメナを安心させるようにリーンは耳元でそうささやくと、覚悟を決めて魔物の方へと向き直る。


「ご、ごめんなさい……足手まといになっちゃって」


 震える声で謝るエルメナに、ううんとミラが首を振った。


「そんなことないよ、エルメナさんがかばってくれなかったら私があれにやられてたんだもん。それにこれでも私たち、結構場数踏んできてるから、まだ諦めるには早いよ」

 

 そういうとミラも杖を構え、魔法の詠唱を開始する。


「さっきのをみる感じ、あいつは自分の体を変形させて攻撃するみたいだね。いつも通り私がひきつけるから、後はお願い」

「わかった」


 ミラが頷いたのを見届けると、リーンは身体強化の魔法をかけて魔物の方へと駆けていく。


「こっちだ化け物!ライトニングエンチャント!」


 手にした短剣に魔法効果を付与し、すれ違いざまにゼリー状の体を斬りつけた。

しかし、手応えはほとんどない。


「やっぱりだめか……!」

 

 斬りつけた場所はすぐに元に戻っていき、なんのダメージも与えられていないようだ。

だがリーンの思惑通り、ターゲットを変えたようで目玉はすべてリーンの方をみている。


『サガ……ノジョヲ……セイケ……アァ……イトシ……イリス……』


 どうやら表面の口は常に何かを呟いているようで、近づくとぼそぼそと言葉のようなものが聞こえてきた。


「っと、危ないなもう!」


 何本もの触手が、槍の雨のようにリーンに襲いかかるが、それを魔法で強化した動体視力で的確によけていく。

だが徐々に攻撃の間隔がはやまってきて、さばくのが難しくなってきた。


「そろそろきっつい! ミラ!」

「もう少し……よし!」


 ミラの準備が整ったのを見て、リーンはなんとか魔物から離れる。


「フレイムレインアロー!」


 渾身の魔力を注いだミラの魔法が、魔物へ降り注いだ。

いくつもの炎の矢が、ゼリー状の体を焼いく。


「オォォォォ……」

「さすがに効いてるみたい……!」


 炎に包まれたその体を震わせながら、苦しそうに魔物は悶えている。

だが、大きくその体を波打たせたかと思うと再び体の形を変え、リーンへと触手を伸ばし襲いかかった。


「しまっ……!」


 ミラの魔法が直撃したことで少し気が緩んでいたリーンは、一瞬反応が遅れる。


「リーン!!」

「二人とも目を瞑ってください!!」


 ミラが悲痛な叫び声をあげると同時に、エルメナがそう大声でさけび何かを魔物へと投げつけた。


「グオオオオオオ!!!」


 あたり一面が真っ白な光に包み込まれ、強烈な閃光が魔物にある無数の目を焼く。

逃げようのないその光をもろに受けた魔物は、ミラの魔法を受けた時より苦しそうに悶え、地面を叩きながらのたうちまわっている。


「ありがとうエルメナちゃん!って、立って大丈夫なの?」

「応急処置はしたのでなんとか。今のうちに逃げましょう、あれはまだ動けそうなので」


 先ほどまで血が滴っていた足には包帯が巻いてあった。

この包帯はエリス手製のもので、治癒の刻印が刻まれている。


「ガアアアアアア!!」


 魔物もエルメナの攻撃に怒り狂っているようで、再び暴れまわりながらこちらに迫ろうとしてきていた。

もっともまだダメージは回復していないらしく、手当たり次第周りにあるものを破壊している。

その体の無数の目は憤怒と憎悪で真っ赤にそまっており、まるで魔族の緋色の瞳のようだ。

恐怖で震える足をなんとか抑えつつ、もう一発閃光を放とうと魔道具を漁っている時だった。


温かい手がぽんと頭の上に乗せられ、安心させるようにゆっくりと撫でる。


「みんな、よく頑張りましたね」


そんな、聞き知った声が三人の耳に響いた。


「ここから先は私に任せてください」


ここにはいるはずのないエリスが、いつも通りの穏やかな笑みを浮かべ、三人をかばうように魔物の前に立ちはだかる。


「私の可愛い弟子を傷つけた大馬鹿に、少々痛い目を見せなければいけませんから」


その目は、燃え盛る彼女の怒りを表すように、爛々と紅く染まっていた。


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