恥ずかしがりやな頼れる仲間(1)
いつも通り、あまりお客もこずゆったりとした時間が流れるノワールに、今日は一際大きく来客を告げるベルが響き渡った。
「こんにちはエリスさん。遊びに来ましたよー!」
元気よく店に入ってきたのは、露店祭以降ゾルの常連客となり、ちょくちょく店に来るようになったリーンだ。
後ろには彼女の冒険仲間であるミラもいる。
「二人ともよく来てくれました。席は空いてますよ」
エリスがにこりと挨拶している間に、魔道具をいじっていたエルメナがぱたぱたと小走りで二人に近づく。
「いらっしゃいませ、お席はこちらになります!」
「あれ、新顔さん?」
リーンが見覚えのないエルメナを、興味深げな眼差しで見る。
「紹介しますね、そちら今うちで臨時で働いてくれてるエルメナさんです。いい子なので是非仲良くしてあげてください」
エルメナはぺこりと頭をさげ、エルメナですと挨拶をした。
「エルメナちゃんだね!私はリーン、んでこっちの魔女っ娘はミラって言うんだ」
「魔女っ娘はやめて。はじめましてエルメナさん」
そう自己紹介する二人に、エルメナは慌ててもう一度礼をする。
「エルメナちゃんは恥ずかしがりやなのかな?」
席に通されたリーンは、いまだに少し耳が赤いエルメナをみておかしそうに尋ねた。
「……はい、初対面の人と話すと、緊張しちゃって」
エルメナはこの店に初めて来た時のように、もじもじと視線をそらしながら答える。
「わかります、私も話したことない人と話すの苦手なんですよ。心臓がばくばくするというか」
ミラもエルメナに共感するようにうんうんと頷いた。
「そんなもんなんだ。私はあんまりそういうの気にならないからなぁ。あ、でもエルメナちゃんも無理に話したりしなくていいからね!自分のペースで!」
頑張って何かしゃべろうとしているエルメナをみて、リーンはとっさにフォローを入れる。
「手際はとてもいいのだが、やはりその人見知り癖は接客するときは大変そうだな」
二人にいつも振舞っている紅茶を出しながら、ゾルはあわあわしているエルメナを一瞥して呟いた。
「そう思うならゾルさんが手助けしてあげなきゃ。あ、そういえば表の看板に新作ケーキが出てましたけど注文できます?」
「あ、私もそれお願いします」
はいよ、と言ってゾルは冷凍魔法のかかった保存箱の中から、作り置きしておいたケーキを取り出す。
「どうぞ。彼女に対しては、困ってそうなら助けてはいるんだが、本人の希望でなるべく自分でやらせて欲しいとの事だからな」
ゾルの言葉に、エルメナはこくりと頷いた。
「ボクもなるべく人と話せるようになりたくて、ちょっとずつ慣らせていけたらなって」
「なるほど、エルメナさんは頑張り屋さんなんですね」
そんなエルメナを、ミラは偉い偉いと言って褒める。
「そういう事なら私たちが話し相手になってあげるよ。喋る事に関しては私はなかなかの定評があるからね!」
「確かに、リーンっていっつも騒がしいもんね」
隣でぼそっと付け加えたミラに、リーンは何をー!とつかみかかった。
「そういう事ならエルメナさんを一回でいいので冒険に連れて行ってあげてくれませんか? あとゾルさん、新作ケーキを作ったなら教えてください。まだそれ味見してませんよ私」
客がこなくて暇なのか、いつの間にか近寄ってきていたエリスがそんな提案をした。
「それいいですね! 私は賛成だけど、ミラはどう?」
「私もいいと思う。最近は街の周辺なら二人でも余裕だしね、一人くらい増えても」
二人はすぐに了承したが、当のエルメナはふるふると首をふる。
「む、無理ですよ! ボク、魔法の才能もないし、体も強くないので……」
そういうエルメナに、エルスはノンノンと指をふった。
「エルメナさんには素晴らしい才能があるじゃないですか。その聡明な頭脳と魔道具を扱うセンスは中々に光るものがあると思いますよ」
実際、エルメナはエリスの予想よりはるかに呑み込みがよく、この短期間で随分と魔道具に関する知識をつけている。
「そして、その能力は冒険でも活かせます。人呼んで魔道具師! 状況にあった魔道具を駆使して味方をサポートする魔道具師は、魔法使いや剣士にも劣らないほど重宝されますよ」
まぁ他の職業にくらべてちょいとお金がかかる事が欠点ですが、とエリスは付け加えた。
「いいじゃん魔道具師! 私達のパーティ、攻撃によりすぎてサポートしてくれる人がいると助かるって話をしてたからちょうどいいよ!」
リーンの一言も後押しとなり、エルメナは迷うそぶりをみせる。
「前に、冒険者になるのが夢だったって言ってましたよね。魔道具の開発者としてもきっといい経験になりますから、一緒に行ってみてはどうでしょうか。もちろん、冒険に使う魔道具は私がお店から出しますので」
そしてエリスが最後のだめ押しをする。
エルメナは一瞬何かを言おうとしたが、その言葉は紡がれる事なく、代わりに心の底から嬉しそうな顔で、お願いしますと頭を下げた。




