第7話【美海先輩の巨乳トラップ】
女子高校生の朝寅菜々は、数字と会話が出来る能力を持っていた。
【キャラと数字の紹介】
渋谷大河・菜々の幼馴染の男子。身長一八〇㎝。特性がある。
沼影美海・陸上部。菜々の一学年上の先輩。高校生とは思えない大人びた容姿。
35・菜々のお気に入りラグランTシャツの胸のプリント。世代的感覚が菜々と近い。
●毎日夜10時台か11時台に上げられるように頑張ります。
菜々は、筋肉痛でバキバキの身体を駆使して着替え、自宅まで徒歩数分の帰路についた。
「まぶしい……」
西日をさえぎるための、片手を上げる動作さえも辛い。
「お疲れ菜々ちゃん、まだ運動に慣れてないようね」
ラグラン35の声は弾んでいて機嫌が良い。
学校に好みのイケメンが多い、というのがその理由であった。
週二回ほどの登校を35は楽しみにしているのだが、菜々はその方面に余り興味が無く、二人の間でこの話題は片方だけが盛り上がってしまう。
「いやあ、運動不足だけじゃなくて、新たな問題発生よお」
部活中、ロッカーに仕舞われている35は美海先輩との顛末を見ていない。
肉体的にも精神的にもグッタリの菜々は、先程のやり取りをかい摘んで話した。
「あ、そのパイセン、大河君の事を狙ってるね。菜々ちゃんは、そのライバル」
「ええー……同じ学校出身てだけで、疑われちゃうの!?」
「いやいやだって、大河君が選んだ番号は『77』なんでしょ!? バレバレじゃん、もー。イヤーん、だよ、イヤーん」
「んんん、どういう事!?」
「……あんた、朝ドラヒロイン級のニブさねえ……あのさ、大河君の『77』は『菜々』から拝借したんじゃないの!?」
「えっ、ああ、ええー!?」
「少なくとも大河君の気持ちは、そのパイセンに筒抜けだね」
困ったなあ、などと表面上は言いつつも、隠し切れない感情は菜々の口角を上げた。
「でも、パイセン自ら部活内恋愛は御法度、て言っちゃってるから、大河君に対してあからさまな行動に出たりはしないとは思うけどねえ。どっちにしろ、高校生らしい、血で血を洗う恋愛沙汰希望だわよ!! これは顛末、楽しみだわあ。部活動を直接見れないのが残念だわあ」
「……他人事かよ、もう!!」
菜々は口では「困った」などと言ってはいたが、それ程に深刻に感じてはいない。
何かの切っ掛けで再び引きこもり生活に戻ってしまう可能性はまだある。
ただ、マスコミやネットにもてはやされてしまった過去の顛末と比較すると、高校生の恋愛トラブルは体感的プレッシャーが軽かった。
勧んで経験するべき過去では無かったが、結果的に精神の強度を増す福音となっている。
帰宅してから菜々は、購入した練習着の整理に取り掛かった。
校章入りの上下のジャージ、防寒の上着に学校カラーのタオル、一番使用頻度が多いと思われる『7』の数字が入ったシャツは三枚購入した。
洗濯ローテーションを見越した最低限の枚数である。
「はじめまして菜々先輩!! お部屋の数字の先輩の方々もよろしくっスです!!」
床に並べられた三枚の7達の挨拶はハキハキとしていて、スポーツ系の部活感が溢れていた。
菜々の自室には様々な数字達がいる。
衣服やポスターや電化製品等、その種類は多い。
菜々以外の人間には静かな部屋であったが、数字達は常に自由に会話をしていて、賑やかであったりする。
新人の7達を応援歌で歓迎したのは、関西に住んでいる叔父さんから頂戴した、プロスポーツチームのレプリカユニフォーム『44』だった。
白地に細い縦縞が入った背中に、大きく44がプリントされていて、その数字の上には英文字が添えられている。
どう発音するのかは不明であったが、菜々は勝手に『アール・バス』と呼んでいた。
ユニフォームのプロチームがサッカーなのかバスケットなのか、菜々自身、知らない。
「マイド!! オオキニー!!」
陽気な性格の44の日本語は何故か英語圏の訛りがあり、尚且つ関西弁で、7達へ贈った応援歌もその片言で熱唱している。
「でも、参ったなあ、7が三枚も……。こんなに数字がカブるって今迄無かったから、これじゃ、見分けがつかないわねえ」
同じ数字であっても、それぞれ数格(人格)が違う。
しかし三枚とも同じシャツにプリントされていて、揃って後輩丸出し口調で、益々見分けが困難だ。
斜め上を見上げて考えていた菜々は
「そうねじゃあ、右から、Bセブン、Cセブン、Dセブン、て呼ぶ事にするね。いいかな!?」
と広げたシャツ達を順番に指さし、それぞれの数字の横に小さく『B・C・D』とサインペンで書き足す。
「わー、カッコいいっス、菜々先輩!!」
7達は歓声を上げた後、中の一人が質問した。
「えっ、Aは空席っスか!?」
菜々は静かに自分を指さした。
「Aセブンは、あたし」
「セブン先輩!!」
「でも、朝寅セブンて、どっかの変身ヒーローみたいな名前っスね!! セブン先輩、版権の方、大丈夫っスか?」
「……あんた若いのに、よくそんなの知ってるわねえ」
まだ若いラグラン35と比べても数生(人生)経験の浅い7達がこの後、菜々の窮地を救う意外な活躍を見せるとは、この時、誰も思っていなかった。
その横で、部屋干し中のラグラン35が、部活での菜々と美海先輩の悶着を、若干盛り気味に、面白可笑しく部屋の数字達に向けて報告をしていた。
「大河君は年上女性にロックオンされた!!」
「これは学校で観戦しないとだな」
「菜々、明日は俺を着てくれ」
「いいや菜々ちゃん、是非私を!!」
服系の数字達が明日の登校服の座を巡って口論を始めたが、ほどなく『週一回』というローテーションが数字達の間で決定される。
「あたしに選択権は無いって事ね」
菜々はオーバーに溜め息をついた。
翌日。
部活動で早速、美海先輩が行動を起こす。
菜々が練習着に着替えグラウンドに出た直後であった。
練習着『7』が叫ぶ。
「大変っス、菜々先輩!!」
「えっと、今日は、何セブンだっけ!?」
「今日は私、B7(ビーセブン)っス!!」
「何よ大変て!?」
「美海先輩、両手を腰に当てて強調してるっス!!」
「強調!? ……て何を!?」
「胸っス!! 美海先輩の、両手腰あてからの『巨乳』強調作戦ス!! 大河先輩に猛烈アピールっス!!」
「えええ……」




