第4話【菜々の能力が狙われる?】
女子高校生の朝寅菜々は、数字と会話が出来る能力を持っていた。
●毎日夜10時台か11時台に上げられるように頑張ります。
金庫の一件から数日後、菜々は現場の空き地まで様子を見に来ていた。
未だテスト期間中ではあったものの、子供の無事を確認したい一心で、勉強の時間を犠牲にして、現場に舞い戻ったのだ。
テスト最終日の明日午後から部活が再開されるので、実質今日しか様子を見に来れる時間が無い。
子供の命がかかった危険な事故ではあったが、テレビやネットで報道される事が無く、救出された女の子のその後が気がかりだったのだ。
ただ、菜々自身が世間から注目される事は避けたかった。
目立たないように、離れた民家の植え込みと壁の隙間に入り、片顔を出して様子をうかがう。
事故があった空き地には立ち入り禁止のテープが貼られていて、作業服の男達がゴミを運び出しトラックに載せていた。
「菜々ちゃん、私、なんにも見えないよ!?」
様子見の同行を希望したラグラン35が不満を口にした。
「私の視界の全てが植え込みの山茶花なんですけど!?」
「あんたも見えるようにするって事は、あたしが全身を晒すって事じゃん!?」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ」
仕方なく菜々は隠れた身体の大半を植え込みの外に出した。
空き地のはす向かいの弁当屋に、事故当時、バールのような物で金庫をこじ開けようとしていた店員の姿が見える。
お客相手に「事故のおかげで違法なゴミ捨て場が片付いている」という趣旨の話をして笑い合っていた。
そこに、女性と子供が挨拶に現れる。
「おおっ、もう退院したのかい!? 無事で良かったねえ!!」
店員の嬉しそうな太い声が、離れた菜々達の耳にも届いた。
「あの子、菜々ちゃんが助けた女の子じゃない!?」
「ほんとだ!! 一緒にいるのはお母さんかな!?」
女の子は照れくさそうにお辞儀をしている。
母親は申し訳なさそうな表情で頭を下げながら、手提げの付いた紙バッグを渡そうとしていた。
それは、有名デパートのロゴが入ったお見舞いの品であった。
「お母さんお母さん!! そんな事して貰わなくても!!」
店員は拒否の姿勢を見せ、二人の間でお見舞いの品が何度か行ったり来たりしたが、店員は唐突に
「いいんですか!?」
と、あっさりそれを受け取ってしまった。
やり取りの間が良く、居合わせた客や、申し訳なさそうな表情だった母親までもが笑ってしまっていた。
女の子の笑った表情が菜々の位置からもハッキリ見える。
「良かった、あの子、大丈夫そうだ」
菜々の、大きな安堵のため息が、ラグラン35の前を縦に通過する。
「菜々ちゃん見えてる? あの明るい表情、後遺症とかも無さそうだねえ」
「うん……ほんと、人の笑顔って、いいよねえ」
母親が、もう一つのお見舞い品を抱えながら
「ウチのアキを助けてくれた方がもう一人いると、お巡りさんから伺いましたが、どなたなのか、御存知でしょうか!?」
と訪ねたが、店員は
「……あと一人!?」
と首を傾げた。
「……ああ、あのお母さんの事かな!? あそこの幼稚園にお子さんが通ってるそうなので、そちらで伺ってみてはどうでしょうか?」
「ママ、行こう!!」
アキは、深々とお辞儀をする母親の腕を引っ張って、店員が指さした幼稚園へ歩き出した。
足取りの軽い二人を見送った店員は、貰ったお見舞いの品と、母親が持っているもう一つのお見舞いのサイズを見比べていた。
「良かった良かった!! さてと、女の子の無事も確認出来たし、長居は無用ね」
菜々はきびすを返す。
「大金を拾って届けた次は、少女の命を救ったね!! 菜々ちゃんには私から感謝状を贈るよ!!」
「もう、記者会見はご勘弁を~」
「恐れ入りますお嬢様、突然では御座いますが、緊急に御耳に入れて頂きたい御報告が……」
笑い合っていた菜々と35の間に、腕時計の12が割って入る。
他の数字に遠慮して会話を譲る事か多い12にしては珍しい行動であった。
「何よ何よ、記者会見のオファーでも入ったの!?」
「いえ……、何者かが、お嬢様を、監視されているようです」
穏やかな声ではあったが、言葉の内容が穏やかではなかった。
「え!?」
菜々と35の驚きがハモる。
ハッピーな空気で溢れていた場が一気に緊張する。
「正確には、何者かがお嬢様を監視していた後、お嬢様の移動に合わせて尾行しているようで御座います」
「いったい誰が……」
後ろを振り返りかけた菜々を12が遮る。
「お嬢様、お喋りは少々、御辛抱いただけませんでしょうか。誠に勝手ながら、わたくしが状況をお話をさせていただきますので、しばしそれを、拝聴していただければと」
これは、どこで誰が見ているかが今は不明なので、無駄に菜々には喋らせず、人には聞こえない数字達の声で情報を伝えるという12の意図があった。
菜々は前へ向き直り、歩く速度を落とした。
「人前で『能力』見せちゃったからねえ。……人が入るサイズの本気の業務用金庫をあっさり開けちゃうって、悪い事に転用可能のスキルだし。ドロボウが菜々ちゃんをスカウトしに来たかもね」
35の意見は、無いとは言い切れない、もっともな仮説であった。
(怖い事、言わないでよ……)
「情報は、街の数字の皆様方からの伝言ゲーム的な塩梅で伝わって来るので、どうも詳細が掴めないのですが、尾行をしている曲者は一人で徒歩、というのは確定のようでございます」
12の言う「街の数字」とは、広告の看板や道路標識に含まれる数字の事だ。
「平素より街の数字の皆様方には御挨拶をさせて頂いており、顔見知り、と言いますか数見知りになっております。ただ、このような有事に心強い存在になるとは、わたくし、ひらめきが御座いませんでした。地道な数脈作りは身を救いますな。ははは」
12は真面目な性格ではあったが、好奇心が強く、緊急事態を楽しんでしまう傾向がある。
「……笑い事じゃ、ないっつーの」
35が呆れて溜め息をつく。
助けた女の子の様子に気を取られていた菜々は、12の言う街の声に気付かなかった。
数字達は、常に自由に、喋っている。
ただ、普通の人間が、雑踏に紛れる人の声を気にしないのと同様、数字の声の全てを菜々が把握しているワケではない。
曲者は、菜々の後方をつかず離れずの距離を保って尾行しているらしい。
「……さあて、この事態、どう御対応なされますか!?」
12の声は楽しそうに弾んでいる。
その不真面目な態度に35は何か言おうとしたが、別の、建設的な提案をした。
「その、クセモノは、菜々ちゃんの能力を探ってるかも知れないから、接触するのは全力回避だよね」
黙って話を聞いていた菜々が口を開く。
「クセモノが一人って事は、囲まれているんじゃ、ないのね!?」
「そうだね、これの対応は、簡単だね菜々ちゃん!!」
「全力で走ってぶっちぎる!!」
「左様でございますな。流石はお嬢様」
菜々は、全力で、走り出した




