第24話【菜々、拉致されてしまう】
女子高校生の朝寅菜々は、数字と会話が出来る能力を持っていた。
【キャラと数字紹介】
渋谷大河・菜々の幼馴染。陸上部の有力部員。特性がある。
美海先輩・陸上部の先輩。凄い巨乳。
35・菜々のお気に入りラグランTシャツの胸のプリント。世代的感覚が菜々と近い。
12・祖父から貰った腕時計の文字盤。執事風キャラで好奇心旺盛。菜々とは子供の頃からの付き合い。
1955・スタジアムジャンパー。菜々の心強い味方だが行動と発言が少々過激。
●毎日夜に上げられるように頑張ります。
サングラスの女が申し訳なさそうに言った直後、エンジン音が鳴り響いた。
横道からワンボックス車が現れ、菜々の目前に横付けされる。
スーツの男がスライドドアを開けると、菜々を抱えた大柄な女とサングラスの女が車内に入った。
菜々と向かい合って座席に着いたサングラスの女が懇願するように言う。
「約束する、乱暴な事はしない。あんたの門限までは終わらせるから、安心してくれ」
強引にワゴン車へ押し込むのは乱暴な事ではないのか!? と菜々は思ったが、もちろん声に出してはいない。
この時の菜々は、腕時計をつけていない。
部活を終えて着替える前に、大河からコインランドリーに誘われていたのだ。
緊急時に頼りになる腕時計12や、一緒に問題を解決してくれるラグラン35は、更衣室のロッカーに仕舞われたままだ。
「あんたみたいな可愛らしい女子高生だとは思ってなかったから、ちょっと驚いちゃったよ」
女が菜々の全身を無遠慮に眺める。
続いてスーツの男も車に乗り込もうとすると
「お前は乗らなくていいよ!!」
と女が一喝した。
「安心しな、分け前は後で渡すから。おウチに帰って待ってな」
男は「えっ!?」という意外そうな表情を見せ、それをじわじと悲しく変化させる。
哀願するような視線を女に向けながら、車に乗せていた片足を弱々しく降ろし、後ずさりした。
「ふっ、従順で、いいね」
サングラスの女が鼻で笑う。
ドアが閉められ、スモーク越しに茫然とする男が見える。
「あいつまだ、甘いんだよね」
嘲笑するように女が言った。
車が動き出した。
座席に押し付けられるような急発進だった。
後ろ向きに立っていたサングラスの女は前につんのめる。
「安全運転しろって言ってんだろが!!」
サングラスの女が運転席に向かって怒鳴った。
「す、すんません!!」
運転席の小柄な男がバックミラーでこちらの様子を何度もチラ見しながら平謝りしている。
「お嬢ちゃん、シートベルト、してくれるかな?」
と笑顔で語りかけた女は、前方を振り返り「お前達もだよ!!」と運転手の男と助手席の大柄な女に凄んでみせた。
それは、恫喝と笑顔の両方を使い分け、他人を常習的にコントロールしている人間の所作だった。
「今、お巡りさんに捕まると、色々都合が悪いのよねえ。それに最近は、悪役も交通ルールを守らないとね。コンプラ厳しいから」
と言い女は笑った。
それにつられるように、前方の大柄小柄コンビも笑い出す。
「……あんた、随分、落ち着いてるわね、こんな状況で」
菜々の顔を興味深げに覗き込むサングラスの女は
「あと……あんた、あいつの好みみたいだよ」
と親指を助手席に向けて振った。
その先には、菜々を凝視している大柄の女の微笑みがあった。
法定速度を守りながら車はゆっくりと国道に出た。
日没にはまだ余裕がある真夏の太陽が、スモークの窓を貫通する。
「それで、お嬢ちゃん、オーディションみたいなもんなんだけど、これ、開けられる!?」
女は「よっこらしょ」と言いながら最後尾の座席から金庫を取り出し掲げた。
おおよそランドセル大だろうか、取っ手が付いた携帯出来るタイプだ。
「さっきの、この車に乗れなかった男から聞いたんだよ、お嬢ちゃん、特技があるってさ。これからちょっと本番の前にさ、見せて欲しいんだよねえ」
女からは先程までの薄笑いが消えていた。
サングラス越しの視線と声は脅迫味を帯びている。
普通の、十代の高校生ならば委縮して、言いなりになっていたかもしれない。
しかし菜々は、冷静でいられた。
この時既に、この者達の狙いを正確に把握していたからだ。
菜々は、女の頼みを無視するように
「悪い奴をやっつけてください」
と呟いた。
「……!?」
女は首を捻った。
「……それ、どーゆー意味かな!?」
女はしばらく沈黙した。
菜々の言葉の意味を即座に理解出来なかったのだ。
しかし女は、熟考したのち「子供に舐められた」という、自身の気質に馴染む解釈をする。
サングラスを荒々しくはずし、怒りを抑えた眼光を菜々の視線に合わせる。
女は、恫喝の体制に入ろうとしていたのだ。
その時、運転席から悲鳴が上がる。
「……えっ、えっ、ええええ」
視線を菜々にバッチリ合わせながら女は
「情けない声を出すんじゃないよ!! 今、いいとこなんだよ!!」
と凄む。
運転手の小柄な男は、座席で身を捩りながら、喚いた。
「……かっ、勝手に車がっ、動いてますっ!!」
面倒臭そうに「ああ!?」と呟きながら運転席を振り返ったサングラスの女は、ハンドルから手を離した男の姿を見る。
「ほらっ、ほらあっ!!」
更に足を上げて、アクセルとブレーキを踏んでいない事を女にアピールした。
「……どうゆう事さ!?」
車はウインカーが点灯され、交差点の右折レーンに入り一時停止した。
カートを押した老人が横断歩道をゆっくり歩いているのが見える。
老人が渡り切り、路上が無人になってから、そろそろと車は動き出し右折した。
ハンドルが勝手に回り、アクセルとブレーキとウインカーの操作が無人で行われている様子を、四人は無言で見つめていた。




