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第21話【コインランドリーの攻防・そして警察沙汰】

女子高校生の朝寅菜々は、数字と会話が出来る能力を持っていた。


【キャラと数字紹介】

渋谷大河・菜々の幼馴染。陸上部の有力部員。特性がある。

美海先輩・陸上部の先輩。凄い巨乳。

35・菜々のお気に入りラグランTシャツの胸のプリント。世代的感覚が菜々と近い。

12・祖父から貰った腕時計の文字盤。執事風キャラで好奇心旺盛。菜々とは子供の頃からの付き合い。

1955・スタジアムジャンパー。菜々の心強い味方だが行動と発言が少々過激。


●毎日夜に上げられるように頑張ります。

 わずかワンターンの会話で成人男性を退けたオーラは只者では無かった。

 しかもその後の、無駄の無い的確な行動。

 自分だったら、緊急時にこんな行動は絶対に不可能だ、と菜々は思った。

 実際、スーツの男に詰められて、思考停止状態になっていた……。


(何かプレッシャー掛けて来るイヤな感じの先輩だな、と苦手意識があったけど、そんな事も無かったな)

(あたしの一方的な思い込みだったな)

(一年多く人生積んで来た人は流石に、違うなあ……)


 菜々は心の中で先輩を再評価していた。


 美海は、右のてのひらを胸の中央に当てながら

「ほら、私、大人っぽく見られるでしょ!? 私もねえ朝寅さん、声を掛けられる事が多いのよ」

 と語り始めた。

「ハッキリとNOを言わなければ駄目よ。曖昧な態度は相手を誤解させるわ」

 力強い言葉に菜々は頷く。


 ここから美海は、迷惑な声掛け案件の体験と対策を語り出す。

(これは聞いといた方がいいな)

 椅子に座り直し、真剣に耳を傾ける。


 しかし何故か話は

「この前なんかね、イケメンの若いお医者さんから……」

 と、いつの間にか美海自身の遍歴自慢にスライドしてしまう。


 菜々にとってそれは、想定外の苦痛な状況になった。

 先程の感謝もあり無下に出来ず

「そうなんですかあ」

 などと適度な合いの手を入れなければならない、辛抱の時間であった。

(対策の話じゃなくなってますけど!?)

 菜々は、先程上った再評価ランクを若干、下げる事に決めた。


 永遠に続くかと思われた美海の「防犯対策」という名の遍歴自慢は、顧問の到着で中断される。

 ネット関連会社のイケメン幹部から熱烈な……という長尺が予想されるエピソードの、まだまだ冒頭であった。


「続きはまた今度ね朝寅さん」

 残念そうに美海が言う。

「是非是非!!」

 と笑顔で返す事が出来た自分を褒めたい菜々であった。


 顧問と大河に付き添われて帰宅した直後、防災無線で『声掛け事案』の注意喚起が流れた。

 雨音を遥かに上回る音量であった。

(思ってたより大事になったな……)



 自宅に戻った菜々は、自室の数字達に顛末を説明する。

 真っ先に反応したのは、スタジアムジャンパーの1955だった。

 梅雨時でシーズンオフのスタジャンは現在「部屋で一番見晴らしが良い場所(1955自称)」にハンガーに掛けられ吊るされている。


 1955の第一声は、御馴染みの罵声であった。


「冗談じゃないわよ!! 12は菜々と一緒にいて、何の役にも立たなかったって事じゃないのさ!!」

 怒りの矛先は、唯一菜々と同行していた数字の腕時計12だった。

 二つの数字は仲が悪い……と言うより一方的に1955が12を嫌っている。


 ひとしきり罵声が続いたところで、明日の登校着としてベットの上に畳まれていたラグラン35が助け舟を出す。

「この間みたいなさ、街の数字の伝言ゲーム的なので、変なヤツが尾行してるとか、今回は無かったの!?」


「申し訳御座いません、雨音が大き過ぎて……街の皆さんの声があったのかも知れませんが……遺憾ながらわたくし、全く気付きませんでした」

 机の上のハンカチの上に乗せられた12の声が珍しく弱々しい。


「もう暗かったんだよね!? 街の数字達もスーツの男を発見出来なかったんだよ、きっとさ。だから12は悪くないんじゃね!?」

 いつもと変わらぬ口調で擁護する35は、部屋の数字達の中ではまだまだ新人である。

 菜々が子供の頃から付き添っている1955は擁護に対して、無言であった。


 他の数字達や菜々でさえ、毒舌が35に向けられる事を想定したが、そうはならなかった。

 自ら矢面に立った35に、1955が何を思ったのかは、いささか不文明ではあった。


 会話が途切れると罵声が再開されそうなので、間を作らないように菜々が喋り出す。

「あのリーマン、あたしの『能力』に気付いてるかも……」

 部屋の数字達が一斉に息を飲む。


「全く、誰も頼りにならないじゃないのさ!! 分かったわ、菜々は明日から私を着て行きなさい!!」

 1955が無茶な提案をした。

 梅雨時の蒸し暑い時期に厚手のスタジアムジャンパー着用……。

 顔を見合わせた部屋の数字達は、慎重に、なおかつ丁寧に、言葉を選びながら1955の申し出を却下させた 


 数字と会話出来る、などという能力が特殊過ぎて、普通の人間がそれに気付く可能性はほぼ無いと考えられる。

 しかし、超能力的な何かを使って金庫を開けられると誤認された場合、菜々自身に危険が及ぶケースは充分にあり得る事であった。


「まあでも、今日の事は警察沙汰にもなってるんだし、もう大丈夫じゃね!? お巡りさんに任せようよ」

 楽観的な35の言葉は、明るい性格を取り戻した最近の菜々に、似たのかも知れない。



 翌日、学校に警察官が二人、前日の声掛け案件の聴取を取りに訪れた。

 現場にいた菜々と美海と大河が校長室に呼ばれた。


 その時、警察官から数枚の写真を見せられる。

 コインランドリー店内の防犯カメラ映像のプリントだった。

 スーツの男の顔がかなり鮮明に確認出来る。


「この男に見覚えは!?」

 と警察官に尋ねられた菜々は

「……ちょっと、覚えていません」

 と首を捻りながら答えた。


 後々「金庫事故の現場で会っていた」事がバレても「忘れていた」と言えば嘘をついている事にならないギリギリの解答である。

 この解答の指導は、百戦錬磨の1955であった。

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