第20話【美海先輩、菜々を救う】
女子高校生の朝寅菜々は、数字と会話が出来る能力を持っていた。
【キャラと数字紹介】
渋谷大河・菜々の幼馴染。陸上部の有力部員。特性がある。
美海先輩・陸上部の先輩。凄い巨乳。
35・菜々のお気に入りラグランTシャツの胸のプリント。世代的感覚が菜々と近い。
12・祖父から貰った腕時計の文字盤。執事風キャラで好奇心旺盛。菜々とは子供の頃からの付き合い。
●毎日夜に上げられるように頑張ります。
「おお、これはこれは、超高級ブランドの〇〇〇様で御座いましたか。お姿がチラリとお見えになられただけで、あたりが一段階明るくなったように感じます。流石で御座います」
「おっ、あんちゃん、分かってるねえ」
スーツの男の腕時計は文字レスタイプで、カレンダーの数字『30』が、菜々の腕時計12の問い掛けに反応した。
「月一回の出番にそんな事言われちゃったら、おいら、嬉しくて照れっちゃうな、わはは、そういや、先月の出番なんか、しどくてよお……」
場の緊迫した空気にそぐわない江戸っ子口調の30は雑談に突入する。
たじろいだ12だったが、雑談を遮るように切り出した。
「ところで30様、わたくしのお嬢様がたった今、困った状況に置かれていまして……」
「ああ、すまねえなあ迷惑かけちまって。この男、色々追い込まれててさ、ちょっと今、ドロボウやってんだよ」
数字の会話を聞いていた菜々が息を飲む。
「仕事もしねえのに、しる間(昼間)っから背広着てよお、あたりの家、物色してるって寸法さあ」
「こないだの金庫事故も、通報するマネだけして、お巡り来る前にトンづらさ」
「そっちの嬢ちゃん、数字と喋れっだろ。気をつけな、こいつ、仲間にしようとつけ狙ってるぜ」
「こいつもさ、元は悪いヤツじゃなかったんだけどな。親父さんの工場を潰されちまって……」
30の話を聞いていた菜々は、完全に身体が固まってしまった。
スーツの男からの問いかけにも答えられず沈黙したままだ。
精神的に追いつめられた菜々は、反射的に助けを求めるように腕時計を見た。
男も菜々の視線の先を追う。
二人の注目を浴びた12が喋り出した。
「お嬢様、御安心ください。わたくし、ここでは何も起こらない予感がします。少々このまま御辛抱いただけますか!?」
もちろんその声は、スーツの男には聞こえていない。
「その時計に、何かあるのか!?」
菜々の緯線に違和感を感じた男が問い詰めようとした時、背後の扉が開いた。
「ごめんねえ、重い物、持たせちゃって」
後ろを振り返りながら傘を閉じて店に入って来たのは、練習着姿の美海先輩だった。
「いえ、全然大丈夫ですー」
その後から遅れて店に入って来た、山積みの洗濯物のカゴを持った大男は……。
美海は、菜々の姿が見えた瞬間、後ろの大男の横に移動してピタリと身体を寄せた。
自慢の巨乳が大男の腕に着きそうな至近距離だ。
「あらあ朝寅さん、偶然ね、私達、今、居残り練習終わりなの。ね、大河君」
『私達』というワードに強いアクセントがあった。
大河の顔を見ながら美海はカゴを一緒に持つ素振りを見せる。
しかし大河は、それを振り払うようにして菜々に数歩近づいた。
「うわ、菜々ちゃん!! 偶然だね!! 今、居残り練習終わったとこなんだ!!」
「……大河、それ、たった今、美海先輩から聞いたわよ!?」
いつも通りの大河の大河っぷりに、菜々は苦笑いが漏れ出る。
その後ろで、アピールの小芝居が秒で閉幕した美海が、手持ち無沙汰に両手をぶらつかせていた。
「なるほど、名前は、あさとらなな、か……」
スーツの男は小さく呟いた。
(あ、名前バレた)
と菜々は内心焦ったが、それよりも男の異変が気になった。
「……いい友達がいて、楽しそうな学生生活だな」
先程と違って表情が歪んでいるように見えた。
明らかに、身体全体から負のオーラを発している。
美海も男の異様さに気付く。
「朝寅さん、この方は……」
問われた菜々はSOSの表情を向けた。
それを受けた美海の顔付きが変わった。
強い視線がスーツの男を射抜く。
「申し訳ございません、私の後輩が困っているようなので、お声掛けは控えていただいてよろしいでしょうか!?」
先程の甘ったるいアピール声とは全く違う、毅然として芯のある発声だった。
場数を感じさせる警告の直撃を受けた男は、明らかに怯んだ。
「……へっ、バカにしやがって、どいつもこいつも……」
ぶつぶつと何か呟きながら、視線を逸らして立ちあがり、店から出て行った。
男の背中は、雨と暗闇の中に溶けたように見えなくなる。
大河は、カゴの洗濯物を抱えたまま事態を見つめていたが、異変は去ったと解釈したのか、くるりと振り返り、洗濯機の中に衣類を投入した。
「朝寅さん、あの人知ってる人なの!?」
携帯端末を取り出しながら美海は問い掛ける。
その質問の返事に菜々は、慎重になる必要があった。
「……いや、知ら……覚えてないです」
「そうよね、朝寅さんの名前も知らなかったみたいだし」
美海は、菜々の都合の良い方向に事態を解釈してくれた。
会話をしながら端末を操作していた美海は、どうやら学校に連絡をしているようだった。
通話が繋がった直後の第一声で学年と氏名を名乗り「緊急です」と告げ、状況を的確に伝える。
「警察には学校から通報してくれるそうよ。あと、顧問がここまで迎えに来てくれるって。それまでには洗濯物の乾燥、終わってるかしらね」
通話を終え、笑顔を菜々に向けた。
(……美海先輩、スゲえ)




