第15話【自宅警備中学生】
女子高校生の朝寅菜々は、数字と会話が出来る能力を持っていた。
【登場人物と数字の紹介】
渋谷大河・菜々の幼馴染。高校時代で身長一八〇㎝。特性がある。
●毎日夜11時台か0時過ぎに上げられるように頑張ります。
まだ暗い窓の外から鳥のさえずる声が聞こえた来た。
荷物を運ぶ台車のガラガラという音と、新聞配達のエンジン音が重なる。
「毎日、毎時間、どっかで誰かが働いてんだねえ」
自室でゲームをしながら呟いた菜々の言葉に、反応する人や数字はいない。
ハンガーに掛けられていた服や時計などの『数字を含むモノ』は全て、タンスや押し入れに仕舞われているのだ。
数字達の会話で賑やかだった部屋は、ゲームの機械音に取って代わっている。
モニターの明かりのみで照らされていた菜々の視界に、カーテン越しの朝陽がぼんやりと差し込んで来る。
「……朝、来なくていいのになあ」
ゲーム機脇の棚に並んでいる複数のコントローラーにも朝陽が届いた。
それが視界に入った菜々は、この部屋でクラスの友達とゲームで遊んだ事を思い出した。
「あたしの事、みんな忘れてんだろうなあ……」
中ボスをあと少しで倒せるところまで追いつめていた菜々は、唐突にゲームの電源を切り、立ち上がって頭を掻きながら自室を出た。
思い出さなくてもいい事を思い出してしまった自分に腹が立ったのだ。
廊下を数歩、怒りに任せてドカドカと音を立てて歩いた直後に、家族がまだ眠っている事を思い出し、忍び足に歩みを変える。
玄関の靴箱の上から、チラシに混じった学校のプリントを取り出し、キッチンに入る。
冷蔵庫から出した牛乳の紙パックを、直接口をつけて飲みながら、持っていたプリントをテーブルの上に投げ置く。
「大河、まだプリント持って来てくれてんだ。マメな男ね」
牛乳を冷蔵庫に仕舞った後、テーブル前の椅子にどかりと座ってリモコンでテレビをつける。
カラーバーが画面に出たので何度かザッピングしたが、特に見たい番組が無かった事を思い出してスイッチを切った。
「……あのお、すいません、お名前は朝寅菜々さん、でよろしかったでしょうか!?」
「え、数字の声!? ……どこから!?」
椅子の背もたれから体を起こし、周りを見回す。
「すっ、すいません、申し遅れました。僕は、パーカーのファスナーにいる『8』です。小さくて気付き辛いと思いますがっ……」
菜々はファスナーの取っ手を摘まんで持ち上げ、目を細めた。
確かに小さな『8』の文字が刻印されている。
「こんなトコにも数字が……ママには数字のプリントが無い服にしてって頼んだんだけどなあ……」
菜々のあきれたような声に8は「すいません」を連呼した。
別に謝る事は無いのにな、と思ったが、面倒なので口には出さなかった。
それを言っても恐らくまた「すいません」と謝りそうだし……。
パーカーは数日前に母親が購入した物で、8と会話になったのはこの瞬間が初である。
そのパーカーは小柄な菜々にはサイズが大きくように見えた。
元々、菜々の服はビッグサイズな物が多い。
幼少期、成長した身体のサイズに合わなくなった服の数字達と別れなければならない事が頻発した。
それを嫌がった菜々の様子を見た両親は「気に入った服を長く着たがっている」と解釈する。
ビッグサイズならば、長く着る事が可能だろう。
数字のプリントが無い服、という注文を母親は忠実に守ったのだが、ビッグサイズ購入の慣習は残ったままだった。
今回のパーカーも、長い袖が菜々の腕の部分に蛇腹状に渋滞している。
「……数字の声を聞くの、久し振りな気がするなあ。まあ、人の声も聞いてないけど」
母親が作り置いてくれていた野菜炒めのラップを剥がし、伏せられていた茶碗に炊飯器の御飯をよそう。
「あの……朝寅さん……」
「菜々、でいいよ」
「す、すいません、では、菜々さん……菜々さんは何故、学校に行かないんでしょうか!?」
「…………」
キッチンに咀嚼音だけが響いた。
「……ああ、すいません、知り合ったばかりでこんな不躾な質問をしてまって……」
「色々あったのよ」
菜々の返答は、素っ気ない。
「なるほど!! ……色々、とは!? ……あああ、すいませんすいません、答えたくないなら、答えなくていいですっ」
腰が低いと見せ掛けてズケズケと詮索して来るヤツだな、と菜々は思ったが、喋る事の気持ち良さを優先させたくなり、茶碗と箸を持ったまま語り出す。
「ちょっと目立つ事したら、叩かれて、ヘコんだ、て感じなのかなあ……あれは多分、人の役に立ちたかっただけ、なんだろうけどなあ……」
他人を評価しているような淡々とした口調だった。
消えたテレビの画面に、反射する自分の姿が見えてしまったので、立ち上がり、茶筒からサジ二杯ぶんの茶葉を急須に入れポットの湯を注ぐ。
「全員が朝寅さんを叩いたんですか!?」
大きな湯呑に入ったお茶の湯気を顔に受けた菜々は、充分に間を開けてから8のストレート過ぎる質問に答えた。
「……全員じゃなかったけど、一部の男子と、それに乗っかった一部の女子……女子の粘着、酷かったんだよ」
「女子が集団で朝寅さんを……。もしかしていじめみたいな感じでしょうか!? 許せないですね……今から僕と一緒に殴りに行きましょうよ!!」
「……どっかで聞いたようなフレーズだねえ」
菜々は少し笑った。
……笑ったのは何日ぶりだろうか。
「ああ、でもその女子達、揃って転校していなくなったけどね」
「えっ、何故」
「あたしもよく分からないんだけど……」
その顛末には数字達の暗躍があったのだが、詳細は菜々自身も知らされていない。




