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第10話【危機一髪・人知を超えた数字の能力】

女子高校生の朝寅菜々は、数字と会話が出来る能力を持っていた。


【キャラと数字の紹介】

渋谷大河・菜々の幼馴染の男子。高校時代に身長一八〇㎝。特性がある。

35・菜々のお気に入りラグランTシャツの胸のプリント。世代的感覚が菜々と近い。


●毎日夜11時台か、日付が変わった0時台に上げられるように頑張ります。

 轟音と地響きの先端は、歩道のガードレールを飛び越え、カツヤマ先生が立っていたほんの数メートル前を横切り、植え込み横の電柱を切断した。

 まるで、ナイフでウインナーを切ったような綺麗な切り口だった。

 削られて瞬時に熱せられたアスファルトからは煙が舞う。

 鉄骨の束を結んでいたワイヤーが弾け、急ブレーキで衝突を回避した乗用車のフロントに深く食い込み、切断されたパイプからオイルが漏れ出ているのが見える。


 まさに、間一髪であった。

 菜々の腹痛が無く、そのままお散歩の列が直進していたら……。


 カツヤマ先生は事態を察した瞬間に、お散歩カートと新人のモモネ先生を抱え込むようにして菜々達の位置まで後退している。


 トラック横転の顛末のほぼ全てを目撃してしまったモモネ先生の足が震えていた。

「みっ……みんな、大丈夫!?」

 と子供達の顔を見回している笑顔のカツヤマ先生の足は、モモネ先生以上に震えていた。


「……おお、間に合ったかあ……菜々ちゃんは勘の良い子だねえ……良かった良かった……」

 懐中時計の12は、いつもののんびり口調に戻って、どうやらまた眠りに入ったようだ。


「これの事か……」

 大の字に横になったまま事故を目撃した菜々は、妙に冷静に納得していたが、間を置いてから、大河が抱き着いている事に気付く。

 いや、抱き着いてるのではない。

 大の字に寝ていた菜々に覆い被さり、守ってくれていたのだ。

 大河の胸が触れている右の頬が暖かい。


「……大河君、あの時、叫んでたよね!?」

 その声に大河は、ゆっくり体を起こし、横になったままの菜々の顔を見ながら、いつもの笑顔で頷いた。


「大丈夫!? 怪我は無い!?」

 リナ先生が大河を抱えて立たせる。

「菜々ちゃん、お腹は!?」

「もう大丈夫」

 と返事をしながら見上げたリナ先生が、満面の笑みだった事に驚く。

(あんな凄い事故があった後なのに、大人は慌ててないなあ……)

 菜々はそれを不思議に思った。

 先生の物言いや動きも、いつもより優しくゆっくりな気がした。


(あれえ、もしかしたら、大した事故じゃなかったのかな……)

 と菜々は錯覚した。


 立ち上がった菜々の無事を確認したリナ先生は

「みんな大丈夫そうね」

 と言った後にカツヤマ先生とアイコンタクトを取り、揃って頷く。


「凄いの見ちゃったねえ。よーし、じゃ今日は予定を変更して、皆が大好きな恐竜公園行っちゃおっか!!」

 明らかにテンションのギアを上げたカツヤマ先生は、手に持ったブラシを進行方向に向けてポーズを決め、自らの口で「シャキーン」という擬音も添えた。

 オーバーアクションとホスト風笑顔が全開だ。

 歓声を上げる子供達。

 列を整理し、来た道を戻って歩き出すと、先頭に立ったカツヤマ先生は流行っていたヒーロー番組の主題歌を歌い始めた。

 子供達は更に盛り上がった。


 モモネ先生は列の最後尾で、子供から表情を隠すようにしながら携帯端末で通話していた。

「……子供達は無事です!!」

 という言葉を繰り返していた先生は、泣くのを必死に堪えていた。

 菜々はそれに気づいたが、見てはいけない気がして、前に向き直る。

 大半の子供達は歌っているカツヤマ先生に注目していて、最後尾のモモネ先生の様子に気付いていない。


 遠くから聞こえる緊急車両のサイレンを上回るボリュームで歌っていたカツヤマ先生は、サビで持参していた薔薇の花を咥えてその場でターンを決めた。

「凄い凄い!!」

 手拍子をしながら盛り上げているリナ先生は、子供達が直前に目撃したショッキングな事故の記憶の一部分でも、カツヤマ先生の奮闘に置き換わればいいな、と願っていた。


 恐竜公園で全力で遊んだ後、園に戻り、子供達の視線が届かない控室に入ったカツヤマ先生は、膝から崩れ落ちた。

「……よ、良かった……みんな無事で……こっ、怖かった……」

 と全身を震わせている。

 自慢の前髪も、ぐったりだ。

 滑稽な姿ではあったが、保護者の電話対応で忙しい園の先生達は、誰も笑わなかった。


 事故の連絡で駆け付けた出張中だった園長先生は

「ありがとうカツヤマ先生、報告は聞きました。御蔭で子供達のショックも軽減したでしょう」

 と労をねぎらった。

 園長はリナ先生にも感謝の言葉を贈りつつ、モモネ先生の心配をした。

 恐竜公園ではいつも通り振舞えていたが、事故直後の子供達への対応が疎かになってしまったと、自分を責めていたのだ。


「新人のモモネ先生は園に来てまだ一週間でしたか。通報や園への連絡は全て彼女が担当してくれたので、そんなに気に病む事では無いのですが……。私と副園長でケアしますので、こちらは任せてください」


 控室から出ようとした園長は、何かを思い出したように振り返る。

「ああ、それと、御苦労様の先生の皆さんには、これを」

 園長が差し出した紙バックに、プリンが評判のお店のロゴが見えた時、先生達から感謝の歓声が上がった。


 この後、園に警察官が訪れ、事故の目撃聴取もあったのだが、子供達の視線が届かない場所で行われている。


 しかしこの、数々の園の配慮は、マスコミ報道で徒労と化すのだった。

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