大正の時代・落ち葉焚きと売店
私をここに植えた駅長と別れて、さらに十年ほど月日が過ぎた。
時代は大正に変わり、町行く人の数も増え、町の風景も少しずつ変わっていった。
人の装いも、着物姿に混ざって、モダンボーイ・モダンガールと呼ばれる洋装もぼちぼちと表れてきた。
私の背丈はすっかり大きくなってしまった。10mを超えただろうか?私の作る木陰は夏には、暑さをしのぐ人にとって大切なものになっていた。
私の足元近くには小さな売店が出来た。そこの店主が次の私の仲間であった。
「お前さんの木陰のおかげで、夏は涼しくてありがてえや」
店主はそう言いながら、私に水を撒いてくれる。私もそよ風を使って返事をする。
さわさわ・・・。
夏の嵐が来る前には、私の伸びすぎた枝を剪定してくれる。昔は庭師の様な事もやっていたようで、その手際はなかなかのモノであった。私は店主に「散髪」してもらっているようで、その時間が楽しみだった。
剪定が終わると、枝ぶりも軽くなり、体全体が軽くなった感じがした。そうやって店主に「散髪」してもらうのが私のひそかな楽しみであった。
秋になると、特別な季節だ。私の身体は黄金色に染まる。そうして葉をハラハラと落とすと、店主は竹ほうきで『シャッ!シャッ!』と小気味よい音を立てて集める。そうやって集まった落ち葉を使って、店主は焼き芋を焼く。その煙は私の枝を通って、空へと上がっていく。
落ち葉のなかでしっかりと焼けた焼き芋を割ると、甘く香ばしい香りがあたりに広がる。
「今年もお前さんのおかげで、いい焼き芋が焼けたぞ」
店主はそう言うと、匂いに釣られてやってきた学校帰りの子供や、駅に降り立ったお客さんたちに焼き芋を売り始める。私の落ち葉で焼かれた、焼き立ての焼き芋は、みんなの顔を笑顔にした。
『私の落ち葉は、みんなを笑顔にしている』
そう考えると、少しだけ誇らしく感じた。
「時代は進むなぁ、そういや今度、この町に兵隊さんの駐屯地が出来るって話だ。また、たくさんの人がやってくるようになるな」
変わっていく街の中で、変わらずそこに立ち続ける私に、店主は楽しそうに未来の話を聞かせてくれるのだった。




