第三十一話 紅のダンデライオン
「見つけ、ちゃっ、た」
軽い気持ちで探索に出かけたのだ。まさか辿り着けるとは思っていなかった。本当に、何の苦もなく、目標の場所まで到着した。
夕暮れ時のフィールド。爆心地近くの崖の上。そこに凛と咲く、赤いタンポポのような花。
それをそっと一つ摘み、採集用のケースに入れる。あっけなさすぎて、これからどうしようと、逆に焦りながら、家路につく。
フェルマーからの申し出のことをずっと考えていた。きっと私はもう元の世界には帰れない。この地でずっと暮らしていくには、どうすればいいか。
今の状態でも、何とかはなっている。最近はしっかりと働けているし、知り合いも増えた。でも、何かあった時の保証が何もない。病気になったら? けがをしたら? 甘える理由がある人が、いない。言えばみんな助けてくれるとは思うけど。
レオンは多分私のことを憎からず思っている、とは思う。でも、彼は軍人だし、貴族だ。身分が違う。
リリィは助けてくれるだろうけれど、彼女には彼女の生活がある。
魔女のおばあちゃんも、酒場アリアドネのママも、困ったときには手助けくらいしてくれるだろうけれど、ずっとというわけにはいかない。
そんな中でのフェルマーの申し出。ギブアンドテイクな関係。同じ職業だし、実力差に気後れすることもない。
そんなことをぼーっと考えていたら、いつの間にか紅のダンデリオンが咲く場所までたどり着いていたわけだ。最近では魔力のまとい方がうまくなったようで、半端なモンスターは近づきもしない。おかげさまで、ピクニックと大して変わらない道のりだった。
「これ、どうしよう」
魔女の家に帰ってきて、とりあえずテーブルの上に置いた紅のダンデリオン。これでお姫様の病が治るかもしれないということだった。それならば、もったいぶる必要もない。
いつも通り、レオンに託そう。
「レオン、これを王家に届けたら、階級が上がるかな」
いままで世話になったお礼になるかもしれない。もしかしたら、これをきっかけに、お姫様と仲良くなったり……。
「それもわるくない、かな」
うじうじ悩むのは私らしくない。今までのけじめにもなるし、それに人助けはいいことだ。さっさと届けようと思って、レオンがいる酒場、アリアドネへと向かう。
「これ、いつも通り匿名で提供してくれないかな」
さすがに人前に出すのはよくないという分別くらいつくので、個室を用意してもらって、いざ、クエストの成果物をレオンの前に出す。
「……」
レオンはまず固まり、腕を組み、そして眉間をもみ始める。
「モニカ」
「はい?」
「モニカ」
「……はい?」
「モニカ、これはなんだ」
「紅の、ダンデリオン」
「なんで、こんなのを、持っているんだ」
「えっと、……とってきた」
「なんでだ」
なぜかちょっと怒っている。
「だって、お姫様かわいそうだったから」
「まあ、まて。まずはこれが本物かを確かめる必要がある」
「え、私が嘘をついているって思ってるの?」
「そういうわけじゃない。間違いということもあるだろう。というか、その確率のほうが普通に考えると高い」
「まあ、そう、ね。じゃあ、いいわ。これはあげるから、好きにして。調べるなりなんなりレオンの判断に任せるわ。とりあえず、いつものように、匿名で、ね」
「それは無理だ」
「……え?」
それではこの花はどうすればいいのか。
「でも、捨てるのはもったいないじゃない」
「ば、捨てるわけないだろう。これはな、いままで国を挙げても手に入れることができなかった花だ。いくら匿名で渡したところで、出所は探られる。それこそ、国を挙げて探しに来る」
どうやら私はとんでもないクエストをクリアしてしまったようだと、ようやく気が付いた。




