第三十話 夫婦冒険家登録について
「あ、咲いてる」
リリィのアドバイスに従い、ラゴちゃんの恋人を見繕ったのが昨日。雄株と雌株を見分けるのは簡単だった。でも、果たしてラゴちゃんとの相性はいいのだろうかと悩んだのたが、杞憂だったみたいだ。
朝の水やりに来たら、ラゴちゃんは立派な花を咲かせていた。
「恋人ねぇ。私はとくに必須とまでは思ってなかったけど、その地に根付くにはいい方法なのかもね」
話しかけながらも、水をやる。こころなしか、葉の艶もいい。
しかし、そんなのどかな朝のひと時は、思わぬ人の登場によって打ち破られる。
「あれ、モニカ。お前こんなところに住んでたのか!」
唐突に後ろから話しかけられ、心臓が飛び出るかと思った。
後ろにいたのは、戦う薬草師、フェルマーだった。
「フェルマーさん。どうしたんですか? 街に用事でも?」
「ああ、装備のメンテナンスにきてたんだ。それに、モニカにも用事があったんだ。ちょうどよかった。探す手間が省けた!」
フェルマーは嬉しそうに笑う。見た目がいいので笑顔が眩しい。
「そうだったんですね」
「あれ、このマンドラゴラがこの前話してた奴か? 花、咲いてるじゃん」
フェルマーは動きが機敏なので、いつの間にか隣に来て、ラゴちゃんを覗き込む。
「そうなんです。ちょうど、今日咲きました」
「すごいな。そうか、夫婦にしたのか。当たり前といえば当たり前だけど、盲点だった。やっぱりモニカはすごいな。見込み通りだ」
「えっと、ありがとうございます。でも、これを発見したのは私じゃなくて、友人で……」
手放しで褒められたので、少し照れる。
「でも、人づてにでも情報を集めて、結果を出したのはモニカだろ? それは誇っていい」
「そうですね」
フェルマーは、腕を組んでなぜか満足そうにうなずいている。
「ところで、今日はどのような用事で?」
「このマンドラゴラじゃないけど、俺と夫婦登録しないか?」
唐突な申し出に、頭が追いつかない。
「夫婦、登録?」
「そうだ。それさえしておけば、フィールドワークの幅が広がる。例えば、遠征に行ってる間に新種を見つけるとするだろ? 自分の名前で登録するには、いちいち帰らなくちゃいけなかった。でも夫婦登録してあれば、片方が戻れば共同名義で新種登録できるんだ」
ものすごくビジネスライクな関係のようだ。
「えっと、そこには恋愛感情は特に……?」
「あれ、モニカは恋愛主義?」
逆に驚かれる。
「いえ、そういうわけでは」
貴族制度もあるこの世界では、夫婦間に恋愛がないのも普通なのかもしれない。
「モニカはこの土地に居場所を作りたいとかって、話してただろ? 俺はここらへんに顔が利くからな。俺と結婚すれば、邪魔するやつなく研究に没頭できるし、俺としてもモニカは現場で活動する薬草師として十分だと思ってる」
「そう、なんですね」
「ずっと相手を探していたんだけどな。ちょうどいいやつどころか、外にでる薬草師すらほとんどいなかったから、諦めかけていたんだ。そこでおあつらえ向きなモニカと会った。ちょっとちっこいけどな」
フェルマーはそれだけ言うと、来たときと同じような唐突さで「さて、帰るか」と言って立ち上がる。
「もし特定の相手がいないなら、考えておいてくれ!」
そしてフェルマーは嵐のように去っていった。




