第二十八話 旅行のお誘い?
外から不意に日の光が差し込んできて、いつの間にか雨がやんでいたことに気が付く。
「あ、雨、やんでるね」
『モニカのことが気に入っただけ』
これがどういう意味を持つのかはわからないけれど、なんとなく気恥ずかしくて話をそらしたくなり、話題を変える。
「本当だな。外の様子でも見るか」
ここは日本とは違うので、雨や強い風で結構外壁が壊れたりすることもある。おばあちゃんの家も古いので、この4日間雨漏りしないかとか、いろいろ心配だった。
「あ、虹」
ドアを開けて外に出ると、分厚かった雲はだいぶ流れていき、遠くには虹もかかっていた。
家はまだ雨のしずくが滴り落ちてきているが、屋根もしっかり乗っており、外壁も無事だ。だが、庭周りの柵は倒れているし、物置の物も散乱している。
「あ~あ。片付けがたいへんそう」
そうは言ってみたが、天気と同じく心もすっきりとしていたので、いやな気はしない。
レオンも何も言わずとも柵を直すのを手伝ってくれている。
「ありがとう。レオンって、こういう作業も器用にこなすのね。軍人さんだから?」
「さあな。割と昔から得意だったとは思う」
「そういえば、さっき言っていた私を利用しようとする人たちに、貴族もいるって言っていたわよね?」
「そうだ」
「レオンって、貴族、なの?」
気になっていたことのもう一つも、勢いで聞いてみた。
「そうだ」
私にとっては気になることだったけれど、レオンは特に気にせず答えてくれた。
「レオンは貴族からも私を守ってくれてるって言っていたけれど、レオンよりえらい貴族とか力のある人たちって、いるわよね」
レオンはまた一つ、柵を立てる。柵と柵をつないでいたワイヤーもしっかりと結びなおし、前よりも強固になっているように見える。
「当然だ。というより、俺は末端貴族だからな。貴族の力で抑えているというより、軍の上のほうにいるから周りに抑えが効くといったほうが正しい。まあ、王族が出てきたら厄介だが」
「え、この国は王政なのね。レオンはダンスパーティーとかにも出たことがあるの? お姫様とか見たことある?」
王族とか、異世界らしい言葉が出てきて、ついはしゃいでしまった。
「社交パーティーは最低限出るが、ダンスパーティーには出ない。王女は体が弱いらしく、一度警備の関係で挨拶をしたことはあるが、ほとんど公の場には出ない」
「そうなのね。レオンは貴族というより軍人さんなのね」
「そもそもが武勲で爵位をもらっているからな」
「武勲?」
「モンスターを退治することを専門としていた家柄だったんだ。一地方でモンスターの大反乱を制圧した褒美として、叙勲した。騎士爵になるな」
私が一つ柵を治す間にさっさと四つ目に取り掛かっているレオンを見て、この作業は任せてしまうことにした。私は私でできることを探す。家周りの薬草の手入れをすることにした。蔦と格闘しながら話を続ける。
「すごいわね」
「この国は貴族が多いんだ」
「モンスターとの戦いが多いの? 戦争とかはないの?」
「この国は戦争の可能性が低い」
レオンとの会話はなんだかんだ言って楽しい。いつもは私ばっかりが話しているのだけれど、今日はたくさん話してくれる。この話題が好きなのかもしれない。
「なんで?」
「モンスター発生地域と大陸に広がる国々との緩衝国だから」
レオンが柵を全て直してくれた。家に入り、もう一度お茶を入れる。
そのままの流れで、レオンがこの国のことを話してくれることになった。暗くなってきたので、ついでに晩御飯も食べることに。なんと、レオンがじゃがいもの皮をむくというレアな光景を見ることができた。
「この国が崩壊すると、モンスターが各国に流れ込む。だから近隣諸国から攻め込まれることはない」
「なるほどー。あ、でもでも、そのさらに隣の国が刺激するってことはないの? この国がなければモンスターとの挟み撃ちができるじゃない」
「賢いな」
「えへへ」
珍しく褒められて顔がにやける。
「でも、モンスターの進撃が国境で止まるとは限らないだろ?」
「そっか。モンスターには国境なんて関係ないからね。自然にできた国境なら、山なり川なりあるから止まりそうではあるけど、そんな保証がなければ怖いものね」
「モンスターを日ごろ目の当たりにしない国の中には、まれにこの国を軽んじる国もないわけではない。だが、まれだ。そして、歴史書の中にあるモンスターの反乱の記録には、大陸中にモンスターが駆け抜けたと書いてある」
「大陸中……それなら、大陸の端のほうの人も一応は知っているのね」
「面白いことに、大陸の端のほうがモンスターを恐れている」
レオンは私の反応を見るようにこっちを見る。時折こういう少年っぽいいたずら顔をするのだ。
「え、なんで?」
「『駆け巡ったモンスターは、行き場を失い、海に逃れられるもの以外は行き止まり状態であふれかえった。』と書いてあった。その躯が骨となり、今も石碑のように並んでいるそうだ」
「なにその恐ろしいモニュメント……」
「その躯を日ごろ目にしているからこそ、俺たちのこの国は遠くの国からも畏怖と尊敬のまなざし、そして支援という名の、贖罪の軍資金が支払われているってわけだ」
「なるほど」
「まあ単純に、日ごろからモンスターと戦っている輩ばかりなこの国の武力にかなう国なんて、ほとんどいないってのもあるが」
「でも、そのモニュメントいつか見てみたいな」
「そうだな。モニカとなら行けそうだ」




