第二十七話 メリット
長雨からの突然のレオンの来訪に、驚いてつい泣いてしまった私。一度あふれてしまった涙は止まらず、そのまま大人なのに大泣きをしてしまった。
泣きながらもレオンを椅子に座らせ、お湯を沸かしてお茶を入れる。
二人で温かいお茶を飲んで、ようやく一息ついた。
「は~。こんなに泣いたの、子供のころ以来」
レオンはお茶を飲みながら声を出さずに笑っていた。
泣いたらだいぶ気分もすっきりした。わからないことを一人でモヤモヤ考えても仕方がない。うじうじしているのは私らしくないので、この機会に抱えていた悩みをぶつけることにした。
「そういえばレオンとこの前フィールドでばったりと会ったわよね。あんなところで何をしていたの?」
「ああ、マンドラゴラの群生地で会ったときか。言わなかったか? モニカの近辺を探ってたんだよ」
「なっ、なんでそんなこと……」
あまりにもすんなりと白状するので、どういうことなのかと混乱する。
「前に酒場でも話してた、私が怪しいって話と関係しているの? でも、私はクロだけど、問題はないみたいなことも言っていたじゃない。それもよくわからないけど」
「そうだな、モニカのためにもここはもう一度説明したほうがいいだろう」
レオンは座り直し、両肘をついて手を組む。
こういうときのレオンは、驚くほど言葉を選ぶ。でも必要以上のことは言わないくせに、聞けばきちんと答えてくれるということをこれまでの付き合いで知っている。
「モニカには何かしらの能力がある。これは会った最初のころから気づいていた」
「そんなこともわかるの?」
「ああ。実際この町にいる奴らは大なり小なり技術や才能を隠しているからな。正直その点は大きな問題ではない」
「でも監視はしてたんでしょ」
監視されていたのはやっぱり気分はよくなくて、そこははっきりさせたかった。不満な気持ちが顔に出ていただろうけど、レオンはあまり気にすることなく続ける。
「そうだ。観察対象になったわけだが、人物像自体には問題がないと結論が出た。言っただろ? モニカ自体には害がない。それは教会の人間や酒場アリアドネのマスターたちからの評価でもそう出ていたし、俺が直接この目で確かめて、同じ結論に至った」
「だったら、もう私のことは放っておいてよかったんじゃないの?」
なんとなくふてくされてしまう。そっぽ向いた私のことを、レオンはきっと笑っているのだろう。顔を見なくてもその声音でわかる。
「まあ、聞け。人からかけ離れた才能を世間は放っておかない。才能を利用しようとするやつらが出てくるわけだ」
「利用する奴ら……?」
聞き捨てならない言葉が出てきたので、ついレオンのほうに向きなおる。
「そう。冒険者ギルドや貴族連中も、この町で活躍する冒険者たちには常に目を光らせている。優秀な人間は早めに囲いたいからな」
「でも、私今までそんな人たちからの接触はなかったわよ。気づいてないだけかしら……」
「それは、俺がモニカの担当になったからな。接触をさせるわけがない」
「つまり、やっぱりレオンも私の力を何らかの方法で利用するために近づいた人の一人ってことじゃない。私は今、軍に囲われているの?」
「それも、違う」
「どういうことよ」
「軍には、『才能はあるけれど戦闘には不向き』と報告してある」
「なんで?」
「モニカを見て、軍に取り込まれるのは似合わないって思ったからな」
「……なんでそんなことを? レオンに何のメリットがあるの?」
「特にメリットはないな」
レオンはお茶を一口飲み、少し考える。
「単に、モニカの事を気に入っただけだ」
「気に入っただけ……」
「ああ。自由に生きるモニカの生き方を含めて、かかわるのが楽しいだけだ。俺も自分がこんな危ない橋を渡るなんて思ってなかった」




