第二十六話 最強でも、引きこもりたい日はある
「モニカ。相談したいことがある」
レオンにそう言われて、逃げ出したくて仕方がなかった私は、まあ、素直に逃げた。
「え、えっと、また今度ね!」
全力でごまかしてその場を撤退。夜咲草をギルドに納品して報酬を分配した後さっさと解散した。レオンは多少食い下がったが、「お風呂に入りますので!」っと言ったらさすがに何も言えなくなったようで、そのすきに退散したのだ。
魔女の家への帰り道、夕空を見ながら今日の出来事をぐるぐると考える。
別にやましいことをしているわけではない。本当のレベルが届け出のレベルと乖離しているのも悪いことをしているわけではない。でも、私がとっさに雷猪にちょっと強め火力で攻撃してしまった後のレオンのあの顔。
「薬草採集ばかりしているから、この世界の人たちの『普通の戦い方』って意外と見てないのよね」
だから、匙加減が本当にわからない。何がおかしいのかわからない中で暮らすのは、結構つらい。
「やっぱり、人とあまりかかわらずに過ごすほうがいいのかもしれないわ」
家にたどり着き、玄関脇で元気なく蔦にぶら下がっているラゴちゃんを見て、ため息がでる。
ラゴちゃんの花は一向に咲かない。おばあちゃんは気にせず住んでいていいとは言っていた。もとから私を納得させるためだけに言い出したことなのだと思うけれど、もはやこれは私の意地である。ラゴちゃんの花を咲かせて、気分よくこの新しい家に住みたい。
最近考えなきゃいけないことが増えてきて、ちょっと一人で引きこもりたくなる。
レオンの言っていた、相談に乗ってほしいことってなんだろう。そういえばレオンがラゴちゃんの土探しの時に、あそこにいたのはなぜだろう。
ラゴちゃんのことを聞きに行った相手、フェルマーは破天荒な人だったな。あの人の言っていた、魔術師の塔の人たちの質の低下は人が死ぬことになるって、どういうことなのだろうか。結局あの後うやむやなまま解散した。
「そもそも、私、帰れないのかな……」
考えないようにしていたことが、ふと頭によぎる。そうすると、もう駄目だった。
ラゴちゃんを素通りし、今は数少ない安息の地になっている魔女の家の扉を開ける。汚れた服のままなのも、今は気にすることもできずに、ベッドに倒れこんだ。
運の悪いことに、翌日からは土砂降りの大雨。さすがに外に出る気になれない降り方をしていた。
「リリィに会いに行こうと思ったのに」
人には会いたくない。でも、会いたい。矛盾する中で気軽に会える相手、リリィに会って、他愛のない会話をしようと思ったのだけど、この土砂降りの中会いに行ったら心配されて深刻な話になりかねない。
その帰り道にでも、おばあちゃんや酒場のママにも挨拶しようと思ってたのに。薬草師のおじいさんたちもこんな天気なら外にいないだろう。
煩わしい。でもさみしい。そんな気持ちを表すように、雨の日は続いていた。
大雨が降ること4日目。何かゴンゴンと音がした。雷の音かと思ったが戸を叩く音だった。
「レオン!」
戸を開けるとそこに立っていたのはレオンだった。予想外の来客に、心の準備ができていなかったせいか、涙腺が崩壊する。
「ど、どうした、モニカ。体調でも悪いのか?」
「違うの。ごめんなさい、泣くつもりなんて全然なかったのに」
ずぶぬれだったレオンを家の玄関に招き入れる。レオンは会うなり泣き出した私にとても戸惑っていた。
「なんか、誰にも会えなくて。うまくいかないことだらけだし。リリィにも、おばあちゃんにも。……レオンにも」
「なんだ、寂しくって泣いてたのか」
レオンに渡したタオルを、自分に使う前に私の涙を拭くために使ってくれた。ちょっと拭き方が雑だけど。
「その中に俺も入ってるのか」
小さくつぶやいたレオンは、珍しくちょっと笑っていた。




