第二十三話 とある薬草師のルーティン
薬草師の朝は早い。朝採れの薬草を採り逃がさないためだ。グレードアップした自前のガーデンから今日も種々の薬草を採る。
「豊作豊作」
魔女の家には中庭つきで、ここだけでレアアイテムがたんまり取れる。
ラゴちゃんの麻布を取り換え、土を変えてやる。魔素のたっぷりと入った水やりを、ラゴちゃんはじめ家中の薬草にしたら、お出かけの時間だ。
――気づけば異世界に来てから四年が経っていた。
道すがら薬草師のおじいちゃん達に挨拶。提携クエストだけだと退屈なので、今日は狩場付近の山を登って散策がてら野の花を摘む。
「マリアさん、これどうぞ」
山で集めた、美容に効果的な花で作った小ぶりの花束をマリアさんにプレゼントした。香りも良く、美白、保湿に効果的なものばかり。これを作れただけで、この世界で薬草師になってよかったと思えた、何気に力作だ。
「お風呂に浮かべてはいるとさらに効果的ですよ」
「モニカ最高!」
抱きついてくるマリアをなんとか剥がして、その足でリリィのお店へ。
あいにく今日は忙しいようで空振り。スタッフの子に、マリアにあげた花束と同じものを手渡し、リリィに渡してもらうように頼んでおく。ついでにそのスタッフにも自分用のブーケを分けてあげたら、とても喜んでくれた。
「さあ、次はどこへいこう」
あくびをしながら、往来を眺める。この道にも慣れたものだ。
「でも、ねむいな〜」
もちろん夜に採集したほうが効果が出る薬草もあるが、それには当然暗い中を歩き回るので、ある程度の装備が必要だ。夜の薬草専門部隊もあるとは聞くが、基本的には冒険者が兼業で採っているらしい。私も夜に採りに行くのは実力的には問題ないのだと思う。
「でも夜中に一人歩きは純粋に怖いしなあ」
そんな理由で、私の活動時間は基本的に日中である。そして、夜はというと……。
「レオン、お待たせ」
「別に待っているわけじゃないんだが」
レオンのいる居酒屋ーーアリアドネだ。
二階の下宿場を出た後も、ここには定期的に晩御飯を食べに来ている。酒場とは言うが、ごはんをメインでやってくる人も多い、そんな場所だ。
ここでまた情報収集がてらレオンと話をして、ご飯を食べるのが私の日課になっている。天気が悪くなければ毎日来ているかもしれない。この町は自炊をしない人が多いので、料理代も格安だ。
(それに、一日中誰とも話さないでいると気持ちが滅入るのよね)
レオンは別におしゃべりをするわけではないが、聞けば返してくれるし、たまにぽつりぽつりと身の回りの出来事を話してくれる、こともある。ほぼプライベートではなく、差しさわりのない範囲での仕事上の出来事を、だが。
こちらの情報をこぼしすぎない程度に、今日もいろいろな話題を振った。モンスターの発生状況、町での流行病、お姫様の体調不良、小さなところでは魔女のおばあさんの話題。
「レオンも魔女のおばあちゃんのこと知っているのね」
「ああ。この町の安全確保も俺の仕事のうちの一つだからな。変わっている奴がいたら一応声をかけている」
「ああ、私からするとこの町は変わり者だらけなような気がするけど、その中でもおばあちゃんって変わっているものね。わかる気がするわ」
「お前がそれを言うのか」
「……ってことは、レオンは私も変わっているって思ってるってこと?」
声をかけてくれたのも、その一環なのかもしれないと不意に思い当たる。つまり、毎日私は話しやすくて気の合う飲み仲間だと思っていたのに、レオンのほうはそうではなかったのかもしれない。
途端に胸がきしんだ。聞きたいけれど、聞いたらこの関係は最後かもしれない。そう思うと、聞く勇気が持てなかった。




