第二十二話 苦い、話
「レオンよ」
その言葉は何となく予感していた。
やけによい身なり。酒場で騒ぐ他の軍人のレオンへの接し方。軍服の違い。ただの平の軍人ではないとは思っていた。
日課の情報収集をしていたとき、軍の上層部は貴族でしかなれないと聞いたことがあった。上層部がどこから上を指すのかは知らない。でもなんとなく、見ていればわかってくるものもある。
「それ、詳しく聞きたい」
リリィの手を握ってみたものの、もう休憩時間が終わってしまう。迷惑はかけられない。私が必死な表情をしていたのだろうか、リリィはにっこり笑った。
「それじゃあ、おしゃべり会第二弾を開催しましょう。待ち合わせは酒場ね」
「え、こんなお昼の時間帯に空いてるの?」
「ええ。出るのはお酒じゃなくてコーヒーだけどね」
この時間はまだレオンも勤務中だろう。リリィと約束を無事取り付けられた私は、気分を切り替えるために一時帰宅することにした。
「時間が空いちゃったな〜」
ちょうどいいので、ちょっと働くことにした。
狩場は初級エリアから抜け道を使って進んだ先、中級エリア。先日レオンとばったり出くわした、マンドラゴラの土を取った場所の近くだ。
「そういえば、レオンはなんであの時あそこにいたのかしら」
ラゴの世話やらフェルマーとの出会いで頭から抜けていたが、考えるほど謎が深まる。
「まあ、軍の作戦か何かだったのかもね」
そうつぶやきながら、提携クエストをこなす。
提携クエストとは、窓口に行かなくても定期的に自動契約できているクエストだ。薬屋で定番で使われる材料や、軍などの大口顧客がいる材料などの採集クエストが対象。実績がある冒険者が、窓口で受注しなくても受けたことになる制度だ。
私も納品の品質が良く、定期的にクエストをこなし、問題を起こしていない優良薬草師なので、最近になって提携クエストを契約することができた。窓口に行かずとも勝手に事前にもらったリストにある植物を採集すればいい。納品も、専用の裏窓口から回収してもらえる。
冒険者ギルド側は手続きの手間が省けるし、冒険者も安定した仕事ができる。とても便利な制度だ。
おかげで最近は窓口に行くことがめっきり減った。
「マリアに会えないのはさみしいけどね〜」
今日も必要量をサクッと見繕い、納品。ついでにちょっと味見した木の実は苦かった。
「久しぶりにコーヒーを飲みますか〜」
今まで疑問に思っていたことがわかるかもしれないワクワクとソワソワ。私は昼の酒場へと向かった。
「え、モニカ、フェルマーさまに会ったの?」
リリィ曰く、フェルマーはなかなかに人気のある冒険者もとい薬草師らしい。確かにあの顔立ちと性格ならわからなくもない。
「ああいう生き方もありかもって、一瞬思ったわ。結構稼げるみたいだし」
「そうね。モニカなら実力は十分すぎるほどあるわけだしね」
「でも、平穏に暮らしたいのよ〜」
リリィとのおしゃべり会第二弾は、なんとなく本題を避けて最近の出来事の話題から始まった。
「そうね〜。あの生き方は派手だわ。フェルマー様、定期的に集会上で大演説をしてるわよ」
「そうなのね」
無難な話から始めたつもりだけれど、リリィは顔を傾けてこちらを伺う。
「それで? レオンがどうしたの?」
急に核心だ。
「魔女の家に引っ越してから、家に送ってもらったことがあって」
「え、そうなの? 進展してるじゃない」
「一緒に組まないかとも言われた」
「きゃー、それで、それで?」
「そういえば、フェルマーにも言われたわ」
「え〜! なにそれなにそれ。それも詳しく聞きたい」
リリィはここ最近で一番のはしゃぎようだ。
「あとでね。でも、レオンは貴族かもしれないって、思ってたから。そして、ほんとに貴族なんでしょ?」
返事をしづらそうにしているりりィ。
「いいのよ。何となく分かってたんだから。そして、私はこっちの世界に来て、これでも必死で生きてきたの。今までの暮らしとは全く違う価値観で、ルールで」
心配そうしながら黙って聞いてくれているリリィに、ニッコリ笑う。
「ここにきてもう一度、まったく知らない世界にいくのは、嫌なの。だって、万が一貴族の世界に入ったら、いろいろとルールがあって、価値観も違う。それに合わせなきゃいけないし、レオンと……まあどうなると決まったわけでもないのにこんな事言うのはなんだけど」
そして、リリィの手を握る。そして、告げる。
「私は今のこの環境を手放す気はないわ」




