第二十話 壊したい、魔術師の塔
フェルマーは冒険者を雇っているのではなく、彼自身も冒険者として行動しているらしい。そのため他の冒険者たちとも立場は対等で、その客人である私に対しても気さくに話しかけてくれた。
「お嬢ちゃん、やるなあ」
「たった一人で、浅いとはいえ狩場に来られてる時点で大したもんだ」
仕事中に押しかけたのにも関わらず、ガハハと笑いながら冒険者のおっちゃん達は私を歓迎してくれた。
フェルマーも、私がある程度野外活動派だと理解してからは、最初のきつい態度も軟化していろいろと教えてくれるようになった。
しかしながら、時折「町の薬草師は……」とか見下すような発言が出てくるのは止まらなかったので少し微妙な気持ちだ。
私の知り合いである薬草師のおじいちゃんたちは皆気のいい人ばかりなので、自分が悪く言われなくなったからといって気分のいいものではなかった。
「……フェルマーさんは何でそんなに町の薬草師を毛嫌いしてるんですか?」
とうとう思い切ってそう聞いてしまった。嫌がられるか、それともはぐらかされるかと思っていたのだが、予想に反して『よくぞ聞いてくれた』という顔をされる。
「俺はな、『かっこいい薬草師』のイメージを普及中なんだ」
胸をそらして、そう言う。にやりと笑うその顔は、いたずらっ子のようだった。
フェルマー曰く、薬草師はもっとかっこいいと思われていい職業なのだそうだ。そして地味な職業だと思われる一因が、町の付近を拠点としている薬草師。チマチマと小遣い稼ぎをしているのがよくないらしい。
「俺は旅芸人の一座に生まれてな。ある時身内がモンスターから猛毒を受けてな、絶体絶命ってときがあったんだ。モンスター自体は倒せたんだが、毒が抜けなくてな。そんな時に、流しの薬草師に会ったんだ」
昔話を始めたフェルマーは、少年のように目を輝かせていた。
「その人はな、即席で解毒薬を作っていったんだよ。いくつかは手持ちの薬草を使ってたけど、現地で手際よく目当ての薬草を採っていってな。しかも、モンスターの根城に生える葉を採るために、そこのモンスターも簡単に退治したんだよ」
まるで我が事のように胸を張る。
「俺は薬草師が戦うのを初めて見た。人を救う仕事な上、かっこいいんだ」
なるほど、たしかにフェルマーの戦う姿はかっこよかった。
現在薬草師として働いている人たちは、いくつかのグループに分けられる。
まず、初級エリアで無難に薬草を採集している人たち。おじいちゃん薬草師が多い。
「アイツラは町人の目につく場所にいるくせに、地味なことばかりしてる。薬草師のイメージを悪くするやつらだ」
次に冒険者を雇ってフィールドワークをする薬草師。
「ある程度金が無いとできないやり方だ。もともと金持ちの家に生まれた奴らが多い。金があるのに危険地帯に行くわけだから、変わり者が多いな」
また、自ら冒険者になって薬草を採集する者もいなくはない。
「だいたいは本業が冒険者で、薬草に興味を持ったか、戦闘力が低くて薬草採集しか仕事を回されなくなったかだな。俺みたいに薬草師として戦うって奴はあまり見かけない」
フェルマーのように薬草師が現地で活動すれば、薬草に詳しい者が直で目で見て確認するので、希少種を集める確率が上がる。しかし、研究者肌の人間が多いので、薬草師は格闘に向かないものが多い。
「じゃあ、フェルマーさんみたいに戦う薬草師さんが一番稼げるんですね」
そう言うと、フェルマーは今まで見た中で一番嫌そうな顔をした。
「そう思うだろ? でもな、現実は違う。王都の真ん中で、塔から一歩も出ない魔術師連中お抱えの薬草師が一番儲かるんだ。金を出すのが王侯貴族だからな」
「あ〜。そういうものなんですね」
「しかも、そういういわゆる『魔術師の塔』にはいれるのは、ほとんど貴族だけだ」
貴族。ファンタジーのような世界なので、あるのかもしれないと思っていまた、その制度。しかも、なんだか壁を感じる響き。
普段の生活では関わることのない存在なので、実感が乏しい。貴族の可能性があるかもしれない人物は、一人くらいしか思い浮かばない。
(問題はないと思うけど、一応あとでこの世界では貴族制度ってどのような制度か調べておこう。知らないでタブーに触れてたりしたら大変)
「でも、『魔術師の塔』って、響かっこいいですね。その人たちはイメージ悪くないんじゃないですか?」
「いや、世間的には知らないが、俺にとっては最悪だ」
フェルマーの目が細まる。
「やつらは現場に出なさすぎる。机上の空論にとりつかれて、学術的知識も昔に比べたらどんどん低下してるんだ。あんな状態じゃ、……いずれ人死が出る」




